第2話:私が魔道具ちゃんを治してみせます。~聖女と堕天使の魔力が生み出すハーモニー~
今日はシルバーランド王国の「魔法適性の儀」。
大聖堂では、いつものように、子供たちの適正検査が恙なく続けられていた。
オトハという子供が、緊張したため魔力測定でバグを発生させたが、
全体的には何事もなく、例年通りに進んでいる。
だが、大聖堂の別室では、異常なことが起こっていた。
「サクラさーん、どうしよーー?
さっき手をつないだ時、この人、凄い顔してました。
私の魔力ってそんなに低いんでしょうか?」
オトハが下を向いて小さな声で独り言をつぶやいた。
「「 ねぇ、アナタ……! 」」
「は、はいっ?!」
「さっきから、ブツブツ言ってるけど、
もしかして、この性格の悪そうな漆黒の女性と話してるの?」
「「 !!!!!! 」」
キキョウの言葉に、サクラとオトハは同時に固まった。
「巫女様、サクラさんが見えるんですか?……あっいけない!」
「見えるわよ。不吉な翼を広げちゃって。……でも、不思議ね」
キキョウは自分の胸元を押さえ、眉を潜めた。
「アンタに触れていると、なんだか暖かい……変な感じがするの」
さっきまで後ろで酒を飲みながら、控えていたサクラが、
キキョウに歩み寄り、興奮気味に肩を抱いた。
< オトハ!この巫女は、アンタの「封印の儀」で使えるわ。
手伝ってくれるように説得しなさい! >
「え、今?ここで?」
< 早くしなさい、アンタには時間がないの。
このままじゃ明日にでも死んじゃうわよ >
オトハがコクリとうなづいた。
「あのーーー。巫女様。1つお願いがあるのですが……。」
「なによ。ボクはこう見えて、忙しいから短めにしてね」
「私、このままじゃ死んじゃうらしいんです」
「さっき、魔力を測定したけど、他の子どもより健全だったわよ」
「いえ、私は魔力が多すぎて、あと1年以内に身体が支えきれずに
死んじゃうんだそうです」
「魔力が多いから死んじゃう?そんな話聞いたことないわ」
「でも、サクラさんが言うんです」
キキョウが再びオトハの後ろを見ると、美女が頷いている。
「ふーん、なにか事情がありそうね」
オトハは、小さなころからサクラと一緒にいて
人にはない不思議な力を持っていることをキキョウに伝えた。
「私、魔力がない人でも、私が作る魔道具を使って、
平等に暮らせる世界を作りたいんです」
自作の魔道具を差し出しながら、必死に夢を訴えた。
魔道具は、魔力を含んでいないのに「温かな光」を灯している。
キキョウは魔力が認められ巫女になる前、貧しい村で生まれ育った。
村には魔法を使える者がおらず、村人達は新鮮な水や火を使えずに生きていた。
そのため、誰よりもオトハの言葉の重みが分かる。
(この子の後ろの美女は、堕天使に違いない。
大精霊をも凌ぐ、霊体が守るこの子ならやれるかもしれない)
そんな夢と、オトハの純粋な情熱に、
キキョウは迷った末、封印の儀式を手伝うことと決めた。
◇◆◇◆◇
……一か月後。
シルバーランド王立魔法学園の入学式。
今年十三歳を迎えたオトハは、他の領主の子息や、
貴族たちと一緒に名門校の一員となった。
小さいながら領主の娘であるオトハには、メイドがつけられた。
メイドは、オトハの希望で、巫女のキキョウがつけられた。
「さすがはキキョウさんですね。Sクラスになるなんて、
お父様も喜んでいたわ」
「オトハだって、本当は余裕でSクラスなのに」
「いいの、いいの。だって魔力を封印しなかったら、
私、今頃、生きてないと思うから」
……『魔力適性の儀』がおこなわれた夜、
オトハたちは、サクラ立ち合いの元、『魔力封印の儀』をおこなった。
オトハの命を脅かす膨大な魔力は、この儀式により、ゼロに変換された。
これにより、オトハの命は守られたが、剣と魔法の世界において、
『魔法力ゼロ』にすることは、別の意味で死を意味する。
だが、あの日以来、オトハはそれを口に出さない。
それどころか、嬉しそうに、ひたすら魔道具の研究に明け暮れていた。
キキョウが言った、本当は余裕でSクラスなのに、というのは、
本来の魔力であれば、ということを言いたかったのだろう。
ともあれ、
オトハは、学園に入学できたものの、魔法力ゼロの最下位クラス。
いきなりの落ちこぼれクラスからのスタートとなったのだ。
◇◆◇◆
入学制の新入生総代はキキョウが登壇した。
「――ボクたちは、叡智の灯を絶やさず、真理の道を往かんことを」
キキョウの襟には、金色のラインが施されている。
これは、彼女が「最高位の聖女」であることを証明する証だ。
一方、その輝かしい場所から遠く離れた会場の末席。
「……あの拡声魔法、魔道具でも作れないかしら?」
