第39話:恋する少尉と、無自覚な転生局長。――完璧な空襲作戦(ゲーム)を楽しんでいたはずが、魔力ゼロの「ありえない爆撃」によって詰み(チェックメイト)を告げられる。
ロマリア帝国軍、技術開発局の一室。
この部屋は帝国らしく鉄と石で構成された武骨な部屋に、
場違いなアンティークの机が置かれている。
彼、技術開発局長・カオルは、
ティーカップに注がれた最高級の茶葉の香りを楽しみながら、
神妙な顔つきで部下の報告を聞いていた。
「……なるほど。確かにその船にはスクリューがないんだね」
そう一言、部下に告げると、流麗な動作でカップを置いた。
「これは驚いたな。ポンプジェットじゃないか。
この世界に、そんな高度な流体工学が存在するはずが……」
カオルの脳裏に、以前見かけた
眼鏡の少女――オトハの「ニチャァ」とした笑顔が浮かぶ。
「あの子か……。彼女のこと、ちょっと苦手なんだよね。
まあいい、メディーナなら、他国を適当にぶんどって、
外堀を埋めてからゆっくり話し合い(降伏勧告)をすればいいだけだ」
「カオル様、船の開発者をご存じなのですか?」
「まぁね……」
カオルが不機嫌に答える。
(とにかく、キキョウとかいう子とオトハのコンビだけは、
今のところ敵に回さないようにしよう。面倒なのは嫌いなんだよね)
カオルはもう一枚の報告書に目を移した。
「それで、僕の『ドローン空襲作戦』の進捗はどうだい?」
「はっ。順調です。潜入させた工作員が新聞を使い、世論操作に成功。
民衆の軍への不信感はピークに達しております」
「おっけー。じゃあそのまま続けて。
革命がおこりそうになったら、武器を適当に与えてあげてね」
「は、かしこまりました」
「お互いに殺し合って、兵力を削れるだけ削っちゃえば、
後は僕らが『正義』として乗り込めば楽勝だからさ。あはは、楽しみだね」
カオルの冷徹な微笑に、部下たちは背筋を凍らせながら退室していった。
◇◆◇◆◇
静寂が戻った部屋。
カオルは窓の外を眺めながら、独り言を漏らした。
「そこにいるんだろ? 姿は見えないけど、気配で分かるよ」
< ……ふふふ。カオル、順調そうじゃないか >
空間が揺らぎ、ルシフェルの声が響く。
「そりゃそうさ。ルシフェルくんからもらった魔力と、
僕の前世の知識があれば、この世界じゃ向かうところ敵なしだよ。
……ただ、……」
< 眼鏡の娘と聖女の存在が邪魔か……? >
「あの子、聖女っていうんだ。かわいかったなー。
でも、メガネがいる限り、迂闊に近づくと火傷しそうだしね」
カオルの話を受けて、ルシフェルの声が重みを増した。
< その判断は賢明だ。あの娘には、どうも我が妹がついているらしい >
「へー、あんた妹? それで、あんたみたいに優秀なの?」
< ……かつて、妹は怒りに任せて神の世界を滅ぼそうとした >
「あははは! そりゃヤバい。
でも、あんたほどの人が負けるなんてことはないよね?」
< 負けはしない。だが、あやつの力は底知れぬ。とにかく危険だ >
「ふーん。まあ、兄妹喧嘩するときは別の世界に行ってやってね。
帝国を壊されたら、僕の『おもちゃ』がなくなっちゃうからね」
◇◆◇◆◇
<< コンコン >>
「失礼します。局長、及びでしょうか?」
「やあ、リサさん。いや、少尉と呼んだ方がいいかな」
ドアの前には金髪ロングの少女が軍服を着て立っている。
透き通るような緑の目が、鋭く光っている。
「どちらでも結構です。効率が良い方を選んで下さい」
「相変わらず『効率』だな。じゃあ、リサさん、
戦闘機、いや空飛ぶ魔道具の開発状況を教えて」
リサが、カオルの机まで進み、設計図を広げる。
「開発は最終局面です。空中のバランスを取る仕組みが
もう一つ、うまくいっていませんが、時間の問題でしょう」
「前回のドローンと違って、今回は空中戦闘を想定した
飛行機、いや空飛ぶ魔道具だからね。……あれ?」
「どうか、なさいましたか?」
カオルが設計図に顔を近づけて、目を細めた。
「これ、水平尾翼がないじゃん」
「すいへーびよく?」
「まぁ、いいや、ここに小さな羽をつけてごらん」
「はっ、さっそく」
高速飛行中のバランスという泥沼のバグにはまっていた
リサの目の前がぱっと開けたような、明るい表情で出ていった。
その表情の中には、憧れの他に、思春期の甘酸っぱい感情も
含まれていたが、カオルは気が付いていない。
代わりに、血相を変えた情報将校が入ってきた。
◇◆◇◆◇
「カオル様、大変です!!」
カオルは眉をひそめ、不快そうにカップを置いた。
「なんだい、もう話は終わったはずだろ?
優雅な趣味を邪魔しないでほしいな」
「は、はい! しかし……我が国で、爆破事件が発生いたしました!」
「……何だって?」
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