第22話:出席日数は叙勲で買える? 恋する王子と、馬に優しくない(?)ハイブリッド馬車
シルバーランド学園、学園長室。
重厚なデスクを挟んで、オトハとキキョウは直立不動で立たされていた。
学園長は、デスクに積み上げられた二通の「公文書」を交互に見つめ、
眉間を指で強く押さえている。
「……さて。一ヶ月も無断で授業を放り出して何をしていたのかね、君たちは?」
一通はパロマ法王庁からの、拉致事件に対する平身低頭な謝罪文。
もう一通は連合王国からの、オトハへの叙勲報告と、国を挙げての多大なる感謝状だ。
「えーと、時計のネジを巻きにパロマへ行って、
それからロンドラの鐘をバッハ仕様に魔改造してきました!」
オトハの元気すぎる回答に、学園長は椅子から転げ落ちそうになった。
「……両大国からの猛烈なプッシュがなければ、即刻退学処分だよ。
今回は特別に『課外活動』として出席扱いに不問とするが……
来月の期末試験は、一分の加減もせぬからな。
赤点を取れば補習地獄だ、覚悟しておくように」
学園長は眼鏡を拭き直すと、キキョウを鋭く見つめた。
「それからキキョウさん。連合王国から、カイル王子の留学を受け入れてほしいとの要請があった。君を案内役として指名されている。……後で生徒会室へ行くように。王子の世話と試験勉強、両立させたまえよ?」
◇◆◇◆◇
学園に戻ったキキョウを待っていたのは、以前にも増した熱狂的な視線だった。
「パロマを救った聖女様」「ロンドラの英雄」と噂は尾ひれをつけて広まり、学園の男子たちは色めき立っている。
そして運悪く、時期は**『聖ルカ感謝祭』**。
男子が意中の女子に自作のクッキーを贈る、一年で最も熱い告白の日。
生徒会室の窓の外には、キキョウにクッキーを渡そうと行列を作る男子生徒たちの影が絶えない。
「な、なんだあの数は……。キキョウさんは、僕の案内役なのに……!」
留学早々、カイルは焦りまくっていた。
彼は調理室で真っ白なエプロンを締め、山のような小麦粉と格闘していた。
「粉を混ぜるのも、魔導回路の調整と同じはずだ。……いや、こっちの方がずっと難しい! なぜこの『愛の結晶』は、焼くと石炭のようになるんだ!」
王子の威厳をかなぐり捨てた叫びは、虚しくも焦げたクッキーの煙の中に消えていった。
◇◆◇◆◇
カイルが恋愛の荒波に揉まれている頃。
学園の裏庭、蔦の絡まる古びたガレージの中で、オトハは山積みの廃材に囲まれ、シバと向き合っていた。
「オトハはん、ええか? よく聞きなはれ。……商売の世界は、時間が命でんねん」
シバは手垢のついた怪しげな巻物を広げ、オトハの鼻先で指を立てた。
「普通の馬車じゃ、メディーナまで行くのにケツが割れてまう。かと言って、あの爆走工房じゃ検問に引っかかるし、目立ちすぎて商談どころやない。……そこでや。アタシは考えたんや。馬を助け、なおかつ速い。究極の『次世代車両』を!」
「馬を助ける? ……まさか、馬を改造してサイボーグにするの!?」
オトハが期待に満ちた(しかし倫理的に危うい)瞳を輝かせると、シバは慌てて手を振った。
「いやいや! 殺生なこと言わんといて。馬はあくまで馬や。……ええか、走る時の馬の振動、これを無駄にするのはもったいないと思わへんか? 走るたびに地面に逃げるエネルギー……これを『回生』するんや」
「カイセイ……? なにそれ、かっこいい言葉!」
「振動を魔力に変換して、特製の魔導バッテリーに充電する。そんで、馬が疲れそうな坂道や加速時に、その溜めた魔力で車輪に仕込んだ補助モーターを回すんや。つまり、馬と魔導の共演……名付けて、**『ハイブリッド馬車・エコにゃん一号』**や!」
「ハイブリッド……。馬の力を貯金して、必要な時に引き出すってこと!? シバさん、天才!? すぐにサトルくんと計算してみる! 摩擦係数と魔力変換効率、それに馬の平均出力から逆算して……」
オトハは即座にレンチを握り締め、サトル(魔導時計)を起動させた。
「これなら、馬も楽ちんで速度も二倍! エコだね、シバさん!」
「せやろ? エコでんねん(笑)」
◇◆◇◆◇
ガレージの埃っぽい梁の上。
実体を持たない二つの存在が、その光景を見下ろしていた。
オトハの背後で退屈そうに浮くサクラが、シバを加護する天使ユヅキを、蛇のような鋭い視線で射抜く。
< ……ねえ、ユヅキ。あんたの主、あんな知識どこで仕入れてきたのよ? >
サクラの低く冷ややかな声が、ユヅキの意識に直接響く。
ユヅキは視線を逸らし、困ったように羽を震わせた。
< ……流石はサクラはん、鋭いわぁ。帝国には、フォイエルバッハの背後に、未来知識を持つ『賢者』が潜んでるらしいわ。シバちゃんは、そのおこぼれを美味しく頂戴してきただけやで >
< やはり転生者がいること確定ね。……ふん、せいぜい今のうちに稼ぎなさいな。最後はあたしが、派手にぶっ壊してあげるから >
< おーこわっ。壊すのは、シバちゃんが十分に設けてからにしてや >
< 分かったわよ、だけどオトハに手を出すようなら…… >
サクラがぐっと空をにらむ。「ひっ」、思わずユヅキが声を出す。
< ちょっとー、サクラちゃん、この世界だけは壊さんといてや。あんさんが出てくると、いつも人間世界が全壊するやろ。ウチらは最初から作り直しやで >
< (大丈夫、今度は、お気に入りのオトハがいるから壊さないわよ……多分) >
< おい、「多分」かい!声に出とるで >
ユヅキの小言をBGMに、サクラは、楽しそうに廃材を組み上げ始めるオトハを見つめるのであった。
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