↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/114

第106話:苦悩の司令官と、子ぐまの隠された神の手

「『4つ目の音』を探すためにも、

ウチらの素性がバレるわけにはいかへんで!」


 シバがオトハに言い聞かせている中、


 ……まさにその時。


 一番知られては困る存在――


 第89軍司令官キルアが、まっすぐこちらへ歩み寄ってきた。



「あっちゃーーーー。

 ……あちらさんから来てもうたわ……!」


 シバの顔からスッと血の気が引いていく。



(いざとなったら、ウチが命がけで時間を稼ぐ。

 オトハちゃんだけでも元の世界へ逃がすんや……!)


 シバは天使だが魔力はゼロだ。


 同じ天使でも、黒神のエリート天使相手では、

シバ(ユヅキ)は瞬殺されるであろう。


 幸いなことに、シバの手元には

89軍に用意した『ボタン』が1つ余っている。


 シバは必死に冷静さを装い、ポケットの中の

ボタンに手をかけた。



<ドクン、ドクン!>


 キルアが近づくにつれて、

シバの心臓の音がうるさくなる。


<ドクン、ドクン!>

<ドクン、ドクン!>



「キルアさまーーー! こっち、こっちー!」


「へ?

 オトハちゃん」


 死線をさまようシバの隣で、

オトハのすっとんきょうな声が響いた。


「あぁ、オトハさん。探していたんですよ。

 ……シバさんもご一緒でしたか」


「どうも、こんにちは……司令官様」


(ええい、どうにでもなれ! バレたらバレた時や!

 いけるとこまで行ったるわ!)


 シバは瞬時に商人の顔を作った。



「今日は大切な模擬戦やないのですか?

 こんなところに来て、よろしいんでっか?」


「どうしても一言、あなた方にお礼が言いたくて来たのです。

 ……兵士たちの装備、オトハさんが作ったのでしょう?」


(ほら来たーーーっ!)


 シバが再びボタンを固く握りしめる。


「えーーー、バレちゃいましたー?」


「大丈夫です。部下には堅く口止めをしています。

 知っているのは小隊長とソト、それに私だけです」


 キルアは周囲を見回し、低く呟いた。


「部下たちには『あれは本国から送られてきた装備で、

 ロクの鍛冶屋は調整しただけだ』と説明してあります」


「え、それじゃ……」


 シバが言いかけた言葉をキルアが遮り、

司令官の帽子を取り、深々と頭を下げた。


「すまない、シバさん!」


「へ……?」


「本当は、これを機会に名声を得て、

 装備を、我が軍全体に売りたかったのだろう?

 だ、だがそれは困るのだ……!」


「へ、へぇ……?」


 シバは黙っているだけなのに、

キルアが勝手に勘違いをしながら、軍の機密を

べらべらとしゃべっていく。


「89軍は……」


「89軍は最弱だ。

 だが、その89軍がエリートの48軍を圧倒した。

 この事実が本国へ伝わると、非常に都合が悪いのだ」


「でも、司令官様の出世の糸口になるのでは?」


「私は出世など興味がない。

 それよりも兵士たちが評価され……より強力な『異世界侵略軍』へ

 回されてしまう方が、私は嫌だ」


 キルアの本音に、シバは目を丸くした。


「彼ら1人1人には大切な家族がいる。

 最弱と言われようと、無事に家に帰る方が幸せなのです」


「なるほどな……。司令官様、ええ人でんな。

 でも、ええんでっか?

 皆さん、次も勝ってしまうかもしれませんで?」


「それは大丈夫です。兵士たちには、

 最終戦は『負けるように』指示してきました」


「ま、まさか、負ける指示でっか(笑)

 そんな司令官、聞いたことありまへんな(笑)」


 二人のやり取りを見ていたオトハが、嬉しそうに

うなずきながら、笑顔満面となった。



「キルア様、それとてもいい考えです。

 それに、子ぐまちゃんも、本当は、

 戦争じゃなくてこうやって使うと最高なんです!」


 オトハがシバの手から素早くボタンを奪う。


「あ、オトハちゃんそれあかん!」


 オトハは、キルアを振り返り、

ニヤリとしながらボタンをポチッと押した。



<ぽこんっ!>


 例によって、子ぐまが可愛らしく出現した。


 くりくりの目をパチパチして、起き上がると、

両手で目を擦って、周りを見渡した。


 第48軍が誇る、天才魔法士を頬むった

究極のマジックキャンセラー。


 今度は、どんな攻撃をしてくるのか?

 キルアとシバが一歩後ずさりして身構える。



 だが、オトハは子ぐまを抱き上げると、

甘えたような声で、話しかけ始めた。


「くまちゃん、くまちゃん!

 アタシ、肩がこっちゃったーーー!

 たすけてーーー!」


 オトハがワザとらしく肩をすくめる。


 すると子ぐまはトコトコとオトハの背後に周り、

トントンと小さな肩を叩き始めた。


「「……え?」」


 意外な展開に目を丸くするキルアとシバ。



 子ぐまは、適度なリズムでオトハの肩を叩くのだが、

あまりにも完璧な力加減で、オトハがとろけていく。


「ふはぁ〜」


 オトハが気持ちよさそうに目を細める。



「オトハちゃん、気持ちよさそうやなーー」

「あれは、ヒールに違いない。

 私も疲れているから、子ぐまに癒されたい」


 キルアとシバの心が『自分も揉まれたい』

という凄まじい衝動で満たされていく!



「次はキルア様ねー。シバさんは最後ですー」


「い、いや、私は任務中だから!遠慮を」


「キルア様、子ぐまちゃんが叩きたいって、

 言っていますよ。ほら、ちょっとだけでも……」



「本当に少しだけですよ」


 キルアが言葉とは裏腹な表情で、

子ぐまに背中を向ける。


「あぁぁっ……ふぁぁぁ……っ!」



 子ぐまに肩を揉まれたキルアが、

普段の凛々しさからは想像もつかない気の抜けた声を上げた。


「キルア様、分かりますかー?

 この子たちはマッサージが得意なんです。

 だから今後は、平和に使ってくださいね」


「分分かりました……オトハさん……!

 あぁぁぁ……痺れる……体中を電気が走る……っ!!」



◇◆◇◆◇◆


 1時間後。

 最終の第3試合は、第48軍の圧倒的勝利に終わった。


 ビオレが魔法剣術で前衛を瞬殺。

残りの部隊も『王式抜刀隊』で無傷のまま気絶させられたのだ。


「第89軍は私の予想を超えて健闘した。

最初の『解体処分』の話はなかったことにしよう」


 シリアは最後の最後で面目が立ち、上機嫌で引き揚げて行った。



「司令官、本当に宜しかったのですか……?」


 キルアの横で見送る小隊長が小さくつぶやく。


「あぁ。これでいいのだ。……これでまた、別太陽系への侵攻を

 1000年は遅らせることができる」


「し、司令官! ここではいけません。

 誰かが聞いていたらどうするのですか!」


「大丈夫だ。

 本国の馬鹿げた侵略方針などクソくらえだ。

 ……今日は疲れた。子ぐまマッサージへ行くとしよう!

 キミも来たまえ。身体がとろけるぞ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。