第18話:愛のない機械(ドロイド)はただの「呪い」です。〜処刑場に舞い降りた、蒼天を貫く欠陥だらけの移動工房〜
王都ロンドラでは、緊急の査問委員会が開かれていた。
議長席には、先週から体調を崩している国王に変わり、
第二王子のロイドが座っている。
重々しい空気の中、証言台に皇太子ケインが登壇した。
「ケイン兄上。あなたが私情で動かした十万の軍ですが……、
その派遣費用を使わなければ、このドロイドをさらに五百体導入でき、
王国の生産力は三割向上したでしょう」
ロイドが、冒頭から冷徹な数字が並べ、ケインを非難する。
(確かに国費で軍を動かしたのは事実だ。
しかし、それは国策として国王が認めたものじゃなかったのか……)
ケインはこの査問委員会に何か違和感を覚えた。
それに、そもそもロイドは、このように論理的に議論する男ではない。
(これは、誰かシナリオを描いている奴がいるはずだ)
第2王子の後ろに控える、顔を布で覆った謎の男、
おそらくは、この男が陰で意図を操っているのだろう。
「カイル、お前もだ。その耳が治った奇跡……北の商人が言っていたぞ。
『魂を売り渡す禁忌の魔導』の可能性があるとな。二人を国家反逆罪として拘束せよ」
ロイドの判決を聴きながら、ベールの男が薄笑いを浮かべる。
そして判決が終わると、帝国製の警備ドロイドたちが一斉に
カイルたちに近づき、銃口を向けた。
ケインとカイル、二人の王族は逆らう暇もなく連れ去られていった。
「お見事でございます」
「これも祖国ロンドラのためだ。
では、内側の問題は片付いた。次はシルバーランドを併合する準備に入る」
◇◆◇◆◇
一方、シルバーランド。
ロンドラの異変は、まだここまで届いていない。
オトハはいつも通り、工房でレンチを振るっていた。
そこへ、ランドセルぐらいの1つの小包が届く。
「あら、シバさん。メディーナから送ってきたのね。
って、まって……これ……ウッヒョー!」
オトハは鉄の臭いをかぎ取ると、ふがふが、音を立てながら開封した。
しかし。
「なによ、これ!」
中身は「北の大陸製のドロイドの残骸」だった。
オトハは、その黒鉄の塊を検分し、突如として工具を床に叩きつけた。
「……かわいくない。全然、かわいくないよこれ!!」
いつもの能天気な声ではない。
それは、道具を愛する技術者としての、芯からの怒りの声だった。
「この人形、使い捨てにするために、わざと心臓部を壊れやすくしてる。
直す気ゼロってわけ?……。こんなの、魔道具じゃない!」
< アタシが前世で見てきた「ある国の」機械に似ているわね。
そいつらは売ったら終わり、その後のことなんて一切考えない傲慢な奴らだったわ >
「魔道具だって心を持っているのよ!」
< そうね、オトハの魔道具は心を感じるものね >
「売ったら終わり、なんて、絶対に許せない」
オトハがひとつひとつ、ドロイドの残骸をなでながら分解していく。
そして、もう一度、念入りに組み立てを始めた。
やがて、それは子猫の形に再生していった。
「にゃーちゃん、今日からあなたは生まれ変わるのよ」
『はい。ごしゅじんさま。にゃー、うまれかわる』
オトハが、にゃーの頭をなでながら遠くをにらむ。
「他のドロイドちゃん達も、アタシが救ってあげる。
新しい命をあげるから、待っていてね」
そこへ、扉をたたき、キキョウが静かに扉を開けて入ってきた。
「オトハ、アンタは何か感じない?
ロンドラの方向から……重たい闇の気配が流れてきてるの」
彼女の瞳には、かつてないほど濃密な魔力が渦巻いている。
巫女としての特性が、何か不穏な気配を感じ取ったのだろう。
「サクラさんも、何か感じますか?」
< えぇ、感じるわ。この気配、怒りと絶望が混じった闇のものよ >
「キキョウさん、サクラさんも闇の気配を感じるって言ってます」
「もしロンドラに何かがあったら、オトハ、今度はアンタが助ける番よ」
「はい、そんな闇の存在なんて、
私のスペシャル魔道具ちゃんで蹴散らしてあげます」
「そうね、その意気なら大丈夫なようね」
「はい、そうと決まれば、どの子を連れて行こうかなー」
そう言い残すと、オトハは勢いよく立ち去り、
作業部屋で嬉々として、魔道具たちの品定めを始めた。
◇◆◇◆◇
再び、ロンドラ連合王国。
査問委員会は二日という超スピード判決が下った。
ここ王宮の処刑場では、カイルの処刑の準備が進められている。
明日は、皇太子が処分されるらしい。
国中には判決文が配られ、第二王子ロイドが、王の後継者となると宣言された。
ほどなくして、処刑場にカイルが連れて来られた。
貴賓席には、王と王妃が座っているが、魔法で意識を支配されているようだ。
「最後に言い残すことはないか?カイル。
せっかく話せるようになったのに、まさか最後の言葉となるとはな、わはははは」
「く、くやしい。父上までも……」
会場には見せしめのため、国中から貴族たちが呼ばれている。
みんな刑には反対だ。が、逆らうと明日は自分が断頭台に立つことになる。
そのため一言も発せず、ドロイドたちが刑の準備をする姿を見守っていた。
やがて、準備が整い刑の執行を待つばかりとなった。
静寂さがその場を支配する……。
後ろの席からは、我慢しきれず、すすり泣く婦人たちの声。
<< ドォォォォォォン!! >>
そこへ、空を引き裂くような轟音が響いた。
王都を覆っていた不気味な霧が、内側から吹き飛ばされていく。
霧の中から何かが下りて来た。
それは、巨大な歯車と蒸気機関が継ぎ接ぎされた、
『空飛ぶ移動式修理工房・オトハ一号』であった。
「な、なんだあの不格好な物体は! すぐに撃ち落とせ!」
第二王子ロイドの叫びに応じ、ドロイドが光魔弾を放つ。
一斉に高密度な光の弾が、オトハ号に降り注いだが、全く動じない。
オトハ号の周囲には、キキョウが『聖域障壁』を展開しており、
全てが無効化されてしまったのだ。
意外な展開に静まり返る処刑場……。
「「 あーあー、ただいまマイクのテスト中 」」
「「 オトハ、そんなの先にやっておきなさいよ 」」
工房のハッチが開き、銀の棒を持ったオトハが現れ、
謎のセリフを唱えたが、すぐさまキキョウがそれを取り上げ、
意に反して、キキョウの声が王都中に響き渡った。
「この声はキキョウさん……」
十字架に張り付けられたカイルが、嬉しそうに空を見上げた。
つづいて、またオトハの声がビリビリ聞こえてくる。
「「 お待たせカイルくん!
そこの趣味の悪いインテリア、今から全部バラバラにしてあげるねー! 」」
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