第19話:死刑宣告の最中に「マイクテスト」の音が聞こえて、逆転劇の始まりです。〜銀行の差し押さえと、魔改造のコンボで帝国軍が泣きべそをかく日〜
王都ロンドラの処刑場に突如現れた空飛ぶ謎の箱舟……。
その出現のために、現場はハチの巣をつついたような状態となった。
十字架に縛り付けられたカイル王子を見ながら、
貴賓席に座る第二王子ロイドが冷酷な指先を天に掲げる。
「邪魔者を排除せよ、その後は処刑執行だ」
ロイドの号令一閃。連合王国が誇る近衛弓兵隊が前に出る。
ドロイドたちの攻撃は防がれたが、彼ら弓兵隊の攻撃を受けて
今まで無傷だった者など存在しない。
弦が弾ける鋭い音が重なり、
数百の矢が黒い雨となって『オトハ一号』へと降り注いだ。
放たれた矢は一点の曇りもなく工房の風防へと殺到する。
またもやキキョウが『聖域障壁』を展開する。
今度は障壁を二重に重ねて、発動した。
「な、障壁結界の二重掛けだと!?」
連合王国の弓兵たちは、通常弓矢を射る際に、
魔法で矢全体に物理強化をかけ、更に獲物をえぐる突破魔法の
二重掛けをおこなう。
そのため、通常の防御結界では簡単に破壊されてしまうのだ。
キキョウはそれを知っていたので、最初から二重結界を張っていた。
もちろん、これは天才キキョウだからできることで、
仕組みを知っているからと言って、誰もができることではない。
オトハ号は、黄金の幾何学模様に包まれると、
やがて、無数の弓矢を枯れた木枝のように灰燼にしてしまう。
「くっ、怯むな! 物理がダメなら魔法だ。
魔導師隊、『火力最大攻撃』だ! 焼き尽くせ!」
第二波は、連合王国「最強」の魔導攻撃。
十数人の魔導師が詠唱を重ね、巨大な火球が次々と工房へと着弾した。
轟音と共に紅蓮の炎が工房を包み込み、見守る兵士たちから歓声が上がった。
しかし、空飛ぶ工房は、煤一つ付いていない。
「ば、化け物か……。連合王国の最高位魔導すら、
傷一つ付けられぬというのか!?」
ロイドの顔から余裕が消え、絶望がその瞳を支配し始める。
◇◆◇◆◇
最強の攻撃の不発に膝をつきそうになるロイド。
その肩を、背後のベール男・フォイエルバッハが、冷たく、そして力強く掴んだ。
「……殿下、大丈夫です。所詮、『旧時代の遺物(魔法)』の代物。
今から本当の戦いというものをお見せしましょう」
フォイエルバッハが指を鳴らす。
黒い外套を脱ぎ捨てた帝国製のドロイドたちが、
一斉にその「筒」を工房へと向けた。
<< ――ッパァン!! >>
乾いた破裂音と共に、目に見えぬ鉛玉が空を裂いた。
そこには魔法特有の輝きも、精霊の予兆もない。
キキョウの魔法障壁は紙のように引き裂かれ、
オトハが座るコクピットの風防を直撃した。
誰もが「終わった」と思ったその瞬間。
「……趣味の悪いおもちゃですね。魔道具たちが泣いてますよ」
なぜか、無傷の姿で風貌から出て来たオトハ。
フォイエルバッハの瞳に、初めて拭いきれない「不快」という名の驚愕が走った。
◇◆◇◆◇
「にゃーちゃん、ありがとね」
そういうとオトハは、影から現れた子猫の頭を優しくなでた。
「ええい、何だというのだ!もう一度、ハチの巣にしてやれ」
フェイエルバッハがイラつきながらドロイドたちに指示を出す。
すると、わらわらと、数十匹の子猫が現れた。
「カキッ、カキッ」
一斉射撃をされた弾が、すべて子猫達の猫パンチで落とされていく。
「にゃーちゃんたち、お仕事の時間だよー! みんなと仲良くなってきてね!」
オトハの合図と共に、子猫、いや子猫ドロイドたちが、
帝国のドロイドたちに飛びついていく。
「にゃー、にゃー、にゃー」
オトハが吹き込んだ声が、あちこちの猫型ドロイドたちから発せられる。
彼らは愛らしい鳴き声を上げながら、最新鋭の帝国ドロイドたちに取り付き、
超高速でドロイドのネジを外し始めた。
「にゃー、にゃー、にゃー」
「な、何をしている……!? 我が帝国の……うわあああ!?」
ロイドの足元で、帝国自慢の警備兵が「ゴシュジンサマ、カタ、コッテマスカ?」と
無機質な声を出しながら、マッサージを始める。
彼らは、わずかな時間で猫型ドロイドたちに回路を乗っ取られ、
お手伝いロボとして上書きされたのだ。
殺戮の銃は捨てられ温かい紅茶が注がれる。
重厚な装甲は全自動お掃除モップへと変形した。
処刑場は一瞬にして、シュールな家事代行センターへと変貌を遂げてしまった。
◇◆◇◆◇
混乱の極みに達した処刑会場。
その中央へ、黄金の光を纏ったキキョウが舞い降りた。
まるで天界から天使が下りて来たかのような演出だ。
カイルは、感動のあまり涙を流している。
彼女が杖を一振りすると、カイルを縛っていた鉄鎖が飴細工のように溶け落ちた。
さらに、「浄化」の波動で国王夫妻にかけられた精神干渉の魔法を打ち砕いていく。
「……計算外だった。魔法と物理の融合が、ここまでとは」
フォイエルバッハが、冷徹な理知を湛えた素顔を晒す。
彼が次なる「兵器」を召喚しようとしたその時、背後の正門から、
聞き慣れた調子の良い声が響いた。
「おっと、そこまでですわ。その指を鳴らしはる前に、契約書を確認してもらえまっか」
現れたのは、シバだ。
彼はメディーナ国の公式な封印が施された公文書を高く掲げ、悠然と歩いてくる。
「ロイド殿下。あんさんが北の商人から買い付けたドロイド一式。
代金決済の仲介に入ったメディーナ銀行への支払いが、一刻前に滞りましたで。
よって、この王宮内にある全ての『帝国製備品』は、我がメディーナ国が差し押さえますわ!」
シバの背後から、メディーナの武装商船隊がなだれ込む。
しかし、そこにいたのは純粋の『帝国製備品』ではなく、オトハ印のメイドロボだった。
「あらら、もう遅かったわ。オトハはん、あんたけったいな事されましたな。
ま、これはこれで商品価値が上がったから、ボロ儲けや」
オトハは「にゃーちゃん」を肩に乗せ、不敵に笑った。
「シバさん、じゃあ、片っ端から趣味の悪い黒鉄の塊たちを、
全部『おそうじお任せくん』に改造しちゃってもいいですかー?」
「いや、もう、それ以上は……、やれやれ、仕方ありまへんな」
その言葉が終わる前に、すでに警備ドロイドたちに手を伸ばすオトハ。
「にゃーにゃー」
「うっきー、さいこー」
その後、ロンドラの処刑場にはオトハの奇声と、
にゃーちゃんの鳴き声が、いつまでも響いていたという。
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作品を書いてくれるドロイド、あったら私も欲しいなー(笑)。




