第109話:せっかちなタートルくんと、好機の予感
「キルア様、今日もオトハさんがいらっしゃいました」
「あぁ、入ってもらいなさい」
「たいちょーさん、こんにちはー!」
「ちょうど今お茶にするところでした。一緒にどうぞ」
専属魔道具士の依頼を受けて以来、
オトハは毎日のように司令部を訪れていた。
「今日はこんなものを持ってきました!
名付けて『タートルくん』です!」
リュックから取り出したのは、
可愛いカメのイラストが描かれた一足の靴だ。
「ほう、靴ですか」
「タートルくんは凄いんですよ!
履いただけで疲れが取れるし、勝手に歩いてくれるんです!
でもカメなのでスピードは出ません!」
「履いてみてもいいですか?」
「慣れないと転ぶので気をつけてくださいねー」
キルアが興味深そうに靴へ足を入れようとした、その時。
『おい、旦那!』
「っ!? し、喋ったぞ、この靴……!」
『当たりめえだろ、生きてるんだからな。
……あ、俺っち魔道具だったぜ』
「ふふ、タートルくんは一足ずつ性格があるんです。
この子は少しせっかちなんですよー」
「あ、そうですか……」
履き終えたキルアが、ためらいがちに一歩を踏み出す。
『ほい、歩くんだな!
任せときな! ほい、ほい、ほい!』
「お、おお……!?
勝手に足が動く……! これは不思議だ!」
キルアはグルグルと部屋の中を歩き始めた。
〜30分後〜
「これは凄い! 全く疲れがないぞ!
空を飛んでいるようだ! あははは!」
「ですよねー! でも、最後が肝心なんです。
きちんと褒めて撫でてあげてください。
そうしないと次は動かなくなっちゃうんです」
「こ、こうですか……?」
キルアが撫でると、靴が嬉しそうに喉を鳴らした。
脱ぐと可愛い声で呟く。
『お、おう!
また必要になったら呼んでくれよな!』
「ふぅ、相変わらず癖が強い魔道具ですね(笑)。
……それにしても、なぜだろう。
オトハさんといると、妹と一緒にいるようで。
空気が似ているのかな?」
「あの絵の女の子ですね」
<コンコンッ!>
「キルア様! 本国からの急指令が届いています!
それと、第10軍と第32軍の司令官殿からも緊急連絡が……!」
「!……すみませんオトハさん、少々お待ちください」
キルアが別室へ入っていく。
直後――
<ドダンッ!!>
「本国は何を考えているんだ……!!」
壁をすり抜けて響く激しい怒声。
普段のキルアからは考えられない声だ。
やがて戻ってきたキルアの顔は、焦燥感で疲れ切っていた。
「お待たせしました……。
やはり我が軍が48軍に圧勝した情報が、
本国へ伝わってしまったようです」
「それじゃ、他のエリアに移動しちゃうんですか?」
「はい、その可能性が出てきました」
「わ、私、帰った方がいいですよね……?」
「いえ、むしろご相談があります。
……オトハさん、やはり我が軍のために
『魔導兵器』を作っていただけませんか?」
「そ、それは……」
「オトハさんが武器を嫌っているのは分かっています。
……ですが、これは侵略のためのものではありません」
「シバさんと相談してみます。
私、頭が悪いのでシバさんに相談するように言われていて……」
「そうしてください。
……急に困らせるようなお願いをしてすまない」
キルアは幼い兄弟の絵画に優しく触れた。
「私が軍に留まっているのは、
行方不明の妹を探すためなのです。
ですが本国は、他太陽系への侵略を強め、
罪のない人々の命を奪っている……」
「……妹さんのお名前は?」
「『キキョウ』といいます」
「ええええええっ!?
やっぱりーーーっ!?」
「っ!? 何かキキョウのことを知っているのですか!?」
キルアが絵画を置き、身を乗り出した。
「えーっと……子供の頃から兄弟みたいに育って……
黒髪で黒い瞳で、頭が良くて優しくて……
お姉さんみたいな人で……!
その人も『キキョウ』っていう名前なんです!」
「あぁ……神よ、感謝いたします……!」
「だけど、たいちょーさんと違って『人間』ですよー?」
「い、一度会うことはできませんか!?」
「シバさんに相談してみます!
武器の件も一緒に聞いてみますね!」
「ありがとう、オトハさん……!
あなたから感じていた懐かしい魔法の痕跡は、
妹の魔力だったのかもしれません」
キルアが指を鳴らすと、部下が大きな包みを運んできた。
中にはぎっしりとお菓子が詰め込まれている。
「……明日、またシバさんと一緒来ていただけますか?
これ、お土産の美味しいお菓子です」
「……ということで、お菓子につられて
キルアはんのお願いを押し付けられたんやな?」
テーブルに山と積まれたお菓子の前で、
正座させられたオトハが説教を受けていた。
「だってぇ……たいちょーさん、
侵略はしないって言ってたんですよー」
「侵略しない? どういう意味や?」
「他の世界の人を傷つけるのが嫌みたいで……
あ、その後ですが、友達の司令官さんたちからも
たくさん連絡が来ていました」
( 本国の命令が嫌で、
他の司令官からが連絡が来てる……?
侵略で使わない武器が欲しい……?)
シバの頭の中で、商人の盤面が一瞬で組み上がった。
(これは……ひょっとするとひょっとするで。
武器を売って大儲けしつつ、サクラちゃんの
『侵略を止める』命令も一気に守れるんとちゃうか!?)
「ふふふ。運が一方的にウチに向いて来たで!」
「シバさん、どうしたんですか?」
「いや、こっちの話や!
よし、明日ウチと一緒にキルアはんに会いに行こか!」




