第4話:チケット完売? ~聖女 VS 生徒会長 最後に勝つのは商売人か?!~
シルバーランド王立魔法学園の「新入生お披露目会」は、
最後の最後で、学園始まって以来の最大の暴走劇となってしまった。
学園の重鎮たちも、真っ青な顔で更地になった演習場を、見下ろしている。
誰一人として、オトハたちが使った魔法に思い当たる者はいなかった。
『学園が知らない魔法を新入生が披露した』
……この事実が明らかになると、
学園の存在意義を否定することになりかねない。
学園長は眼鏡を拭いながら、どこか安心したように首を振った。
「さ、さすがは……特待クラスのキキョウ君による『聖女の奇跡』だ。
彼女の膨大な魔力が、あのガラクタを一時的に神格化させた……
そう考えるのが妥当だろう」
「なるほど。あのメガネの娘はあくまで媒介。真の主導権は聖女にある、と」
教師たちは深く頷き合った。
無能な生徒の新発明を認めるより、「聖女が凄まじいだけだ」とする方が、
学園の秩序は保たれる。
『――新入生の皆さん!
午後の生徒会長による「模範魔法演武」のパートナーですが、
教授陣の全会一致で、驚くべき魔法を見せてくれた
キキョウ・シラユキさんに決まりました』
アナウンスを聞いたキキョウは、「……は?」と魂の抜けた声を上げた。
同じくアナウンスが流れるや否や、別の反応をしたものがいた。
その者は素早くオトハの手を取ると、スタスタと第八寮へ連れ去ったのだ。
◇◆◇◆◇
ランチタイム、
演習場には突然チケットブースが出現し、長蛇の列がてきていた。
「はーい、並んで並んで! 当日券は残りわずかやで!」
メガホンを手に列を捌いているのは、生徒会・副会長のシバだ。
「あ、そこのお兄さん! 第八寮特製のパンがセットのVIP席はどう?
これ食べたら、一時的に魔力がグンと上がるんよ」
「はぁ? 魔力が上がるパンだと!? そんな馬鹿な」
疑う男子生徒に、シバが一切れのパンを差し出した。
それを食べた男子生徒は――。
「…………っ!!? おおおおおおおおっ!!?
な、なんだこれ……! 魔力が溢れて止まらんぞおお!」
「……ね? 嘘やないでしょ」
シバは金のブレスレットをジャラつかせ、眩い笑顔で注文をさばいていく。
その姿は完全に、稀代の興行師のそれだった。
< やっぱりこの騒ぎ、ユヅキの仕業だったのね。
なんでアンタが、オトハのデニッシュの秘密を知ってるのよ? >
< ひっひっひ。サクラちゃん、蛇の道は蛇やで。
昨日の夜、オトハちゃんが試作しとるのを一口「味見」させてもうたんや。
一口食べた瞬間、カネの匂いがプンプンしたわ >
< ……相変わらずだな、アンタには怒る気にもならないわよ >
< それとな、陰で動いとるん、ウチだけとちゃうでー >
◇◆◇◆◇
「……ちょっと、なによあれ」
大盛況のチケット売り場。
校舎の影から、キキョウが売り場を睨んでいたが、
そこへシバが音もなく近づく。
「おや、主役のお出ましやね。
まぁまぁ、キキョウさん、そう怒らんといて」
シバの瞳が黄金色に明滅する。
シバは、自分の意思とは関係なく、気持ちが強くこもると
得意魔法『チャーム(黄金の魅了)』が発動するのだ。
「今回の売上は……オトハはんの新作開発資金につながるんや。
……ね、悪い話やないやろ?」
「……まぁ、オトハのためなら、今回だけは乗ってあげてもいいわね」
< キキョウ! アンタ、『聖女』のくせにチャーム耐性ゼロなの!? >
遠くで様子を見ていたサクラが、あっさりとシバのチャームに
魅了されるキキョウを見て、思わず立ち上がった。
<まぁまぁ、サクラちゃん…。
シバちゃんのチャームがそれだけエグいんやで。
だから、しゃーないしゃーない>
オトハのデニッシュをつまみながらユヅキがフォローを入れる。
< まさかオトハにもチャームを仕掛けたんじゃないでしょうね >
< あの子はあかん、バケモンやからな >
◇◆◇◆◇
一方、第八寮の厨房。
そこには、鼻歌まじりに生地を捏ねるオトハの姿があった。
「ふふふ……生徒会さんに頼まれちゃった。オーブンちゃん、よかったね。
やっと君の性能が、みんなに認めてもらえるんだよ……!」
オトハが愛おしそうに魔導オーブンの天板を撫でる。
試作段階ではキキョウが直接魔力を流さないと動かなかった。
しかし、改良を重ねた今の「オーブンちゃん」は、
事前にキキョウから分けてもらった魔力を「魔導バッテリー」に
充電しておくことで、オトハ一人でも起動できるようになっていたのだ。
「……オーダーは300個。客席の熱狂を計算に入れ、糖分を15%増量。
さらに、魔力回路を強制励起させるための魔導加熱……」
オトハのメガネが鋭く光る。
「サクラさん、オーブンの魔力流速、あと5%上げてください!
みんなにたっぷり味わってもらいましょう!」
< ……ええい、分かったわよ! 天使使いが荒いわね。
せいぜい、あいつらの度肝を抜く最高の一品を焼きなさい! >
魔導オーブンが戦艦のエンジンのような咆哮を上げる。
商売、策略、そして純粋な職人の喜びが錯綜する
「演武」という名のお祭り騒ぎまで、あと一時間である。
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