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第47話:【悲報】僕の立てた完璧な弱肉強食戦略、味方の「ガチ勢」のせいで詰む。~戦車雲を見上げながら、遠くに逃げたいと願う午後~

(どうして、こうなったーーー!!)


 カオルは、右手にスタートフラッグを握りしめたまま、頭を抱えていた。


 僕の計画は完璧だったはずだ。

オトハのアイディアを乗っ取って、子猫ドロイドによる爆撃攻撃。


 マスコミ支配による、絶対的価値観の操作。


 そして、弱い国から刈り取っていく、弱肉強食の戦術。

唯一のライバル国のロンドラ連合王国を内面からぶち壊す。


 本来なら今頃、ロンドラの王宮で優雅に紅茶をすすっていたはずだ。


 それなのに、味方のドロイドは目の前で全滅。

さらに、僕たちは敵におびき寄せられ、敵陣のど真ん中で孤立している。


 最後にワンチャンを狙い、魔道具オタクのオトハをだまして、

戦車レースに持ち込むことに成功したが……。



「カオル様!私、絶対にこの人には負けません。最後まで見ていてください」

 

 こちらを見ながら、リサが笑顔満面で手を振っている。


「(いや、最後まで見ていたらダメだろ!僕たち、途中で逃げるんだよ)」


 誤算が一つ。いや、二つあった。


 敵のオトハだけでなく、味方のリサの技術者魂にまで火をつけてしまったこと。

そして、この二人が「適当な勝負」で満足するようなタマではなかったことだ。


「さあ、カオル様! 私の『マウス』の真髄、お見せいたしますわ!」


「望むところです! 私の戦車の生きざまと、根性見せてあげますよー!」


 爆音を轟かせ、二台の鉄塊が草原を削りながら飛び出していく。


 もはやカオルの声など届かない。

カオルは冷や汗を流しながら、遠ざかる二つの砂煙を見送った。


 カオルは前回オトハと戦った時に、とにくヤバいと感じている。


 無限の魔力、チート級の剣術……


 そして、魂の奥に垣間見えた「狂暴かつ残虐」な姿……。

カオルは転生者としてオトハの異常性に感づいていた。


(とにかくレースで粘って戦いを引き延ばそう。その間にシルバーランド軍や、

本国の中央軍が駆けつけてくれるはずだ。頑張ってくれ!リサ )



◇◆◇◆◇


 レースの序盤、二台は互角のデッドヒートを繰り広げていた。


「なかなかやるわね。さすが「効率重視」の帝国製、無駄な挙動が一切ないわ」


 オトハは操縦桿を握り、マウスの滑らかな加速に感心したように呟く。


 対するリサも、冷徹な計算で応戦していた。


「な、なんなのよあの戦車、無茶苦茶なパワーじゃない!

魔力燃費なんて概念、あの子の辞書にはないのかしら。……でも、速いのは確かね」


 最初の難関、大河が目の前に広がった。

 強風で白波が立つ激流だ。


 先に動いたのはリサだった。

彼女は冷徹に杖を振り、高度な風魔法を展開する。


「ダウンフォースを反転……気流クッション、展開!」


 マウスの車体下部から猛烈な風が噴き出し、

巨体が水面から数センチ浮き上がる。


 ホバークラフトの要領で、

波の影響を受けずに最短ルートを滑走していく。まさに理論の勝利だ。


 一方のオトハは、不敵に笑って棚から

「キキョウ謹製・高密度魔力バッテリー」を取り出した。


<< ――ドォォォォォン!! >>


 戦車の後部から、青白い炎が爆発的に噴出した。


 オトハの戦車は半分浮き上がり、右に左に激しく揺れながら、

水面を「滑る」のではなく「叩き壊しながら」進んでいく。


 リサが波を避けて進む横で、オトハは巨大な波ごと粉砕して直進した。


「は!? 何よあの無茶苦茶な走りは! 物理法則への冒涜だわ!」



◇◆◇◆◇


 川の対岸。その光景を高台から眺める二つの影があった。


 一人は、漆黒のドレスに身を包んだサクラ。


 そしてもう一人は、インテリ眼鏡を指先でクイと上げ、

隙のないスーツに身を包んだ長髪の美女――サクヤ。


< あら、サクラさん。お久しぶりです。

相変わらず、粗野な人間に肩入れをなさっているのですね >


< 人間を滅ぼそうとしたアンタが、人間を加護するなんて、

アンタも変わったわね、サクヤ >


 上級天使・サクヤ。


 かつて美女コンテストを総なめにし、

その後は、神界の事務を徹底的に効率化し、天使たちの仕事を奪った

「OLの皮を被った冷徹エリート」。


 かつて人間界を創造した神に対し、

「効率が悪いから竜界を処分すべきだ」と進言し、

サクラの怒りを誘発させた張本人だ。サクラ同様に天界随一の嫌われ者だ。


< 兄様の秘書になったって噂は本当だったのね。ヤヨイが

『お兄様が変わった』って言ってたけど、全部アンタの仕業じゃないのかしら >


< 人聞きが悪いですね……。ヤヨイさんも口が軽い。

私はただ、ルシフェル様の覇道を最適化しているだけです >


< ふーん、覇道を最適化、ねぇ >


 明らかに殺意のこもった目でサクラがサクヤを睨む。

殺戮の天使ともいわれるサクラの視線をもろともせずにサクヤが笑う。


< ……ところで、あのオトハさんでしたっけ? 優秀ですが、無駄が多すぎます。

……うちのリサちゃんの下僕にして、効率を一から叩き込んであげましょうか?>


< ……アンタ、本当にオトハの正体に気づいてないのね。

そういう意味じゃ、あのバカコンビ(ユヅキ・ヤヨイ)の方がまだマシだわ>


 サクラは鼻で笑い、戦場を見据えた。



◇◆◇◆◇


 川を渡りきったところで、オトハがさらにスロットルを押し込んだ。


「リサさん、なかなかやりますね! 少し『気合』を入れましょうか!」


 魔力出力がリミッターを解除し、二倍、三倍へと跳ね上がる。

だが、あまりの爆発力に、戦車の挙動が制御不能に陥った。


「あ、あれ……? ちょっと上がりすぎ――きゃあああああ!?」


 次の瞬間、オトハの戦車は水面を蹴り上げ、

そのまま真上――空めがけてロケットのように飛び上がってしまった。


「……あらあら。オトハさん。ゴールは空じゃありませんよ?」


 リサが眼鏡を光らせ、冷たく言い放つ。


「これだから、効率を無視した『感情の魔道具』は困るんですよね」


「あちゃーーー……! オトハ、頼むよもうーーー!!」


 サクラが頭を抱え、絶叫する。



 その頃……。

遠くメディーナの防衛線で双眼鏡を覗いていたシバが、呆然と呟いた。


「……キキョウはん。あれ、戦車が空飛んでますわ」


「まさかー。

いくらオトハでも、戦車を空は飛ばさないでしょ……って、あ、ほんとだ」


 どこまでも広がる青空に、白い線を描いていく戦車。

そして、間の抜けたオトハの絶叫。


 カオルは同じ空を見上げて、大きなため息をついていた。


(あ……飛行機雲。いや、あれは、戦車雲だなぁ。

僕も、あの戦車に乗って、どっか遠くに逃げてしまいたい……)

最後まで読んでいただきありがとうございます!


作品を読んで「面白そう」と少しでも思っていただけたら、

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