第103話:空に咲いた『子ぐまの顔』は<逆襲開始>の合図
「「炎よ、天から降り注ぎ大地を焼き尽くせ!」」
「「風を、大地を、海を凍らせよ!」」
ソトたちの合図で、第89軍の魔導士が一斉に叫んだ。
……だが。
「あれ……?」
「おかしいわ……魔法が出ない!?」
攻撃を受け持つ魔法士たちに異常が起きた。
炎も風も、詠唱の途中でかき消えてしまうのだ。
何度繰り返しても、精霊は顕現しない。
「……やっぱりな」
「シバさん、何が『やっぱり』なんですかー?」
高台の塔の上。
シバが腕を組み、細い目をさらに細めた。
「あのな、オトハちゃん。
これは89軍が『魔力封鎖』されたんや」
「ふうさ? 何も見えませんよ?」
「周りを取り囲んだ魔法士たちが、陣地を囲むように
結界を張ったんや。外からの魔素を完全に遮断しとる。
……それで魔力が足りなくなったんやな」
「なるほどー! それで魔法が撃てないんですね!」
「せやねん。
相手の隊長は相当頭が切れるで。何より戦い慣れとる」
「どうしましょう……ソトさんたち、負けちゃいますよ?」
「せやな。魔法が撃てんとなると、物理攻撃だけや。
それやと相手に勝つのは厳しいなー」
シバの言葉を聞いた瞬間、オトハの目が怪しく輝いた。
「……こうなったら、魔道具を使うしかありませんね!
いよいよボタンですかぁ? ボタンですよねぇーー!?」
「ちょ、ちょっとオトハちゃん! 近い、近いって!」
自分の魔道具の出番が来て、オトハは興奮を隠せない。
目を爛々と輝かせ、ズイッとシバに顔を近づける。
「一発くらい、あの装備なら大丈夫ですよ!
それよりボタンを押させてくださいよーーー!」
「うわっ、顔! ゾンビみたいになってるで! 落ち着きぃな!」
「押しターイ! ボタン押しターイ!」
ゆらゆらと顔を近づけて迫ってくるオトハ。
「わかった! わかったからその顔をやめぇ!
……まだあと1組残っとるから、あんまり手の内は
見せたくないんやけどな。そろそろ限界か。
ええで、押してまえ!」
「わーい! ソトさんに知らせますねー!」
オトハはポケットに手を突っ込み、
もぞもぞと何かを探し始めた。
一方、演習場の中央。
魔法が使えない事態に、
第89軍の小隊は混乱に陥っていた。
「ソト、どうする!?」
「隊長! 奇襲が失敗したら、正直お手上げです!」
「あははは!
見ろよ、89軍の奴ら、狼狽えてやがる!」
包囲する第48軍から嘲笑が上がる。
「これまで我々の必勝パターンから逃げられた敵はいない!
死なない程度に、じわじわと恐怖を教えてやる!」
「おい、今は敵とはいえ、
味方なんだから加減しろよ?」
「落ちこぼれ相手に本気出すわけないだろ!」
魔法士たちが一斉に杖を掲げ詠唱を始めた。
火力を抑えた無数の火の玉・ファイヤーボールが、
第89军の陣地へと降り注ぐ!
<<ドドドドドガァァァンッ!!!!>>
着弾と同時にナパームのような激しい火炎が広がり、
陣地一面が猛火に包まれる。
「ふぅ……まぁ、これくらいで十分だろ。
帰陣の準備を始めろ」
高熱を帯びた杖を冷却しながら、部隊長が鼻で笑う。
……その時だった。
「ぶ、部隊長! ち、ちょっと待ってください!
あいつら……まだ立っています!」
「なに……!? そんなはずは――」
炎と黒煙が晴れていく。
そこには、火傷ひとつ負わず、
涼しい顔で立っている第89軍の姿があった。
「なっ……例のローザ様の攻撃を防いだ、
Sクラス治癒士の仕技か!?
杖の冷却が終わり次第、再度攻撃に移るぞ!」
焦った部隊長が再び杖を掲げかけた
――その瞬間。
<シュルシュルシュルポンッ!!>
一筋の光が空高く打ち上がった。
<パァンッ!>
爆発した光は、
青空に『愛くるしい子ぐまの顔』を描き出した。
「なんじゃ、ありゃ……?」
呆然と空を見上げる第48軍。
『子ぐま』の真下にある高い城壁の上で、
オトハがぶんぶんと手を振っていた。
それを見たソトの目がカッと見開かれる。
「出、出たぞ! オトハちゃんの合図だ!」
ソトはポケットの装置を固く握りしめ、高らかに叫んだ。
「全員――装備についているボタンを押せぇぇぇっ!!」




