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第25話:狙われた愛のレンチ。〜プロテイン入りの夜食は、嵐の予感〜

「……ねぇオトハ。この馬車、外見は馬車だけど、乗り心地が全然違わない?」


 石畳を滑るように進む『ブリットちゃん改』の車内で、キキョウが引きつった笑顔で尋ねる。


 本来、長距離移動の馬車といえば、激しい振動と砂埃に耐える苦行のはずだ。

しかし、この馬車の座席はサスペンション(魔導バネ)が効きすぎており、揺れがまったくない。


さらに車内は、魔導オーブンを応用した「魔力エアコン」により、常に24度に保たれていた。


「はい、大佐! 振動係数は0.03以下に抑えてあります!」


「だから大佐はやめてってば……」


 迷彩柄のエプロン(新調)を締めたオトハは、手元の計器を見つめてニチャリと笑う。


「この子はいい子ですよぉー。魔石と馬のハイブリッド駆動。お馬さんが疲れたら、自動的に魔導モーターに切り替わるんです」


「は、はいぶりっど?ボクにも分かるように説明してよ」


「ハイブリッドとは、馬が極力疲れ具合に合わせて、魔道具が適度に車軸を回す仕組みです。馬が疲労すると、この魔導センサーに反応して、車軸を回し始めるんです」


「せんさー、とか、よく分からない言葉だけど、要するに『馬が疲れない馬車』ってことね?」


「はい、本当に賢い子なんですよ」


 そういうと、オトハは馬車に頬ずりを始める。

 

「シバさん、やっぱりこの人、変です!訳の分からない言葉を使ったり、馬車に頬ずりしたり。うわっ、今度は馬車に服を着せ始めました」


 新顔のミアが、シバの横で呆れたように呟く。


「ミアはん、これが通常運転や。慣れなはれ。それより、そろそろ『関所』が見えてきまっせ。この関所は、たちが悪いから、みんな気張ってや」



◇◆◇◆◇


 シルバーランドとメディーナの国境。

そこには、高圧的な態度で知られる国境守備隊の検問所があった。


「止まれ! 怪しい馬車だな。積荷をすべて出せ。……ほう、この見たこともない形状の馬車だ。貴族の許可証がないなら、通すわけにはいかない」


 髭面の隊長が、ブリットちゃん改の滑らかなボディをベタベタと触る。

その瞬間、車内から「ヒィッ」という短い悲鳴が上がった。


「……汚い手で触ったわね」


 オトハの目が、黄金色ではなく「ドス黒い執着の色」に染まった。


「愛するブリットちゃんの表面コーティングに、そんな不潔な指を……。許せない」


「ちょっとオトハ、落ち着きなさ――」


 キキョウが止める間もなく、オトハが馬車の窓から「改良型魔法レンチ」を突き出した。


「『自動防衛システム』、アンロック!」


 パチパチッ! と馬車の表面に高電圧の魔力が走る。


「ぎゃあああああ!?」


 隊長が派手に吹き飛び、地面を転がる。

他の兵士たちが剣を抜こうとしたが、シバが素早く前に出た。


「おっと、みなさんやめときなはれ。ウチのオトハはんは、魔道具の扱いに関しては、誰よりも厳しいさかいに」



◇◆◇◆◇


 騒ぎを聞きつけ、奥から武装した増援が現れた。

シバ1人を10人以上の兵士たちが取り囲み、剣を抜いた。


 その時、一陣の風が吹いた。

馬車の中にいたミアが、いつの間にかシバの前に立っている。


「シバさんの商売の邪魔をする人は――ウチが代わりに遊んだるわ」


 ミアが腰の細剣を抜く。

その動きは、ただのギルド長の娘とは思えないほど、合理的で無駄がない。


「はっ!」


 一閃。

剣を振った風圧だけで、迫りくる兵士たちの槍がバキバキと折れる。


 殺さず、しかし戦意だけを完璧に削ぎ取る技術。


< ……なぁサクラちゃん。あの子の剣筋、どこかで見たことあらへん? >


 オトハの影の中で、サクラが眉をひそめる。


< ……あれは天界の『処刑執行人』が使う、慈悲のない剣技よ。ユヅキ、あいつ……とんでもない『爆弾』を積み込んできたようね >



「そっちから来ないなら、ウチから行くでー」


<< ドワーーーーーーッ!! >>


 ミアから物凄い闘気が放出され、近くにいる者から倒れていった。


「す、すごい……」


 キキョウが思わず声を漏らす。


「いったい、何が起こったんや?キキョウはん?」 


「あれは、ミアちゃんの魔力にあてられたのね。簡単に言うと、魔力の振動で脳が揺さぶられて、立っていられなくなったんじゃないかな?」


「魔力酔いでっか?」


「ま、そんなとこかな。あの子、怖ろしい技を使うわね。ボクでも勝てない……と思う」


 関所の隊長たちはミアの圧倒的な力と、シバが提示した「多額の通行税(という名の賄賂)」により、震えながら道を通した。



◇◆◇◆◇


 その日の夜は、国境を越えた平原で野宿をすることになった。


「はい、皆さん! 特製『プロトタイプ・デニッシュ・改』が焼けましたよ! 隠し味に、ビリビリ大佐直伝のプロテインを練り込んでおきました!」


「「「プロテイン!?」」」


 真っ黒な見た目だが、一口食べると脳を突き抜けるような魔力とエネルギーが湧いてくる。


「……何これ、美味しい……。疲れが全部吹き飛ぶわ……」


 キキョウがムシャムシャと食べ進める横で、ミアも幸せそうに頬を膨らませる。


「シバさん、このパン、売れますわ! 一個金貨10枚はいけます!温泉で売り出せば、入湯料とダブルで大儲けや」


「ひっひっひ、ミアはんはええ商売人になりまんなぁ!」


 笑い合う一行。

だが、その頭上の月を、闇から見つめる複数の影があった。


 シルバーランドの隠密部隊『鴉』。

そして、それとは別の、不気味な魔力を放つ集団が潜んでいる。


「……あの馬車を狙うのか?」


「いや、あるじの命令は、オトハという娘が持つ『魔導レンチ』を奪うことだ。あのレンチさえあれば、我らも神の理を書き換えられる……」


 長旅は、まだ始まったばかりである。

ご一読ありがとうございます。


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