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第29話:三日で六年分働いたら、ギルドに「もう来んといて」と泣かれました。

 翌日、オトハ一行は昼過ぎにメディーナの城門をくぐった。


「知の聖地・メディーナ」という気取った呼び名とは裏腹に、

押し寄せてきたのは、凄まじい熱気と商魂しょうこんの濁流だった。


 大店、市場の露天、フリーマーケット。

街中が店だらけで、一歩歩くごとに値切り交渉の怒号が飛んでくる。


 その中でも一際高くそびえ立つ、街で一番大きな百貨店。

そこがミアの実家であり、商業ギルド長が営む店だ。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」


 店内に一歩足を踏み入れると、全店員が二列に整列し、

深々と頭を下げて一行を迎えた。


 ……が、その直後である。


「おおーっ、シバやんけ! 久しぶりやな!」

「シバやん、相変わらずええ顔しとるわ! 景気はどうや!」


 店員たちが一斉にシバの周りに集まり、親しげに肩を叩き始めた。

どうやらシバはこの店で相当な人気者らしい。


(……ユヅキ、あんた裏で何かやってないでしょうね?)


<失礼ね、サクラちゃん。これはシバくん自身の人徳よ。商売人は愛されてナンボでしょ?>


 影の中でユヅキがケラケラと笑う中、シバが仲間のことを紹介した。


「みなはん、紹介するわ。ワイの商売仲間のオトハはんと、キキョウはんや。このオトハはんが作る魔道具は、マジで世界一なんでっせ!」


 その言葉に、店員の一人が身を乗り出した。


「オトハ……? もしかして、あの伝説のデニッシュ焼いた人か!?」

「そうや、そのオトハはんや!」


「「「うぉぉぉーー! 有名人きたーーー!!」」」


 店内は一気にお祭り騒ぎ。

握手を求める者、サインを欲しがる者でカオスな状態になった。



◇◆◇◆◇


 そこへ、奥から威厳のある番頭が現れ、ピシャリと言い放った。


「盛り上がってるとこ悪いけどな、その娘の商品はメディーナでは売れまへんで」

「なんでや!」


「シバやん、自分も分かってるやろ。この子、魔道具士としてのギルド登録まだやろ?モグリは、この街では商売させられんのや」


「しもたー。そやったわ。これまではワイの登録証で商品を裁いてたんや。オトハはんも登録した方がええな」



 一行は店を出て、隣の建物・商業ギルドの登録窓口へと向かう。

ギルドは活気にあふれ、多くの商人や魔道具士たちがひしめいていた。


「あ、シバはん、おひさー。今日はどないしてん?」


「この子の魔導士登録をしに来たんや」


 受付に来ると、シバが窓口の女性をオトハに紹介した。


「はじめまして、窓口のエリーです。初めてのようなので少しルールを説明しますね」


「はい。お願いします。オトハって呼んでください」


「オトハちゃん、まずはFランクからスタートね。魔道具士らしいけど商品を登録して売れるようになるのは、Cランクからやで」


「えーー、別に私は売らなくてもいいんですけど……」


(ギルドに来て商売する気ない、ってこの子アホなんか?)


 受付の女性が戸惑っていると、シバが横から会話に入る。


「あかんで、オトハはん、魔道具は売ってなんぼや。ただの魔道具なんて誰も大事にせーへんわ。あんさん、それでええんでっか?」


「いやよ。魔道具は大事に使わなきゃだめよ」


「なら、Cランク目指さな、あかんわな」


「大丈夫、オトハちゃんが、お年頃になる頃にはCランクになれるわ。きばってな」


 シバの説明によると、通常、この世界ではFランクからDランクまでで三年。

そこからCランクまでで更に三年かかるらしい。


 例えギルド長の娘であるミアの紹介であっても、この「六年ルール」だけは絶対に破れない。

地道にポイントを稼いでランクを上げていくしかないのだという。


「オトハはんなら大丈夫や。あっそうや。Aランクになると、メディーナが誇る魔導商船マリーナ号の部品も扱えるようになるらしいで。……なんでも、その船のメインエンジンは百年間、誰も中身を見たことがない『ブラックボックス』らしいでんな」


