第21話:大聖堂の鐘を修理したら、国交が雪解けして「二つ目の音」が鳴り響きました。〜帝国からのスカウト? 私、冷たい道具は直したくないんです〜
「……ちょっと、オトハはん、たのんまっせ。ええ話がありまんねん」
大聖堂の塔のてっぺん。
大時計の間に、シバがメディーナ商業ギルドの幹部たちを連れてきて、何度もオトハに声をかけている。
「オトハはん、あんさんの技術、帝国に売れば一生遊んで暮らせまっせ。あちらさんも、喜んで高値で買い取るいうてますんや」
「……」
「オトハ」
「オトハ!シバさんが来てるわよ。こっち向きなさい」
キキョウが強引に時計からオトハを引きはがすと、初めてシバに気が付いた。
「あっ、シバさん。どうしたんですか?こんなところまで」
「この方々は、メディーナのギルドの幹部さんたちや。オトハはんの技術、帝国に売れば一生遊んで暮らせるて、仰ってますのや」
「残念だけど、あの冷たいドロイドを作った人たちと組むなんて、絶対お断り! 道具を泣かせる技術なんて、アタシはいらないよ」
苦笑いするギルドの面々。
「いちど、言い始めたらオトハはん、難しいお人なんですわ。ま、気が向いたら寄っておくれやす。商売の門戸はいつでも開いてますよってに」
「いえいえ、今回はオトハさんの作品を引き取らせていただくだけでも儲けもんです。では、今日は挨拶だけでも。また、よろしゅうに」
ギルドの幹部たちも、名の知れた商人だ。
最初から順風満帆に行くとは思っていない。
できるだけオトハに悪い印象を与えずにその場を立ち去っていった。
◇◆◇◆◇
商人たちが大聖堂の外に出ると、頭上から鐘の音が響き始めた。
<< ――ゴォォォォォン…… >>
最初の一音が、王都の空気を震わせた。
だが、それはただの鐘の音ではなかった。
大小複数の鐘が、精密な機械仕掛けによって驚異的な速度と正確さで打ち鳴らされる。
響いてきたのは、バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』。
荘厳で、かつ数学的に完璧な旋律。
「な、なんだこの音は!? 音楽……鐘が、歌っているのか!?」
王宮内は一時パニックに陥った。衛兵たちが武器を手に空を見上げ、国王も窓に駆け寄る。
だが、数小節も経たないうちに、混乱は深い静寂へと変わった。
「……落ち着く。なんて癖になる音色なんだ」
街中の人々が足を止め、その美しい旋律に耳を傾ける。
「こ、これは……。これが『聖女』の力というのか!」
「まさに商品の領域を超える神具ですわ。値がつけられませんな」
「とにかくギルド長に報告して、今後の事を決めなあきません」
メディーナからの商業ギルド一行は、急ぎ足で帰路についていった。
◇◆◇◆◇
その後、オトハは鐘の修理に対する最大級の謝礼として、禁断の王宮図書室への立ち入りを許された。
2000年の連合王国の歴史が、そこには積もっている。
代々国王しか見ることが許されない、禁書には次のように書かれていた。
=世界の三界の構造=
・永遠の命を持つ「天界」
・1000年ごとに死んでは蘇る「竜界」
・そして我ら「ヒト世界」
=蘇りの魔法=
・かつて人が竜の子供を助けた礼として授けられた奇跡
・**『竜の鱗から作った鏡』**を媒体にして顕現する
=最後の奇跡=
5000年前、ある王女が最愛の恋人を蘇らせるためにその鏡を使ったのを最後に、鏡は『竜の祠』へ奉納されたと記されていた。
「『四つの音が重なる場所』って何かしら?」
本を読み終わり、オトハがキキョウに尋ねた。
「そこに何があるって書かれてたの?」
「竜の祠……。そこにサトルくんが言う、『蘇りの魔法』のヒントがあるらしいの」
「ただ、『四つの音が交わる場所』と言われてもねぇ……」
キキョウが古文書を指差して首を傾げる。
「四つの音……? ドレミファ、とか?」
オトハのボケに、サクラが低いため息をついた。
< ……あたしも前世じゃ聞いたことないわね。世界の東西南北で同時に鳴らさなきゃいけない音でもあるのかしら…… >
◇◆◇◆◇
「……うーん!」
オトハは突然、重厚な文献をバタンと閉じた。
「やっぱりアタシ、こういう小難しい話は苦手! 蘇りの魔法も鏡もいいけど、やっぱりアタシは目の前の壊れた魔道具を直してる方がワクワクするよ!」
「オトハ!? どこ行くんですか!」
走り出したオトハを、キキョウが慌てて追いかける。
「工房だよ、キキョウさん! 祠探しはサトルくんに計算させておけばいい。アタシは次の旅に備えて、工房を『寒冷地仕様』に魔改造しなきゃ! メディーナにも、きっとアタシの修理を待ってる道具たちがいるはずだから!」
「いつの間にメディーナに行くことになってんのよ」
< この子、キキョウも苦労するわね。まぁ、アタシは面白いけどね >
「あっ、サクラさん、何か変なことを言ってるでしょ。悪い顔しているわよ」
部屋に残されたオトハを見守る堕天使とキキョウ。
二人の顔に、新たな苦労の心配と、常識はずれなオトハにワクワクする思いが、何とも言えない表情が浮かぶのであった。
図書室を飛び出したオトハの背中には、一切の迷いもなかった。
伝説の魔法よりも、一本のネジ。
彼女のその「修理魂」が、知らず知らずのうちに、世界を開く**『二つ目の音』**を、ロンドラの鐘の音として響かせていたことに、まだ誰も気づいてはいなかった。
ご一読ありがとうございます。
「この作品、ちょっと面白そう」と思っていただけたら、
下の【☆☆☆☆☆】と【ブックマーク】で応援いただけると、執筆の魔力が爆上がりします!




