第43話:悪魔の手(デバフ)vs空間跳躍(ワープ)。~帝国の誇る「魔導戦車マウス」が、子犬の偽物に踊らされる~
ロマリオ帝国技術開発局の一室。
リサがカオルの机の前で、怒りを爆発させていた。
「え? 私の魔道具が小学校や病院を爆撃した? そんな……、
軍事設備だけをピンポイントで攻撃するはずだったんじゃないですか?」
リサの問いに、カオルは申し訳なさそうに肩をすくめた。
「すまない。僕が目を離した隙に、
前線が手柄を焦って勝手に動いてしまったんだ」
「子供や病人に怪我は?」
「……それはなかったと聞いているよ。本当に運が良かった」
カオルの言葉を聞いてリサはホッと胸をなでおろした。
彼女にとって戦争とは、互いの武器を競うもの。
何の関係もない子供や病人が、その競争のために傷つくことが
リサは何よりも許せなかった。
カオルも基本的に価値観はリサと同じだ。
しかし、面白いイベントが盛り上がるなら別である。
彼はイベントのためなら、多少の犠牲者はやむを得ないと考えている。
カオルにとって、この世界は、あくまでもゲームの中の世界なのだ。
◇◆◇◆◇
カオルとリサの間に、微妙な沈黙が漂う中、
司令本部に警報が鳴り始める。
これは、国籍不明な者が国境を侵犯した時の警報だ。
「局長、現地の知らせによると、メディーナ、ロンドラ、
サンブルグの三方向から小隊クラスの飛行体が領内に侵入したようです。
予想される攻撃目標は、ここ首都のニュードレスデンです」
「ふーん、また懲りずに攻めて来たのか、
本当に彼らは「無駄」という言葉を知らないんだね」
「は、その通りです。今回も以前の円盤でしょう。
また、ココに来る前に撃ち落とされるものかと……」
部下の言葉にカオルが大きくうなづく。
帝国はオトハの円盤の登場で、歴史上初めて領土を爆撃された。
4000年の歴史で始めたの汚辱である。
空からの侵略に対して全く備えていなかった帝国は、
それを反省し、全国に空の防衛ラインを整備した。
当時、積極的に採用されたのが、リサの子猫迎撃部隊である。
現在、国境から首都までの間には、5重の結界が張り巡らされている。
仮にそれらが突破されても、リサの「子猫迎撃大隊」が待ち受けている。
万全の構えだ。万が一にも、ここまで敵がたどり着くことはない。
「今回は手ごたえがあると、楽しいんだけどね。リサもそう思うでしょ?」
「はい。前回の子猫の円盤は、あっけなさすぎでした。
五分五分は無理でしょうけど、せめてもう少し相手になると助かるのですが」
「そりゃ無理ってもんだよ。リサに匹敵する魔導士なんて、
この世にいるわけがないじゃん」
「カオル様、それはほめ過ぎです、うふふ」
<< ブーブーブー! >>
再び、アラーム音が技術開発局の建物にこだました。
「おーっと、今度は手ごたえありそうだよ、リサ」
「はい。ちょっとは楽しめそうですね」
カオルは嬉しそうに頷くと、壁に向かって杖を向けて投影魔法を展開した。
リサが嬉しそうに映像をのぞき込む。
帝国上空に現れたのは、以前の円盤ではなく、
意外にも奇妙な「立方体」の群れだった。
「また性懲りもなく……。爆撃用ドローン部隊かー」
がっかりとするカオル。
「もう少し頭を使って来るかと思ったら、まさかの正面攻撃とは。
ほんと、おバカさんの集まりなんですね」
リサも冷笑しながら、カオルの横で紅茶をすすった。
しかし、リサの手は途中から震えて動かなくなった。
目の前に映っている立方体が、これまで見たことがない
物理法則を無視した動きを見せ始めたのだ。
いや、正確に言うと、その様に感じた。
正確には、立方体の動きを目で追うことができなかった。
「移動の軌跡が見えない……? 加速しているの?いえ止まってるの?