 シバのセリフを聞いた瞬間、オトハの瞳からハイライトが消え、危険な光が宿った。


「……いいでしょう、今すぐ終わらせます。えへへ」


 オトハは、愛用のレンチを磨くときのような薄笑いを浮かべた。



◇◆◇◆◇


 Fランクの魔道具士が請け負える仕事。

それは、鍋やフライパンといった調理器具の修理、あるいは包丁研ぎといった地味な作業だ。


 実はこのFランクの仕事こそが、最大の壁だった。


 あまりに地味な仕事の繰り返しに、魔道具士としてのプライドが傷つき、ほとんどの人間が逃げ出してしまうからだ。


 しかし……。


「そそる仕事キターーーーーー!金属の酸化皮膜を剥がして、分子レベルで表面を整えるんでしょ?調整具合で、魔道具たちの顔が変わっていくのよねー。うふふ」


 オトハはギルドの中庭に行き、依頼で持ち込まれたボロボロの鍋を手に取った。


 ――五秒。



 オトハが指をパチンと鳴らす(あるいはレンチを軽く当てる)と、煤けていたはずの鍋が、爆発的な輝きを放つ銀の鏡へと変貌した。


 新品同様、いや、鏡のように顔が映るまで磨き上げられた鍋を見て、依頼主が腰を抜かした。


 その後、オトハは次から次へと、五秒おきに調理器具を「完遂」させていく。


そして、……翌日、ギルドに怒声が響いた。


「ギルド長! あの娘を止めてくれ! 街中の鍋をあんな速度で完璧に直されたら、ウチらの仕事が全滅や! 職人たちは全員ハローワーク行きやで!」


 その後、調理器具屋の店主のいう通りになった。

オトハが街に来てから、新品の調理器具が全く売れないのだ。


 例えオンボロの器具でもオトハが新品以上に仕上げてしまう。

ギルドには、店主だけでなく職人たちからも猛烈なクレームが殺到した。


1週間後、ギルドは仕方なく、オトハを特例でEランク(魔道具修理全般)へと引き上げたのである。



◇◆◇◆◇


 しかし、Eランクでも、オトハは騒動を巻き起こす。


 ギルドに持ち込まれた湯沸かし魔道具の修理を請け負ったオトハ。

一般的には分解と調整に丸一日かかる代物だが――。


 一分後。直された魔道具からは、かつてないほど滑らかに魔力が循環する音が響いていた。


「オトハちゃん、シバさんとの約束を忘れないでね。あんまり目立ちすぎちゃダメよ」


「分かってます。わざと……ゆっくりと一分くらい時間をかけました。それに性能も少し抑えています」


 しかし、「性能を抑えた」はずが、その仕上がりは軽く新品を上回ってしまう。


「「 ボロボロの湯沸かし器が、なんで新品よりお湯を沸わかすのが早いねん! 魔道具組合のメンツ、粉々や! 」」


 またしても魔道具組合からギルドへクレームが殺到した。

クレーム対応で疲労困憊となったギルド職員たち。


 そんな中、またオトハがギルドの窓口へやってきた。


「あのーー、次の仕事をください。私、頑張りますから!」


「……自分、お願いやからもう魔道具には触らんといて。オトハちゃんがおると、メディーナの経済がひっくり返るねん……!」


 窓口の担当者は半泣きで、オトハに『Cランク・魔道具士ライセンス』を差し出してきた。

オトハは、通常六年かかる過程を、わずか八日間で成し遂げてしまった。


「まじでっか……?」


 ミアをはじめ百貨店の店員全員が口をあんぐりと開けて固まった。

執務室で報告を聞いたギルド長は、驚きのあまり椅子から滑り落ちてしまう。


 メディーナの歴史に、一人の「天才少女」の名前が爆速で刻まれた瞬間である。

ご一読ありがとうございます。

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いや、そろそろ押してみましょう。そう、押せば、いいことあるかも?

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