第105話:子ぐまの衝撃と、忘れられた存在・サトル
「な、お前……ふざけているのか!?」
石造りの観覧席。
通信用魔道具を握りしめた副官ヒスが、
思わず大声を張り上げた。
「どうしたのですか、ヒス?」
「は、はっ!
ビアンカ隊が降伏したと……!」
「 なぜだ!?
まだ攻撃らしい攻撃は始まっていないではないか!」
「それが……
何度も魔法攻撃を放ったのですが、
ことごとく無力化されたそうで……」
「馬鹿な! ビアンカには『魔力封鎖』という
得意技があったはずだ!」
「それも……防がれたそうです」
「例の……謎のSクラス魔法士か!?」
シリアの叫び声に、隣のキルアが反応した。
(うちの部隊にSクラスはいない。
……つまり、オトハさんが協力し始めたということか!
ならばこの勝負、最後まで分からんぞ)
だが、ヒスは冷や汗を流しながら首を振った。
「い、いえ……
それが、魔法士ではなく、『子ぐま』だとか……」
「「なに!?」」
シリアとキルアの声が重なった。
「現場の部隊が申しますには……『子ぐま』らしく……」
「子ぐまだと!? 何をふざけたことを言っているんだ!」
シリアが激怒してテーブルを叩いた。
「私もそのように問いただしたのですが!
突如として子ぐまたちが現れ、魔力を無効化し、
ビアンカ様を穴に落としたと……!」
(子ぐま……!?)
キルアの瞳がカッと見開く。
(そんな突拍子もないことをするのは……オトハさんだ!
やはりあの娘の潜在能力は未知数。絶対に軍へ勧誘せねば!)
一方、陣地へ引き揚げるビアンカたち。
「ふぅ。……本当に可愛らしいわねぇ」
相変わらず、子ぐまのぬいぐるみを抱きしめたままだ。
敗れたショックなど微塵もない。
兵士たちも嬉しそうにぬいぐるみを抱いて帰っていく。
その頃、第48軍・第3小隊の陣営。
高級士官ばかりが集まるスーパーエリート部隊。
ほとんどが上級貴族の子息で編成されており、
陣営も他の小隊とは違う特別ルーム。
そこで優雅に読書をしている女性がいた。
最凶最悪の魔法師と呼ばれるビオレだ。
「ローザに続き、あのビアンカまで敗れたのですか?」
「は、はい……ビオレ様。本当のようです」
第48軍の筆頭・長女のビオレが、
美しい眉をひそめた。
「それほどの精鋭が、
第89軍にいるとは思えませんが……」
「どうやら、優秀な魔道具士がついているようです。
ローザ様の極大魔法を防ぎ、ビアンカ様の魔法封鎖を
一瞬で解いたとか」
「……それは凄いわね。
極大魔法を防ぐなど、私でもできないわ。
でも、それが魔道具とどう繋がるのかしら?」
「兵士たちの装備が発動し、攻撃を防いだそうです」
「……そのような装備、聞いたこともありませんわ。
私が実際に見てみましょう」
「ビオレ様が、直々にですか!?」
「妹たちが敗れたのです。ご挨拶に伺うのが筋でしょう」
その頃、第89軍の陣営では2連勝に沸いていた。
もはや落ちこぼれの面影はない。
「シバ。あの娘のおかげでエリート軍に2連勝だ!」
「オトハちゃんって、
食堂の隅にいる大人しい子の印象だったんだけど……
本当は凄腕の魔道具士だったんだな」
その時、兵士が息をのんだ。
「あ、あれはキルア様! 司令官だ!」
<ガチャガチャッ!>
一斉に兵士たちが立ち上がり、敬礼を捧げる。
「皆さん、休んでください。
あの第48軍に2連勝とは、驚きました」
小隊長が一歩前に出た。
「はっ! 司令官殿、ありがとうございます!」
「それで……例の装備を見せてもらえますか?」
「はっ、こちらです!」
小隊長から手渡された防具を、キルアは手に取った。
「ほう……軽いですね。
しかも魔力操作が緻密に盛り込まれている。
……これが例の鍛冶屋で作られたのですか?」
「おい、ソト、答えろ!」
「はっ! その通りです。
鍛冶屋のオトハちゃんが作りました」
「やはりな。……それで、オトハ殿はどちらへ?」
「シバさんと一緒に、食堂でランチを取っているかと」
「子ぐまが皆さんを救ったと聞きましたが?」
「はい、こちらのボタンです。
押すと子ぐまが現れて魔法を無効化し、
ビアンカ様を包囲したそうで……」
「そ、それは凄いな。……ボタンを押してもいいですか?」
「やめた方がいいです。オトハちゃんに叱られます」
「ふふふ、それはいけませんね。やめておきましょう」
キルアはふっと表情を柔らかくした。
「さて皆さん。
次は……『決して勝たない試合』としてください」
「へ……? どういうことでしょう?」
「これ以上勝ってしまうと、周りからやっかみを受けます。
危険な前線へ引き出されることもあるでしょう。
……それに、48軍の司令官は性格が少々ね。
勝たせてあげて、花を持たせましょう」
「あ……なるほど! 我々も2回勝てて大満足です!」
「よろしい。怪我だけはしないように」
一方、食堂の隅のテーブル。
シバとオトハがパスタを頬張っていた。
「……そろそろ潮時やな」
「シバさん、どういうことでしょう?」
「オトハちゃんの魔導具が目立つと、
この先ウチらが動きにくくなるんや。
……そもそも、ウチらの目的はなんや?」
「あーーー、最新の技術を手に入れる!」
「ちゃうわい! ほら見ろ、忘れとるやないか!」
「えーっと、えーっと……」
「ええかオトハちゃん。
ウチらはな、『サトル』っちゅう奴を復活させるんやろ?」
「あぁっ! サトル君! 思い出しました、
4つ目の音だ!」
「せやで。
サトルを復活させて、悪い奴らをやっつけるんや!」
「はい! そうでした!
なんだかこの世界が面白くて、忘れていました!」
「ほんま頼むで……。
とりあえずキルア司令官とのパイプはできた。
次はどこかにある『4つ目の音』を探すんや」
「でも、どこにあるのでしょうか?」
「知らん!」
「えーーー!?」
「ともかく、今は目立ったらあかんちゅうことや」
「はーーい。……あ、でもシバさん。
あそこ、キルアさんが近づいてきますよ?」
「あっちゃーーーー……あちらさんから来てもうたわ……!」




