第40話:帝国の効率主義vsオトハの可愛さ至上主義。――「重魔力(グラビティ)」とかいうヤバい理論で飛ぶ魔道具に、にゃーちゃんを描いたら最強のステルス機が完成しました!
「我が国で、爆破事件が発生いたしました!」
「……何だって?」
まさか、自分が仕掛けた同じ手法で、やりかえされるとは?
カオルの瞳から無邪気さが消え、鋭い殺気が漏れ出す。
「目撃者は? 迎撃システムはどうした!」
「いません! いま、魔法省が総出で魔力検知を行っております。
しかし、魔力の気配が完全にゼロで反応できないのです!」
「そんなわけ、ないだろう!」
カオルは机を叩いて立ち上がった。
「帝国のドローンだって、
動作には、微小ながら必ず魔力が漏れるんだ」
「(なぁ、ルシフェル、どう思う!)」
カオルが心で囁くと、魂の奥の方から声が戻って来る。
< ……ありえぬな。
どんな高度な魔道具であろうと、起動には魔力が必要だ。
魔素の動きがない攻撃など、想像もできぬ >
しばらくカオルは、ルシフェルと魂の会話を続けていた。
どれくらい時間が経っただろうか、皇帝からの使者が部屋に入ってきた。
「国王陛下より、至急参内せよとの命令です!」
「……分かった。すぐに行くよ」
◇◆◇◆◇
神聖ロマリア帝国。
それはシルバーランドの五倍の国土を持ち、ロンドラ連合王国に
匹敵する超大国である。
ロマリアは、古くから他国と交わらず、独自の文化を保ってきた。
しかし近年、カオルの登場により劇的な技術革命がもたらされた。
その代表的な例が、オートメーション化とロボット開発だ。
もともと「効率」を重視する国民性だったが、
今や人の生活の細部に至るまで、効率が最優先されている。
……帝国の宮廷である。
静まりかえった部屋では帝国の重臣たちが、微動だにしない。
英雄・カオルの到着を待っていたのだ。
「カオル。待っておったぞ」
玉座に鎮座する国王が、自らカオルを迎え入れた。
「そちは、この度の連続爆破事件をどう見る?」
「……まだ断定はできません。恐らくは我々の空襲と同じ仕組みかと。
しかし、魔力検知がゼロだったという点が不可解です」
実はこの時、カオルの脳裏には、一つの仮説が浮かんでいた。
それは、彼にとって「絶対にあってはいけない」ことだ。
転生者であるカオルにもできなかったこと、
それが目の前で起こっている。
焦り、恐れ、妬み、複雑な思いがカオルの体内を駆け巡った。
◇◆◇◆◇
一方、メディーナでは……。
先日、オトハが潰した海賊島に、
爆破の被害にあった4か国・各国の重鎮が集結していた。
ロンドラから皇太子ケイン、カイル。
シルバーランドの猛将バルカス。
そしてサンブルグの聖魔法戦士長、アンナ。
さらにメディーナからは商船戦隊長のダビデが参加している。
平時は、互いの秘密を守るため、けん制し合う仲なのだが、
今日は、共通の敵、謎の爆破犯と戦うために真剣に話し合っていた。
そして今、ロンドラから推薦されたシルバーランドの魔道具士、
オトハが常識を覆す武器を見せたことで、ある者は嘆き、
ある者は頭が空白となっていた。
「こ、……こんな攻撃の仕方が許されるのか?
これでは、我々が日々精進してきた武と魔法は、どうなるのか?
分からなくなるではないか!」
バルカス将軍が、その場でひざまずき、頭を抱えた。
「なぜ、魔道具が勝手に空を飛べるのだ?
しかも、オトハ殿が言うには魔力探知に、かからぬらというではないか!」
ケインもバルカスの横で、大きなため息をついた。
各国の軍の重鎮たちが、いずれも赤子のような表情で助けを求めた。
……5分前。
海賊島の内海。
そこには、浮沈艦と呼ばれるロンドラの巨大な戦艦が浮かんでいた。
大きさはメディーナ号の約3倍、300名乗船できる本格派の船だ。
「それじゃー、いきますよーー」
各国の軍部TOP4人の前で、大ハリキリのオトハ。
やがて、何やら丸い皿のようなものが5体、目の前に飛んできた。
「な、な、なんだありゃ」
思わずバルカス将軍が声を挙げる。
そして、次の瞬間、音もなく巨大な戦艦が燃え上がる。
「えっ?どうしたの?何が起こったの?」
アンナが逃げ腰になり、椅子から立ち、後ろに下がった。
目の前で広がる炎の熱が、こちらまで、ジワジワと迫っているのだ。
「おい、何か顔みたいなものが書いてあるぞ!」
ダビデが、空飛ぶ皿に何かの絵があることに気が付いた。
「えへへ、可愛いでしょ。にゃーちゃんだよ」
「に、にゃーちゃん?」
アンナが、不思議そうな声を出して、改めて皿を見る。
確かに子猫の顔が描かれている。
巨大な爆発と爆炎、その上に舞う可愛い子猫。
あまりにもシュール過ぎて、子猫というより悪魔に見える。
「シバさーん、結果はどうですか?」
「成功や、オトハはん。魔力探知ゼロやで」
シバが魔力探知の魔道具を持って現れた。
民間人が持つようなものではないが、
今回、キキョウがカイルに頼んで、特別にロンドラから借りたものだ。
「これは、どういうことですか、オトハさん?」
「あ、ケイン様、説明しますね。
この空飛ぶにゃーちゃんですが、その存在も攻撃も、
全て魔力検知にかからないんです」
「な、そんなアホな。空飛んで、魔法ぶっ放して、魔力ゼロ。
そんなん、絶対にありえまへんわ」
メディーナのダビデがオトハに説明を求めた。
この世界では、あらゆる魔法には魔力が込められている。
それは子供でも知る常識だ。
「ダビデさん、それが計算では可能なんです」
突然、太陽が西から上ったかのような、非常識を現実に見せられ、
全員の思考回路が止まってしまう。
◇◆◇◆◇
「……で、結局どうやって飛んでいるんだ?」
ケインが問い詰めると、
オトハはおもむろに持っていたスパナをその場に落とした。
カラン、と乾いた音が響く。
「これです。地面から出ている、モノを引き寄せる力。
私はこれを『重魔力』と名付けました。
この魔道具は、その引き寄せる力に『反発する魔力』を固定して載せているんです」
「は? ……重、魔力?」
「重力……。地がモノを引き寄せる、自然の摂理。
それをエネルギーの反動として利用しているというのか?」
アンナが愕然と呟く。
もう一人、オトハの説明を聞いて呆然とする影があった。
< アンタ……その理論、私のいた前世の物理法則すら飛び越してるわ。
いったい、どこからそんな発想が湧いて…… >
守護天使サクラさえも戦慄する中、
オトハはニチャァと笑ってスパナを拾い上げる。
「帝国が効率主義なら、私は『可愛さ』と『萌え』です。
可愛い魔道具で世界中を埋め尽くしてみせます」
「い、いや、魔道具で埋め尽くさなくても……いいんだが」
かつて、オトハにより宮殿を猫のドロイドで埋め尽くされた
ケインが慌てて否定しようとする。
「無駄です、ああなったオトハには何も聞こえません」
キキョウが諦めた目で、ケインに手を差し伸べた。
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