第46話:小鳥ロボ再び!地獄の井戸端会議と自業自得のレース提案。~逃げるために煽ったはずが、乙女二人の技術者魂に火をつけた件~
戦車の外では、相変わらず小鳥ロボたちがさえずり、楽しげに歌っていた。
攻撃を仕掛けてくる様子もなく、ただ愛らしく羽ばたいている。
「……いったい、あのお馬鹿さんは何をしたいのかしら?」
リサは肩をすくめ、カオルが淹れてくれた紅茶を一口すすった。
帝国が誇る最新鋭戦車『マウス』と、リサが心血を注いだ
三〇〇体のドロイド部隊。
それに対し、あちらはただの「インコ」だ。
「前回はインコの超音波で攻撃されたけど、今回はそうでもないらしい。
リサ、念のためにドロイドたちに『掃除』をさせてよ」
「承知いたしました、カオル様」
ハッチが開き、ドロイドたちが一斉に魔弾銃を構える。
無数の光弾が空を切り裂き、小鳥ロボたちはパッと散って距離を取った。
「なんだ、ただの偵察用だったのかな」
カオルが安心したように椅子に深く腰掛けた、その時だった。
<< ピピッ。ピピピピ……! >>
一羽の青い小鳥ロボが、ひときわ高く鳴いた。
それを合図に、周囲の小鳥たちが一斉に「合唱」を開始する。
――パリン。パリンパリン!
乾いた、それでいて背筋が凍るような音が周囲に響き始めた。
それはまるで、巨大な氷が割れるような、あるいは重厚な鉄板が「避ける」音。
「……え? 識別信号が、次々と消えていく……?」
「やはり、超音波攻撃を仕掛けて来たか。リサ、これを使ってみて」
カオルが「小鳥用ちょーる」を手渡す。
リサがちょーるを受け取ると、ハッチから身を乗り出した。
視界に広がっていたのは、悪夢のような光景だった。
小鳥たちの「コンサート」の前で、あんなに頑強だった
ドロイドたちが、ガクガクと震えながらうずくまっている。
「な、何が起きてるの……? 魔法? あれは破壊の呪文なの!?」
「……いや、多分あれは超音波攻撃だよ。
粒子を振動させて、結合を内側からバラバラにしてるんだ」
カオルが冷静に呟くが、リサにはその言葉の意味が全く理解できない。
この世界に「超音波」や「素粒子」の概念など存在しない。
リサの目には、ただ小鳥が歌うだけで無敵の兵器が塵に変わる、
不条理な神の奇跡に見えていた。
やがて、三〇〇体のドロイドは全滅した。
役目を終えた小鳥たちは、満足そうに一斉に飛び去っていく。
リサが「小鳥用ちょーる」を、あたりに振りまいたが、
今回の小鳥ロボは、奥様ばかりで、ダイエット中という設定だった。
みんな、気になるようだが、おしゃべりを止めることはなかった。
「え? 私たち(戦車)を攻撃しないの……?」
「……いや、リサ。本番はこれからみたいだよ」
◇◆◇◆◇
前方の平原から、もうもうとした砂煙が近づいてくる。
現れたのは、マウスと同様に「馬が引いていない」自走戦車だった。
「……私以外に、自動戦車を作れる人間がいるなんて」
リサが絶句する中、その戦車のハッチから一人の少女がひょいと顔を出した。
カオルから何度も聞かされていた天才、オトハ・ブルーノだ。
「やあ、久しぶりだね、オトハ。相変わらず派手な挨拶だね」
カオルは飲みかけのティーカップを片手に、余裕を装って挨拶した。
「今日はあの『巫女さん(サクラ)』はいないのかい?」
「えぇ、別の場所にいます。
……カオル様、また私の魔道具をいっぱい壊しましたね?
おまけに『ちょーる』まで出しちゃって。あれ、一度あげると癖になって
他の燃料を食べてくれなくなるんですよ! 迷惑なんです!」
ぷんぷんと怒るオトハ。
だが、その瞳はカオルの隣にいるリサを鋭く射抜いた。
一方のリサも、偵察で見た「船」ではなく、
開発者本人を目の当たりにして、内なる技術者魂が疼き始めていた。
「子猫の爆撃機は全て破壊しました。あとは、その戦車だけですね」
◇◆◇◆◇
(……まずい。キキョウも竜族もいない今、オトハ一人なら
叩けると思ったけど、あの戦車は未知数だ)
カオルは冷や汗を拭った。
今は勝ち負けよりも、一度退いて態勢を立て直すべきだ。
そのためには、オトハの「興味」を逸らして一撃を加え、その隙に逃げるしかない。
「よし……ねぇ、オトハ。
戦うのもいいけど、今回の勝負は『レース』にしないかい?」
「……れーす?」
オトハが首を傾げる。
リサも「何ですかそれは」と詰め寄った。
「ルールは簡単。ここから同時にスタートして、あそこの丘の先を目指すんだ。
先に到着した方の勝ち。どっちの魔道具が、真に優れた『機動力』と
『技術力』を持っているかを決める勝負さ。
……これからの魔道具開発において、最高に良い材料になると思わないかい?」
『魔道具の性能を比べる』
『技術力の勝負』
『最高の結果材料』
その魔法の言葉は、オトハの胸に強烈に突き刺さった。
そして同時に、隣にいたリサの目にも、見たこともないような「ガチ勢」の火が灯った。
「カオル様……! 素晴らしい提案です!
私、カオル様のために、この『れーす』というもので、
私のマウスが世界一だと証明して見せます!」
「あ、いや、リサ、そうじゃなくて……勝負というか、隙を見て逃げるための……」
「望むところです! 私の戦車の性能、甘く見ないでくださいね!」
オトハも身を乗り出し、魔導エンジンを最大出力で吹かし始めた。
「さあカオル様、合図を! 私、本気で行きます!」
(……終わった。これ、途中で『やっぱり逃げる』なんて言える雰囲気じゃない……!)
カオルの思惑を置き去りにして、二人の天才美少女による、
世界初の「大陸横断魔導戦車デスマッチ・レース」の幕が切って落とされようとしていた。
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