いや、空間を跳んでいるのかしら!?」
カオルが慌てて、映像をスローで再生する。
だが、スローでも、まったく動きをとらえられない。
そこで二人は映像を止めて飛行体の動きを確認することにした。
するとそこには、愛らしい子犬の顔の絵がドアップで映っている。
「……子犬? 子猫の次は、子犬なの?これも魔力探知を防ぐ結界?」
リサが頭を抱えている。
二人が目を離している間に、
ライブ映像の中では、帝国側の子猫の迎撃機が次々と火だるまになっている。
たった一個小隊の「立方体」が、帝国の誇るドローン網と、
結界たちを紙細工のように切り裂いていく。
◇◆◇◆◇
「僕が出るよ。リサ、例の『魔導戦車マウス』の準備を」
「カオル様、あれはまだ試作品です!」
「大丈夫。僕はいつだってキミを信じているからね」
そういうと、カオルがリサの頭にナデナデをした。
カオルの言葉に顔を赤らめながら、
リサが「超巨大型自立戦車」の魔石に魔力を込め始めた。
「カオル様、魔導馬戦車も全軍、出撃可能らしいです」
「うん、そっちを先に出撃させておいて、すぐに追いつく」
首都ニュードレスデンの街では1000両の魔導馬戦車と、
魔導士部隊が一列に並んで空をにらんでいる。
対する立方体の「犬のお巡りさん」は、たった10体。
だが、このたった10体に攻撃を当てることができない。
制空権は完全に、オトハたち連合軍が握っていた。
このタイミングで、連合国側の地上軍が現れると、
帝国は圧倒的にピンチに立たされる。
「みんなー、お待たせ――」
「おぉ、カオル局長!」
1000両並ぶ魔導馬戦車の前に、巨大な鉄箱に乗ったカオルがあらわれた。
それは、この世界で初めて馬車が引かない戦車だ。
リサが発明したもので、魔力をタービンで爆発させることで駆動する。
初めて見る自動式戦車の登場に、兵士たちが目を白黒させている。
「みんな、さすがに苦労しているみたいだね。
僕がデバフでスピードを緩めるから、好きに撃ち落としていーよ」
「おぉ、局長自ら悪魔の手を披露していただけるとは……。
いいか、お前らこれが本当のカオル様のチカラだ」
兵士が「悪魔の手」と呼んだ、デバフ。
これについて、少し説明が必要だろう。
この世界では、魔法の特性として攻撃系、防御系、加護・治療系の
魔法しか存在しない。いや、カオルが登場するまでは存在しなかった。
そこへ異世界からカオルが現れたことにより、
バフ、デバフの概念が生まれ、魔法体系に組み込まれるまでになった。
それは10年前のことで歴史は浅い。
初めてカオルのデバフを見た者は、カオルの敵が、いきなり遅くなり、
魔力がおちていく姿を見て、悪魔の手につかまったと勘違いした。
何人もの聖魔法士がカオルと対峙したが、誰もかなわない。
やがて、カオルは軍にスカウトされ、新魔法関連の技術開発を
任されるようになった。
「それじゃ、後は頼むねーーー」
そういってカオルが杖を振ると、お巡りさん部隊の動きが遅くなっていく。
<< ドゴォォォォン!! >>
総勢3000による魔導攻撃が始まった。空一面に爆炎が広がる。
直撃を受けた3つの立方体が、ボロ雑巾のように地面へ叩きつけられた。
◇◆◇◆◇
リサが興奮を抑えきれず、落ちた立方体を回収しに走る。
「……これが、世界を騒がせた魔道具の正体?」
どんな高度な術式が、どんな希少な魔石が使われているのか。
技術者としての好奇心が弾けたが、立方体をこじ開けたリサは、絶句した。
「……なによ、これ。中身が、空っぽ(スカスカ)……?」
そこには複雑な回路も、高価な魔石もない。
あるのは、殴り書きされたオトハの似顔絵と、その横に大きく書かれた――
『はずれ ♡』
という文字だけだった。
そしてその裏面には、さらに一言。
『魔導効率、最悪ですね。やり直し!』
「…………っ!!」
リサのプライドが音を立てて砕け散る。
「カオル様! 引いてください! これは罠です!!」
叫ぶリサの耳に、本物の「子犬のお巡りさん」たちの、
無慈悲で元気な遠吠えが聞こえ始めた。
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