第20話:法王様から「聖女」の称号(押し付け)が届きました。 〜国王陛下、私の特性サーチライトで王宮を照らしてもいいですか?〜
翌日、王都ロンドラの朝は、金属が擦れる乾いた音と共に明けた。
かつて市民を震え上がらせた黒鉄の警備ドロイドたちは、今やオトハの手によって「お掃除ロボ」へと姿を変え、せわしなく石畳を掃き清めている。
街の外見は驚くべき速さで整えられていった。
しかし、そこを歩く人々の表情には、相変わらず生気がない。
「……みんな、魂をどこかに置き忘れちゃったみたいだね」
工房の窓枠に顎を乗せ、オトハがぽつりと呟いた。
第二王子の恐怖政治、そしてドロイドによる「効率的支配」は、人々から「自分の手で生活を彩る」という意欲を奪い去っていた。
効率だけが優先され、無駄や遊びが切り捨てられた街は、まるで彩度を失った古い写真のようだ。
「にゃー、にゃー」
中庭からは、場違いなほど愛らしい鳴き声が響く。
オトハが再構築した元・警備兵ドロイドたちが、しっぽを振りながら瓦礫を運んでいるのだ。
その無機質な鉄の塊から漏れる「にゃー」という響きだけが、重苦しい空気を、辛うじて繋ぎ止めているようだった。
◇◆◇◆◇
その日の午後。
オトハとキキョウは王宮の最深部、謁見の間へと足を踏み入れた。
「オトハ殿、キキョウ殿。……我が王国の窮地を救い、そして、息子たちの命を繋いでくれたこと。一国の王として、そして一人の父として、心より感謝する」
玉座から降り、歩み寄ってきた国王の手には、青いベルベットの箱があった。
中には、王国の守護者にのみ贈られる最高位の誉れ、**『蒼天の鷲勲章』**が収められている。
オトハは、差し出されたそのキラキラと輝く勲章を、指先でつつくように受け取った。
「わあ、これ、すごく純度の高い魔法銀ですね……。表面を薄く削って磨けば、工房のサーチライトの反射板にぴったりかも!」
「オトハ! 畏れ多いことを、言うんじゃないわよ!」
キキョウが慌てて割って入る。
その様子を見て、国王は「はっはっは」と声を上げて笑った。
ロイドが去り、この部屋にようやく人間らしい笑い声が戻った瞬間だった。
傍らで、一人の外交官が畏まって一歩前に出た。
「……なお、国王陛下。サンブルグの法王庁からも、オトハ殿への『聖女』認定に関する親書が届いております。長年、我が国と法国は不和にありましたが……法王より『特別にオトハ殿に伝えて欲しい』と、直接連絡がございました」
「ほう、それは素晴らしい。これをきっかけに、両国の雪解けが進むかもしれんのう」
国王の言葉に、皇太子ケインが頷き、王妃に説明を加えた。
「母上、パロマでのオトハ殿の活躍は凄まじかったのです。大聖堂の鐘を素晴らしい音色に修理され、その音は市民の病を癒やし、活力を与えたとか。今やパロマで彼女は『聖女』と呼ばれているのです」
「まぁ、なんて素晴らしいのでしょう」
王妃がうっとりと手を合わせる。
その隣で、国王が意を決したようにオトハを見た。
「オトハ殿……。ぜひ我が国の大聖堂の鐘も、修理してはもらえないだろうか」
「ぜひ……私からも……お願いします」
国王に続き、王妃までが立ち上がり、オトハに頭を下げた。
謁見の間にいた全ての者の目が、期待を込め てオトハに注がれる。
「えーーー、よろしいんですか! では、今から取り掛かりましょう!」
オトハは国王にぺこりと挨拶すると、返事も待たずに駆け足で謁見の間を飛び出していった。
キキョウが「今は拝謁の最中ですよ!」と追いかけるが、国王は満足そうに頷いた。
「かまわん。カイル、お二人を大聖堂に案内しなさい」
◇◆◇◆◇
カイルは、オトハの背中を追おうとしたキキョウの前に静かに立ち、優雅に手を差し伸べた。
「キキョウさん、こちらです。……ご案内しますね」
その所作は、かつての弱々しい王子ではなく、一人の騎士のようだった。
カイルがキキョウをエスコートしながら静かに扉の外に消えていく。
その後ろ姿を見て、王妃が国王の袖を引いた。
「……アナタ。気が付きました?」
「え、何をじゃ?」
「カイルですわ。どうもあのキキョウさんという方に、興味があるようですわよ」
「ほう……あのカイルがのう」
「あの子も、そんな歳なんですのねぇ」
残された大人たちの間に、春のような和やかな空気が漂い始めた。
しかし、その頃、大聖堂の塔の上では、そんな空気とは無縁の「職人の狂気」が幕を開けようとしていた。
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