第24話:言い出せない「元気でね」。〜昇格したテントウムシ野郎と、置いてけぼりの王子様〜
期末テスト一週間前。
シルバーランド学園は、学生たちが猛勉強の最中で静まり返っていた。
そんな中、第八寮のオトハの部屋だけは、受験勉強とは思えない怒号が響いていた。
怒号の主は3Dフォノグラムに映し出された軍服を着た教官・ビリビリ大佐。
「オトハを勉強させる良い方法がないかしら?」
いくら勉強をさせても、一向に効果がないオトハ。
天才的発明を続ける力を持っているので、決して馬鹿ではない。
やる気と根性が足りないのだ。
キキョウはサクラに一発逆転の勉強方法がないか尋ねた。
< アッポーウォッチの中に教育系プログラムがあったはずよ。きっとオトハの役に立つわ >
いわれるがままに、オトハがアッポーウォッチの画面に触れた。
< ……そこの画面で『AIボタン』を押しなさい。人工知能が入っているはずよ。せいぜい叩き直してもらうといいわ >
オトハが恐る恐る画面の右側を押すと、時計が激しく発光し、3Dホログラムで軍隊の鬼教官のような男が現れた。
「ヘイ、ガール、どうしたんだい?」
「あのー、わたし、勉強がダメで、勉強を教えて欲しいんです」
鬼教官はニヤリと笑った。
「ガールの願い、かなえてあげよう。今日から俺のことは、ビリビリ大佐と呼んでくれ」
「はい、大佐! お願いします!」
「よし、お前は今日からウジ虫野郎だ!」
「……はい、大佐! 私はウジ虫野郎です!」
「見どころがあるな、ウジ虫野郎! まずは王国史からだ。王国史問題、1000本ノックだッ!!」
そこから地獄が始まる。
寝る間も惜しんで設問を繰り返すビリビリ大佐。
「1204年の政変、首謀者は!?」
「キサラギ三世です!」
「ビクトリー! お前は最高だぜ!」
「はい、大佐! ありがとうございます!」
休む暇もなく次の科目が襲いかかる。
「次は地理の問題だ!」
「えーー、苦手なんです地理……」
「痛みなくして得るものなし! お遊びのつもりか? しっかりついてこい、ウジ虫野郎!」
「はい、大佐!!」
「よーし、お前は今日からテントウムシ野郎だ!」
「昇格ですね、大佐!」
最初は簡単に音をあげると思われたが、オトハは意外と大佐についていく。
(何か違う方向にオトハが行ってるような……。でも勉強しているみたいだから良いわね)
キキョウは、もう一人の問題児カイルの世話をすることにした。
◇◆◇◆◇
テスト前日。オトハの部屋を訪れたキキョウは、絶句した。
そこには、一週間で立派な筋肉が付き、いつの間にか迷彩服に身を包んだオトハが、鋭い目つきで立っていた。
「よーし、お前はいつでも戦えるぞ、オトハ」
ビリビリ大佐が満足げに頷く。
「はい、大佐! ありがとうございます!」
「健闘を期待する。……グッドラック」
そう言い残し、大佐は最高の笑顔で光の中に去っていった。
—――迎えたテスト結果。
1位:キキョウ(コツコツ勉強の賜物)
8位:オトハ(死線を越えた快挙)
30位:カイル(キキョウの教えで健闘)
「オトハ、よく頑張ったわね。えらい、えらい」
「僕も頑張りました。キキョウさん」
すでにテストのことなど忘れて魔道具をいじるオトハ。
その前で、子犬のようにしっぽをふるカイル。
そんな3人の前に、学年2位のバッジを付けたシバが現れた。
「さぁ、オトハはん。テストが終わったから、次はメディーナでっせ。準備はどうでっか?」
「準備万端です、大佐!ハイブリッド馬車も出来上がっています」
「キキョウはん、この『大佐』って、なんですの……?」
「……一種の後遺症というか、なんというか……」
「あ、時間だわ」
その横でオトハが突然、腕立て伏せを始めた。
「いち、に、さん、しー、さーレッツゴー! 迷った時こそ、最も困難な道を選べーー!!」
「あんさん、なんかキャラ変ってまへん!?」
◇◆◇◆◇
次の日、オトハとキキョウは第八寮の玄関に立っていた。
その前には見慣れぬ馬車が止まっている。
シバが第八寮に来ると、これ見よがしに、その雄姿を見せつけた。
「じゃーーん! ハイブリッド馬車**『ブリットちゃん改』**です! スピードは100キロから80キロまで落
としましたが、今度は耐久力バッチリです!」
「でかしたで、オトハはん!」
「ありがとうございます、大佐!」
「いつまでそれ続けるんでっか!?」
日曜日。
校門前には、明日帰国するカイル王子も見送りに来ている。
カイルはオトハと話しながら、キキョウをチラチラと眺める。
「オトハさん、今回は空飛ぶ工房でいかないんですか?」
「この馬さんたちが、高所恐怖症みたいなんです……」
「キキョウさん、今度は……」
そこへ、シバが大きな箱を持って、一人の美少女を連れて現れた。
「ほな、いきまひょか。この人はメディーナ商業ギルド長の娘、ミアはんや。こう見えて彼女は剣士ですから、ボディーガードになりまっせ」
「シバの妻のミアです!」
「えーーっ! シバさん、結婚してるの!?」
「いえいえ、またえげつない挨拶しはりますな!」
「だってー、ウチ、シバさんの奥さんになりたいんやもん!」
「じゃあ、いきまひょ。あっ、カイル殿下、ほなまた」
「あれ?カイルさん、何かキキョウさんに言いかけていたのでは?」
「カイルさん、何か私に?」
「い、いえ、何でもないんです。どうかお元気で戻ってきてくださいね」
(あぁ、なんでボクはキキョウさんを見ると、いつもこうなっちゃうんだ……)
◇◆◇◆◇
校門のはるか上空。
ユヅキがひっひっひと笑う横で、サクラの目が険しくなる。
<ユヅキ、あんたまた妙な仕掛けをしてきたわね>
<え、サクラちゃん、なんのこと?>
<あの娘、人間じゃないでしょ。今度は何を企んでるの?>
<サクラちゃんのいけず。何でもお見通しなんやな……。でもこの子はホンマにギルド長の娘やで>
ユヅキの瞳が、黄金色に怪しく光る。
<いいわよ。ユヅキ、その代わりオトハに手を出したら、分かってるわよね>
サクラの声のトーンが変わると、ユヅキから「ひっ」と軽い悲鳴が飛び出た。
<まぁまぁ、サクラちゃんを怒らすことはないわ。ここで世界を壊されたら、ウチも大損や。これから一週間の長旅。どんな儲かり話が飛び出るか?楽しみにしまひょ>
ハイブリッド馬車は、キキョウとオトハ、シバとミア、それから『みーちゃん』を乗せて、ゆっくりと動き出した。
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