第104話:ラジオ体操と、もふもふに秘められた罠
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ソトの号令とともに、兵士全員が一斉にボタンを押した。
すると、ボタンがまぶしいまでに発行し、
ポコポコと「子ぐまのぬいぐるみ」が出現していった。
子ぐま達は、短い手足をバタバタさせ、綺麗に一列へ並んでいく。
ソトのボタンからは、ひときわ目を引くピンク色の子ぐ現れた。
「なんだ、これは!」
「かわいーーー!」
あちこちで驚きの声が挙がる中、
列の前に立ったピンクの子ぐまを筆頭に、ラジオ体操を始めた。
「ちょっと、オトハはん。
くまちゃんたち現れたのはえーねんけど……体操始めたで?
あれほんまに役に立つんかいな?」
「シバさん、分かってませんね!
急に動き始めると体に悪いんですよ!
起きたらまずはラジオ体操です!(きりっ)」
「わかったわかった!
でも時間ないで! 相手も次の詠唱始めたようやし!」
「そろそろピンク隊長が号令をかけると思いますよ。
……ほら!」
ピンクの子ぐまが、身振り手振りで仲間に指令を送る。
だが、はた目には可愛らしく踊っているようにしか見えない。
「89軍のところに……
何かぬいぐるみが湧いて出たぞ! なんの冗談だ!」
「か、可愛いーーーーーっ!?」
第48軍の女子隊員たちから、黄色い歓声が上がった。
詠唱中だった者までもが、子ぐまに目が釘付けだ。
「男ども、気を緩めるな! 作戦かもしれんぞ!
すぐさまファイヤーブレスで全体攻撃だ!
あのふざけたぬいぐるみを焼き尽くせ!」
部隊長に女子隊員からの冷たい視線が刺さる。
「か、関係ない! シリア様のご命令なのだ! 絶対だーっ!」
灼熱の炎が生み出され89軍に迫った。
「やばい、ファイヤーブレスが来る! 障壁魔法だ!」
「だめです! さっきから魔法が発動しません!」
「うーむ……この子ぐまたちに命運を託すしかないのか!」
<ピピーーーーーッ!>
慌てふためく兵士たちをよそに、
ピンクの子ぐまが、かわいい仕草で笛を鳴らした。
合計49体の子ぐまたちが素早く二手に分かれる。
そのうちの一方が一列になり、隊員たちの前面にたった。
鉄をも溶かす地獄の炎は目前だ。
あまりの威圧感に、兵士たちが目をつぶる。
刹那。
<……あれ? 熱くない!>
兵士たちが恐る恐る目を開ける。
焦土と、焦げ臭い空気が広がる中、
子ぐまの後ろ側、89軍の陣地は完全な無傷だった。
「ど、どうした、何が起こっている……!?」
「火炎が途中で途切れたように見えました!」
「子ぐまたちが不正でくれたのか?」
異常事態は、第48軍の後衛にも伝わっていた。
「初戦と同じです。魔力が効きません」
「またもやSランク治癒士の仕業かしら?」
「いえ……子ぐまらしいです」
「……は?」
「奴らの前に現れた子ぐまが手から冷気を発散し、
『物理的な冷気』で炎を相殺したらしく……」
「魔法が物理に負けたというの……!?
なんということ……」
絶句する配下を制し、次鋒ビアンカが前に出た。
「よろしくてよ。
そんな小手先の技など、わたくしが粉砕しましょう」
ビアンカが詠唱を始める。
精霊王にも届きそうな透明感のある声。
そして、力強い旋律が陣内に響く。
周りの兵士は、これから始まるスペクタクルを
ワクワクしながら見守っている。
一騎当千、その言葉通り、たった一人で1,000人の魔法士に
相当する巨大な魔法陣が空に広がる。
まさに起動しようとした瞬間――
<ボコッ!!>
「……え?」
ビアンカの姿が、一瞬で消えた。
詠唱は途切れ、空の魔法陣も綺麗に消滅する。
「ビ、ビアンカ様ーーーーっ!?」
慌てて駆け寄る兵士たち。
そこには巨大な落とし穴が穿たれており、
底でビアンカが横たわっていた。
「な、なんですってーーーっ!?
このわたくしを落とし穴に落とすなんて、
下劣なーーーっ!」
即座に立ち上がり、
怒りの報復を開始しようとするビアンカ。
だが、何度詠唱を唱えても魔法陣が現れない。
「ど、どうして……わたくしの魔法が……!?」
ふと気づくと、穴の周囲を子ぐまたちが囲んでいた。
短い手をパタパタと振りながら、首をかしげている。
「こ……ぐ……ま……?」
男兵士たちはビアンカの発狂を恐れて後ろへたじろぐ。
しかし女子兵士たちは、
愛くるしい姿に引き寄せられるように近づいていく。
「か、可愛すぎるーーーーーっ!!」
がばっとビアンカが子ぐまの一匹に抱きついた。
女子兵士たちも次々とぬいぐるみに抱きついていく。
「まさかこの子たち……
手から『マジックキャンセラー』を放っているの……?」
丸っこい手をなでなでしながら、ビアンカが呟く。
「でもどうやって……こんな可愛らしいぬいぐるみに、
そんな力があるなんて思えないわ……」
「そうですよねぇ……ふにふに……」
うっとりとした顔でぬいぐるみを愛でる女子兵士たち。
(相手側には恐ろしい策士がいる……
魔法を無力化しただけでなく、あっという間に
うちの戦力を奪うなんて……)
部隊長は震え上がった。
こともあろうか、最強のビアンカ様まで陥落しているのだ。
「ビ、ビアンカ様っ!」
「はっ……分かってましてよ!
でも……何でしょう、この満たされる気持ちは……」
子ぐまをぎゅっと抱きしめるビアンカ。
最強魔法士が無力化され、魔法攻撃まで封印された
第48軍に、もはやなすすべは残されていなかった。




