第28話:破壊神の追憶。〜一万年前の聖都炎上と、守るべき「バグ」の少女〜
……一万年前、この世にはまだ「ヒトの世界」は、存在しなかった。
その頃は、天上の『神界』と『竜界』だけが存在していた。
神界は、文字通り神が住む世界。
そこに住む者は、魔力量で階級が分けられ、住む場所、運命までが決められていた。
階級は4つ……、下から、肉体労働を担う『アイアン』、
事務や警備の『ブロンズ』、精鋭騎士の『シルバー』、
そして最上階には、幹部層の『ゴールド』があった。
さらに神の御前に立つことを唯一許された直系家系がある。
――それが、最高位『プラチナ』ランクである。
アタシ(サクラ)の一族は、代々そのプラチナだった。
兄様――ルシフェルは中でも優秀で、全天使の憧れを一身に背負う聖騎士に選ばれた。
『サクラ、我らプラチナ天使の魔力は、弱き者を守るためのものだ。この神界も、美しき竜たちの住まう竜界も、我らが守らねばならない』
大真面目にそんなことを語る兄様の背中を、アタシは誇らしく追いけていた。
アタシたち家族が、竜界の保安任務にあたっていた一万年は、今思えば一番穏やかな時間だったのかもしれない。
◇◆◇◆◇
均衡が壊れたのは、神が「ヒトの世界」を創り出すと言い出した時だ。
『ヒトを創り、天使による加護を高め、効率的に支配するため、「竜界」を削除せよ』
神の命令に天使たちは愕然とした。
『シルバー』や『ブロンズ』ランクの天使たちは、長年の任務を通じて竜たちに情が移っていたのだ。
しかし、上位階級の命令は絶対である。
ましてや神の言葉に逆らう術なんて、誰も思いもしなかった。
『……御心のままに』
全天使が涙を呑んで跪いた。
……ただ一人、アタシを除いて。
◇◆◇◆◇
これまで、竜族を繁栄に導くのが天使の役割と習ってきた。
それがいきなり、効率化のために滅ぼせと神は言う……。
『まったく、ふざけないでよ!』
気づいた時、アタシは、竜界に攻め入る天使軍に飛び込んでいた。
単独で、天使軍の先鋒部隊をせん滅させ、続く本軍を焼き払った。
それでも怒りのボルテージはおさまらない。
神に一発入れてやろうと、神の街『ゴッズタウン』をなぎ倒してまわった。
しかし、神の宮殿にたどり着くと、兄様が門の前で剣を構えているのが見えた。
さすがに兄様には、剣を向けられない。
『仕方ない、街ごと、全部消えなさいよ!!』
アタシは地獄の業火を顕現し、黄金の都を焼き滅ぼした。
絶対者に牙を剥いたプラチナの少女。
あの日を境に、アタシは『破壊神』という名で全天使から恐れられるようになった。
しかし、結果として、アタシの叛逆が竜界を救った。
街を焼かれ、アタシの反感を理解した神が、竜界の存続を認めたのだ。
天使は生命エネルギー体なので、死ぬことはない。
そのため処刑罰がなく、一番大きな刑は神界から永久追放だ。
アタシは、神によりプラチナの地位を剥奪され、神界から追放された。
そして、新しく誕生した「ヒトの世界」を放浪することになったのである。
◇◆◇◆◇
数千年の放浪の末、アタシは突如、神界に戻ることが許された。
< サクラちゃん、ラッキーやな。
みんなアンタにビビって、温情を与えれば暴れないと思とるんやで >
< アタシと飲んでると、ユヅキも同類に見られるわよ >
< かまへん、かまへん。最近、サクラちゃんと飲んでるせいか、
ウチが値切ると、安うしてくれるねん。商売やりやすいでー >
こんな感じで、暇さえあればユヅキと神界で飲むことが増えた。
たまに、ヤヨイもついてくるが、あれは政府の監視役だろう。
一度、居酒屋以外の場所に行こうとしたら、ヤヨイに涙目で止められた。
あまりイジメても可哀そうだから、それ以来はここで毎回飲むだけだ。
そんなヤヨイから意外な話を聞いた。
ヤヨイは、昔から酒を飲ませると、口が軽くなる。
< ルシフェル様、出世なされて変わられたわ。
まるで神様のように『効率』を気にされているの >
< あのお優しい、お人よしの塊のお兄様が……? >
< そうなの。この前は『効率』が悪いからと、ヒトの国を滅ぼしていたわ >
……兄様は変わってしまったようだ。
あの日、アタシを止めることができなかった後悔が、彼を冷徹に変えてしまったのか?
< あ、そういえば、ルシフェル様、
100年ぐらい消えることが増えたわね。どこへ行っているのかしら? >
ヤヨイの話だと、兄様が何を企んでいるようだった。
しかし……そのとき、追放者のアタシは他人事のように聞いていた。
◇◆◇◆◇
再び、メディーナ郊外。
オトハたちは、野営の続きをするため火を起こしている。
――サクラが焚き火の明かりを見つめ、過去の感傷に浸っているその時。
遥か高天、神界の「最適化執行室」では、ルシフェルが冷徹な瞳で下界を見下ろしていた。
彼の前には、異世界から無理やり引きずり出された少年、カオルが浮遊している。
『――カオルを勇者に育て上げよ。彼にはSSS級の権能を授ける。カオルを使い、増えすぎた人間を半分に間引き、この世界を再び「効率的」な形へ再構築させるのだ』
ルシフェルはカオルを通じて、四天王の部下たちへ静かに指令を下した。
狙いは、オトハの持つ「愛のレンチ」。
サクラはまだ、知らない。
かつての兄が、今度は彼女が守ろうとしている
オトハを消去するために、着実に牙を剥き始めていることを。
◇◆◇◆◇
「……サクラさん? さっきからボーッとして、二日酔いですか? 私特製の『肝臓強化・魔導ドリンク(激苦)』飲みます?」
ニチャリ、と不敵に笑うオトハの顔が目の前にあった。
手には得体の知れない紫色の液体が握られている。
< ……。いらないわよ、そんな毒。一気に酔いが覚めたわ >
アタシはわざとらしく溜息をついた。
一万年前、アタシは竜たちを守るためにすべてを焼いた。
そして今、目の前には、神の「効率」なんて言葉を笑い飛ばす、最高に愛おしいバグがいる。
(……そうね。今は、この娘を守ろう)
一万年前の自分に重ねるように、アタシは影の中で小さく微笑んだ。
あんな冷徹な兄様に、この「愛の執着」が壊されるなんて、絶対に許さない。
ご一読ありがとうございます。
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