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第16話:拉致したはずが「至宝(厄介払い)」として返品されました。〜法王様、涙の懇願「早く帰って、二度と来ないで」〜

【 1. 霧の進軍:十万の沈黙 】


 ロンドラ連合王国とサンブルグ法国を分かつ大河、ルナ川。


 夜明け前の水面には深い霧が立ち込め、

その中を十万の兵を乗せた輸送船団が、巨大な影となって音もなく進んでいた。


 船首が波を切る音と、兵士たちの重苦しい呼吸だけが響く。


「……静かすぎるな」


 連合王国・皇太子ケインが甲板で呟いた。


 吐き出す息は白く、その視線の先にあるはずの法国の砦には、篝火一つ灯っていない。


 普通ならば、国境を侵す大軍に対し、

対岸を埋め尽くすほどの聖魔法士が光の矢の雨を降らせてくるはずだ。


「ケイン様、これは領内に引き込まれている可能性があります。伏兵にご用心を」


 バルカス将軍が、霧に濡れた剣の柄を握りしめる。

だがその時、カイルが霧の向こうに動く小さな灯火を見つけた。


「あ……あにうえ……あそこに、なにか……きます」


 現れたのは、重装甲の軍船ではなく、一艘の小舟だった。

船首には降伏を示す白旗が掲げられ、法王の使節が必死に手を振っている。


「……法王閣下よりの密書でございます! オトハ殿は傷一つ付けず、

最高級の礼遇を持ってお返しします! ですから……どうか、そのまま軍をお引きください!!」



 使節は、戦う意志が全くない、

いやそれどころか早くオトハを返したいという態度を見せた。


 バルカスとケインは、

抜こうとしていた剣を中途半端に止めたところで固まっている。


「サンブルグで何が起こっているのだ?」


「……」


 皇太子の呼びかけに誰も返事をしない。


「……おそらく、彼の地では尋常じゃない事が起こっているのかもしれません」


 側近の兵士がやっと声を絞り出す。


「でも、今の話じゃ、オトハはん無事なんやろ?それだけでも設けもんやで」


「そうですね……」


 キキョウは遥か先にいるオトハを気遣い、視線をサンブルグに向けた。


 まだ少女の面影を残すキキョウ。

そんな横顔をカイルは、ただ黙って遠くから見つめている。



【 2. 聖都潜入と「頬ずりする聖女」 】


 法王の密書を受け、急遽バルカスとケイン皇太子の間で作戦会議が行われた。


 結果、法王側の事態を確かめるべく、キキョウとシバ、バルカス将軍が

少数の精鋭を連れて聖都パロマへ潜入することとなった。


 ケイン皇太子とカイル王子、

連合王国の本隊は、非常時の後詰として国境に待機である。


 一向は、予想に反して何の抵抗にも合わず市内へ潜入できた。


 戦時下であるはずのパロマ市街は、

平和そうな日常が広がっており、とても危機が迫っているようには見えない。


 その一角からキキョウにとって耳を疑う名前が飛び込んできた。



「……聞いたか? 聖女様が昨日、広場の脱穀機に口づけをして直されたそうだ」


「ああ。さすが聖女様だ。壊れた魔道具を愛おしそうに頬ずりし、

涙ながらに分解されるお姿……あれこそ慈愛の極致だな」


「聖女?」


 聖女とはキキョウ自身が、王国で呼ばれている名称だ。

もしや、自分と同じ特別な魔力を持つ女性が、ここサンブルグにもいるのか?


 いや、しかし……、一点だけ気になる点がある……。


「……頬ずり?……分解?」


 おのずとキキョウの顔が引きつった。

誰の話か、察するに余りあったのだ。



 やがて、一行は街の中心にそびえ立つ大聖堂にたどり着く。


 ここは、周辺諸国の宗教の中心。

シンボルともいえる大聖堂の扉は、金銀が散りばめられ、まばゆい光を放っている。


 キキョウはゆっくりと扉を開け、黄金の装飾が施された貴賓室に入っていった。


「あっ……」


 目の前に、山のようなガラクタ……

もとい、魔道具に囲まれて優雅に茶を啜る少女がいる。


「やっほー、キキョウさん! どうしたの、こんなところまで?」


「……あんたねぇ」


 そこへ……突然。

二人の再会を切り裂くように、法衣をまとって老人が割って入ってきた。


その男は、キキョウの姿を見るなり、顔を輝かせ、詰め寄る。


「お願いだ、あの子を連れて帰ってくれ! 彼女が来てから

大聖堂のパイプオルガンは天使の音を出し始め、ワシの杖は勝手に喋り始めた!

