第41話:空飛ぶ子猫は「悪魔の印」? ――帝国のエリート局長が困惑する中、恋する天才乙女の暴走により、世界がにゃーちゃんの恐怖に包まれる。
「……にゃーにゃー」
「おい、今、何か聞こえなかったか?」
「いや、何も。猫でも紛れ込んだんじゃないか?」
ここは帝国の主要都市ペドロから300キロ離れた、最重要軍需工場。
ネズミ一匹通さぬ厳重な魔力探知が張り巡らされ、
兵士の間でも場所を知る者が少ない帝国の「鉄壁の拠点」だ。
「……にゃーにゃー」
「……やっぱり聞こえる。上か?」
警備兵が空を見上げると、そこにはふわふわと浮かぶ「変な皿」があった。
底面には、気の抜けるほど可愛い子猫の絵が描かれている。
「なんだあれ? いたずらか――」
その言葉が、彼らの最後の記憶となった。
刹那、轟音と共に工場が爆発。
一瞬の出来事に、消火に当たる兵士たちも、
空を舞う「皿」を呆然と見上げるしかなかった。
「……空飛ぶ皿? 猫だと?」
後日、報告を受けた検査官は呆れてもみ消した。
「君たちは疲れている。
猫が空から降ってきて工場を爆発するなど、非効率な冗談はよせ」
だが、ただ一人――
天才開発者・リサだけは、そのもみ消された報告書を凝視していた。
◇◆◇◆◇
「今日も全員戻ってきたわね、えらいえらい」
メディーナと帝国の国境近くにある前線基地で、
オトハは、空から帰還した「にゃーちゃん部隊」を、まるで愛猫を
迎えるように撫でていた。
既にオトハの愛猫は、帝国の軍需工場の半分を沈黙させた。
魔力探知にかからず、突然現れて突然火の海にするため、
「にゃーちゃん」は、帝国にとって悪夢そのものだった。
「……オトハはん、本当にあんたは天才やな。
でも、あんまり嬉しそうやないな」
シバの言葉に、オトハは静かに首を振った。
「私は、ただ、効率だけで無理やり働かされている
帝国の魔道具たちを救いたいだけなんです。
犠牲者が出ないと、もっといいんですけどね、ねぇ、にゃーちゃん」
だが、その願いは意外な形で踏みにじられることになる。
帝国の首都近くにある「新型魔道具研究所」を狙った翌日。
いくら待っても、にゃーちゃんたちは帰ってこなかったのだ。
「……設定が狂ったのかな。それとも私の設計に、ミスがあった……?」
オトハは一晩中、空を探し続けた。
しかし翌朝、スパイからもたらされた情報が、彼女の心を粉々に砕いてしまう。
『――にゃーちゃん部隊、敵の迎撃用魔道具により全滅。
空飛ぶ迎撃機が、全十体を撃墜したとのことです』
「……そんな」
言葉が詰まる。オトハにとって、
魔道具の喪失は友人を亡くしたのと同じだった。
「私が、もっと注意していたら……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
ボロボロと涙を流し、立ち上がれないオトハ。
その日以来、オトハは部屋に閉じこもってしまう。
◇◆◇◆◇
オトハが沈黙している間も、戦火は広がった。
帝国の「空飛ぶ魔道具」が他国に現れ、恐るべきスピードで街を焼く。
< いつまで、そうしているつもりだ >
部屋に閉じこもって1週間。
さすがにサクラがしびれを切らして、オトハの前に現れた。
「「 だって、もう魔道具を苦しめたくないんです。
戦場に行かなければ、にゃーちゃんたちも壊れずに済んだんです 」」
< いや、そうではないだろう…… >
あまりのオトハの勢いに、サクラも言葉に詰まる。
そこへ、キキョウの声が、扉越しに部屋に飛び込んできた。
「シルバーランドの学園が空襲されたわ。
……オトハ、あんたのブリットちゃんも、直撃して粉々になったそうよ」
オトハの部屋から「ガタッ」という音が漏れてきた。
「……ブリットちゃんが?」
< お前が泣いている間にも、多くの魔道具が壊されていく。
なら、立ち上がって被害を少なくするのが、魔導士の役割だろ! >
サクラの一喝と同時に、扉が勢いよく開く。
そこには、瞳に黄金の光を宿したオトハが立っていた。
「……サクラさん、やってやるわ。
一つでも多くの魔道具を救うため、私は最強の『救世主』を作るよ」
作業場に駆け込んだオトハは、ケインが持ち込んだ
「敵機のピンボケ写真」を食い入るように見つめた。
「長細い機体、前後の羽……ふーん、面白い形状ね。
空気抵抗を最小限にしてスピードを稼ぐ、カオルくんらしい『正解』の塊だわ」
オトハはニチャァと笑い、ペンを走らせる。
「これを作った人、なかなか、やるじゃない。
なら、私はその『効率』を、『可愛さ』と『萌え』で上書きしてあげる」
◇◆◇◆◇
同じ頃、帝国の技術開発局。
リサの部屋には、撃墜した「にゃーちゃん」の残骸が運び込まれていた。
「……すごいわね。これを作った人。
魔力探知にかからない技術が、アタイの計算を越えている」
リサは不眠不休で分析を続け、一つの「答え」に辿り着いた。
それは天才ゆえの、致命的な斜め上の答えだった。
「きっと、この子猫の絵に秘密があるのよ。
この配置、この色彩……これこそが探知を弾く『ステルス魔法陣』なのよ!」
翌日、リサは完成した新型爆撃機をカオルに見せた。
空気抵抗を極限まで減らした流線型のボディ。
だが、その両翼には巨大な「にゃーちゃん」が描かれている。
「……リサ。可愛いのは認めるけど、それ、君の趣味なのかい?」
カオルが呆れ顔を、必死に抑えながらリサに訪ねた。
しかし、昨晩リサは、オトハの才能に興奮し、徹夜で分析をしていた。
そのため、寝不足の彼女の耳には、カオルの言葉がこう変換されてしまう。
『リサ……君が可愛いのは分かるけど、それって君が(僕の)天使だからかい?』
「ええええっ!? と、突然すぎます!」
顔面を林檎のように真っ赤にして、リサは叫びながら走り去った。
一人残されたカオルは、首を傾げるしかない。
「……? どうしたんだ彼女は」
かくして、帝国の最新鋭機には、リサの「確信」と「恋心」により、
漏れなく「にゃーちゃん」が描かれることとなった。
数日後。帝国以外の国々は、
空を埋め尽くす「笑う子猫」の群れを見て、戦慄と共に絶叫した。
「ひいぃぃ! あれは噂に聞く『悪魔のシンボル』。
悪魔だ! 悪魔の軍団が来たぞおぉぉ!!」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
作品を読んで「面白そう」と少しでも思っていただけたら、
下の【☆☆☆☆☆】と【ブックマーク】で応援いただけると、嬉しいです!