分厚いメガネを指で押し上げ、オトハが手元のメモ用紙で計算を始める。
< 封印してなきゃ、アンタが主役なんだけどねぇ。
まぁ、その性格じゃ、目立ちたくないだろうから丁度いいわね >
漆黒の堕天使・サクラが、実体のない盃を煽り、退屈そうに笑った。
◇◆◇◆◇
式典が終了した後、会場を出ると、
キキョウの「笑顔の仮面」がわずかに歪んだ。
「聖女様!」と群がる信者志望の生徒たちが、道をふさいだのだ。
彼女は有象無象の輩たちを神速のフットワークでかわしていく。
神速で向かう先にいるは、魔道具の魅力に取りつかれたオタク少女だ。
(オトハを一人にするのは危険だ)
キキョウは裏道を猛ダッシュし、オトハが待つ、
Fクラス専用のボロ寮、通称・第八寮へと辿り着いた。
「……はぁ、はぁ……! オトハ! 何事も起きてないわよね!? 」
「あ、キキョウさん。お疲れ様です。
……さっそくですが見てください。この子、瀕死なんですよー」
キキョウが寮に到着すると、オトハが旧式「魔導オーブン」を、
愛おしそうに撫でまわしていた。
「排熱効率が絶望的、魔力の伝導経路も詰まり放題……なんです。
だけど、勝手に生徒が直したらいけないらしく」
今にも泣きだしそうなオトハを見て、キキョウが寮長の先輩に
許可を取りに走った。
「寮長さん、直せるなら直して良いって言ってたわよ。
先月、魔道具士に見てもらったけど、直らなかったそうよ」
「わーい。キキョウさん、ありがとー」
言い終わらぬうちに、オトハは自作の魔法レンチを取り出した。
そして「せっかくだったら」と、サクラから教わった「前世の理論」で、
ハイパー修理を試すことにした。
◇◆◇◆◇
「できましたーー。
キキョウさん、10分だけ、私に手を貸してください!
あとは魔力を流し込むだけなんです」
オトハが、油まみれでキキョウの両手をガシッと握りしめる。
「えっ、あ、また……きゃっ!?」
キキョウが抵抗しようとした瞬間、
分厚いレンズの奥から、オトハが泣き出しそうな瞳で訴えた。
「……だって、わたしでは魔力が使えないから。
キキョウさんしか、この子を救えないんです……っ!」
「……もう、わかったわよ! 10分だけだからね!」
キキョウが観念して魔力を込めた、その瞬間――。
世界が、一瞬だけ止まった。
重なり合った二人の手のひらから、パチリと青白い火花が弾ける。
オトハの背後に、サクラの幻影が重なった。
聖女の清廉な光と、堕天使の苛烈な闇。
相反する二つの力がオトハというフィルターを通じ、
申請で不可解な「文字列」へと変換されていく。
<< 封印解除――強制共鳴開始 >>
オトハの黄金の瞳が激しく発光した。
二人の間に渦巻く膨大なエネルギーが、
ボロいオーブンの回路に「命」を吹き込んでいく。
<< ドォォォォン! >>
腹に響くような駆動音が鳴り響き、
オーブンの通気口から虹色の魔力残滓が吹き出した。
10分後。オトハの封印が戻り、光が収束する。
そこには汗だくでヘナヘナと座り込むキキョウの姿があった。
「……できました。これで、最高に美味しいトーストが焼けるはずです」
「……あんたねぇ! 今の、絶対ただの魔力供給じゃないでしょ!?
生きた心地がしなかったわよ!」
キキョウの怒鳴り声も、今のオトハには届かない。
彼女は黄金色に予熱され始めたオーブンを、慈しむように見つめていたのである。
◇◆◇◆◇
翌朝。炭のように真っ黒なパンしか焼けなかったオーブンが、
黄金色の極上クロワッサンを量産し始めた。
その喧騒を、生徒会室の窓から見下ろす影があった。
白銀の金髪をなびかせる生徒会長アドレアだ。
そして、その会長の背後から、美しい神の声が響く。
< あら……あの魔導具の術式……美しいわね >
深紅の袴を纏う絶世の美女――「天使」ヤヨイ。
彼女は生徒会長の髪をなぞり、陶酔したように微笑んだ。
< ふーん、ヤヨイちゃん、もしかして魔道具フェチなん? >
もう一人のエーテル体――少女の形をした「天使」ユヅキが
ソファで寝転がりながら笑う。
< ひーっひっひ。気にしない気にしない。
ウチなんか金の虜やで、天使たるもの1つや2つフェチをもたなーな >
ユヅキはお調子者で笑いを愛する天使だ。
しかしその実は誰よりも腹黒い「堕天使」である。
< そやけどサクラちゃん、今度は冴えん小娘を加護したもんやね。
最強天使なんやから、もっとバーンといきゃええねんな >
< でも、そこがあの子の良いところじゃなくて? >
<そこやねん。昔からサクラちゃん変わっとるからなー。
ま、お手並み拝見といこかー >
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