ここにある宝も、寄付金も全て付けるから、どうか早く!!」


「オトハ、この方はどなた?」


「法王さんだよーーー」


「え……この方が……」


 キキョウが杖を出し、バルカスが剣を構える。


「やめて、この法王さん、とっても良い人だよ」


「だって……この人がオトハを……」


 拉致したはずの首謀者に、涙ながらに「連れ帰ってくれ」と懇願される。

さらに拉致されたオトハが、首謀者を「いいひとだよー」と言っている。


キキョウの思考は、敵と味方がグルグル回り、ついには動くことをやめてしまった。



【3.オトハ、法王を泣かす】


 神聖なる大聖堂に静寂が続いた……。


< ふわーー、良く寝たわ。……ってここどこよ? >


 静寂を打ち破ったのは、まぬけな大あくびだった。

眠そうな目をこすりながら、サクラが窓からふらりと入ってきた。


「あら、サクラさん、久しぶりです」


 キキョウと法王が話す横で、

突然、独り言を始めたオトハを、法王とバルカスが不思議そうに見つめる。


< ユヅキが天界に美味い飲み屋ができたっていうから、今まで飲んでたわ。

それにしても、オトハ、アンタまた何かやらかしたんでしょ >


「いつもの通りですよ」


< でもキキョウの顔は、いつもの通りじゃないわよ。まぁ、アタシは飽きなくて良いけどね >


「そんなことより、あれからアッポーくん、調子悪いんですよ」


< あんた、パスワードは入れた? >


 サクラがオトハの左腕、沈黙していた『アッポーウォッチ』を指差す。


「ぱすわーど?」


< その時計を動かすための、合言葉のようなものよ >


 オトハがサクラの言う通りに画面をなぞり、「合言葉」を口にする。

すると、アッポーウォッチが、青白い光を放ち、空中に立体的な光の地図を浮かび上がらせた。


「わあ……! これ、今私たちがいる場所ですよね? それに……」


 地図の遥か北。

荒野の果てに、静かに点滅し続けるもう一つの光があった。


< ……そこが、サトルがあんたを呼んでいる場所かもしれないわね > 


 サクラの言葉に、オトハがメモ帳を取り出し、狂ったように数値を書き留め始める。


 法王を含め、キキョウたち一行も、目が点になり、光の正体を凝視する。


 ますます混乱して停止したキキョウ。

彼女を、再び再起動させたのはオトハの頬ずりだった。 

 


「まったく、オトハったら」


 久しぶりのオトハペースに、にこりと笑うキキョウ。

後ろでは、目が点のままでその他大勢が二人を静かに見守っている。


「あのね、サクラさんが言うには、サトルくんが私を待っているみたいなの」


「で、ボクにもついてこいと?」


「えへへ。お願い」


「で、法王様はどうするの?」


「法王様、また遊びに来ますから帰っても良いでしょうか?」


 法王は目を潤ませて、ただ首を縦に振るだけだった。


(早く行け、早く帰ってくれ……)


「あんなに悲しそうな目をして、はやく帰ってきますね」


 法王が跪いて、頭を下げる。


(ほんと、早く帰ってよ。お願いだから)


 法王の心の叫びは、純粋オタクのオトハには一切通じない。


 余りにも痛々しい。

生殺しの会話は、その後1時間続いた。


 あぁ、神よ彼(法王)を救いたまえ……。

神に一番近い堕天使サクラも、オトハの無神経だけは目を背けることしかできなかった。

ご一読ありがとうございます。


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