第3話:愛(しゅうちゃく)が重すぎて、ボロ寮が「聖地」になりました。〜魔法より美味しい、禁忌の黄金クロワッサン〜
ここ、シルバーランド王立魔法学園には、
入学シーズンの風物詩として、一大イベントが存在する。
その名も、『新入生・魔法お披露目会』。
このイベントは全ての新入生が、教師と上級生の前で魔法を披露し、
その才能を誇示する伝統行事である。
来賓席には魔法省のトップ、王国軍の将軍、商業ギルド長が
毎年恒例で参加している。実質的な青田刈りのためだ。
今年は学生のレベルが高く、演習場のステージは、
つねに喝采とため息に包まれていた。
そんな中、最後に異彩を放つ二人組が現れた。
【 特待クラス 】 のキキョウ・シラユキと、
最下位Fクラスのオトハ・ブルーノのコンビだ。
「ええっと、最後は……特待クラスのキキョウさんと、
第八寮のオトハさんの合同披露ですね」
司会の困惑した声が響く。
本来なら交わるはずのない「天才聖女」と「魔法力ゼロ」のペアだ。
興味本位で、会場には多くの生徒たちが集まっている。
オトハは今日もマイペースだ。
観客を気にするではなく、巨大な物体、名付けて
『オトハ式・魔導ブースター初号機』を、ドサリと地面に置いた。
「キキョウさん。……昨日の夜、カスタマイズした魔道具ですが、
今からここで、『実地テスト』をやっちゃいますね」
「オトハ、分かってると思うけど、
一応、これはボクたち二人の将来に繋がる『お披露目』なんだけど」
「どうせ、私はF組だから一緒ですよ」
「……もう、しょうがないわね。やれば良いんでしょ」
キキョウは、どこか吹っ切れた顔で、
オトハ特製の「六角形レンズ」を三枚、空中にパパパッと展開した。
◇◆◇◆◇
< うふふ、オトハの隠れた実力を認めなかった奴らに、
本当の凄さを見せつけてやるわ!
オトハ、キキョウにレンズを三層に並べろって伝えなさい >
サクラが、漆黒のドレスを着て現れたかと思うと、
不敵に笑いながら、キキョウを指さした。
「ちょ、ちょっと! 何よこのオバさん、急に出てきてボクを指差して……!
何か言いたそうな顔してるけど、全然声が聞こえないわよ!」
キキョウが目の前のサクラに向かって抗議する。
観客席からは、キキョウが虚空に向かって独り言を叫んでいるようにしかみえない。
「聖女様が暴走している」
「いや、聖女様の新しいパフォーマンスだ」
「さすが聖女様、お美しい」
真っ白なスカーフを揺らしながら、虚空に向かって抗議する姿に、
一部の人間、いや大多数の男子生徒たちがうっとりしている。
「あ、キキョウさん。サクラさんが
『学園ごとブッ飛ばすからレンズを三層に並べろ』って言ってます」
横からオトハがサクラの言葉をキキョウに伝える。
「ブッ飛ばしちゃだめでしょ。これ授業の一環なんだから」
「……あ、今、サクラさんが『けちけちするな』っていいながら
キキョウさんの胸元の特待生バッジをベタベタ触って遊んでます」
「えっ、ちょ、やめなさいよ! 汚れるじゃない!
姿が見えないのに実況されると、怖いわ、オトハ!」
サクラは楽しそうにキキョウの腕を強引に引き寄せ、
射線を無理やり調整していく。
< ほら、そこよ! そこが一番『爆裂する』角度よ! >
「あ、サクラさんが
『そこが一番爆裂する』って言ってます! 満面の笑みです!」
「もー、ホントやめて。ちゃんと撃つから、もう離れてよ! 」
◇◆◇◆◇
キキョウの準備ができたのを見計らって、サクラが合図を送る。
それを見たオトハが『魔導ブースター初号機』を構えた。
「わたしは魔力が使えないから、引き金を引くだけです。
サクラさんとキキョウさん、あとは……二人で通じ合ってくださいね!」
オトハが装置のレバーをガチャンと倒す。
魔導ブースターから魔力弾が、景気よく弾け飛んでいった!
音もなく、魔力弾がブースターから飛び出すと、
キキョウの展開する3枚のレンズを通り、重なりながらコーティングされていく。
「第一波……いっけぇぇぇ!!」
<< ドォォォォン!! >>
一発の魔力弾が、標的を貫通し、背後の防壁を粉砕した。
「なんだ?あの威力は!あんな術式、授業で習ってないぞ!」
会場が騒然とする中、サクラのジェスチャーは加速する。
< 次はもっと角度を絞って! ほら、いくわよ! >
サクラが空中で両手を狭めるような動きを見せる。
「わ、わかったわよ! 何その『もっと絞れ』みたいな手つき! こう!?」
続けざまに放たれる第二射。
レンズ装置から「キィィィィン!」と心地よい駆動音が鳴り響き、
防壁の向こうに合った校舎の壁を粉砕した。
「ラスト……! 全部まとめて吹っ飛んじゃえー!!」
オトハが引き金を引くと、三発目の光が上空で急上昇し、
巨大な火の玉になったかと思うと、演習場のターゲットエリア全体に
降り注ぎ、全て燃やし尽くしてしまった。
静まり返る会場。
キキョウは肩で息をしながら、
サクラの(声は聞こえないが)満足げなドヤ顔を睨みつけた。
◇◆◇◆◇
< あはは! 最高じゃない、キキョウ!
アンタ、癒やしの聖女より破壊の方が才能あるわよ >
サクラはキキョウの横で腹を抱えて笑っている(無音)。
「……絶対にろくなこと言ってないわね、その笑い方!
ボクの『清純派・特待生』としての将来を返しなさいよ!」
「……成功ですね。サクラさんが、キキョウさんのことを
『破壊の才能に溢れてる』って褒めてますよ」
「だからボクは清純派の癒しキャラなの!」
一方、生徒会室……。
2人の天使たちが、
オトハのお披露目を見て、飲みかけの酒を吹き出していた。
< ……ひっひっひ! ヤヨイちゃん、今の見た?
サクラちゃんのとこの子、けったいな力もっとるな。まるでハチャメチャや >
< 賑やかでいいではありませんか。
……本当に、サクラさんに関わると、いつも退屈しませんね >
真紅の堕天使・ヤヨイが、扇子で口元を隠しながら、
楽しそうに目を細めている。
が、その目は、獲物を捕らえた時の目だ。
視界にロックオンされていたのは、
オトハではなく、その隣でサクラを睨み続けるキキョウの姿だった。
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