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第102話:静かなる封鎖と、忍び寄る異変

「敵陣で動きがあります!」


「え? ライトニングを受けて、

 まだ兵士が動いてるですって!?」


「はっ……誠に信じがたい状況ではありますが、事実です」


 煙が晴れていく荒野。


 そこにはピンピンした様子で陣形を立て直す、

第89軍の姿があった。


「第89軍もなかなかやるじゃない。

 ローザたちがやられた理由も、なんとなくわかったわ」


 第48軍の次鋒隊長・ビアンカが、冷ややかな笑みを浮かべた。



「敵に、相当強力な治癒士がいるわね。

 Sクラスの魔法に耐性を持たせられるとしたら……

 相手にも同じSクラスの治癒士がいるってことかしら?」


「第89軍に、Sクラスですか……? まさか……(笑)」


 控えていた兵士が苦笑する。

 だが、ビアンカは瞳の奥の冷たさを崩さない。


「じゃあ、アナタ。私のライトニングを受けて、

 あのように立っていられるとでも?」


「い、いえ……!

 ビアンカ様の攻撃に耐えられる者など、この軍にはいません!」


「答えは出ましたね。

 ……これからは通常通り、別太陽系侵攻で使用する戦術を使います。

 『プランアルファ』、準備!」


「ははっ! かしこまりまりました!」


 ビアンカが告げると同時に、小隊内へ一気に伝令が走った。



「……なに? プランアルファを使うだと?」


 現場からの報告が観覧席の副官に届いた。


「はっ。確かにビアンカ様がそう命じられました」


「まぁ、いい。あいつも幹部の一人だ。

 模擬戦で敵を殺すことはないだろう」


「……プランアルファ。

 48軍が得意とする『魔力兵糧攻め』のことか?」


 キルアが静かに呟いた。

 傍らのシリアが、あからさまに嫌な顔をする。


「さ、さすがはキルア。よく知っているな」


「昔の文献で読んだことがある。

 敵がいる空間の『魔素』を閉じ込め、外からの供給を完全に断つ。

 それによって魔素を枯渇させ、相手の魔法を無力化する戦術だったはずだ」


 キルアの完璧な解説に、

シリアは苦虫を噛み潰したように黙り込んだ。


「我が軍の兵を高く評価してくれるのは嬉しいが……

 これは多少やり過ぎではないか、シリア?」


「あ、あぁ……俺も正直そう思う。だが、あのビアンカが指示したんだ。

 あの女の勘は鋭い。お前の兵の中に、何か隠された『脅威』を感じ取ったに違いない」


「そうか。……わかった。君たちの作戦に異は唱えない」


 キルアは頷きつつも、内心で首をかしげていた。


 自分の兵の中に、Sクラスの魔法士が警戒するような人物が

いるとは思えない。



(もしや……オトハさんの存在か?

 いや、彼女は戦闘には加わっていない。


 すごい魔道具を作る子だが、

 Sクラスが警戒するレベルとは思えない……)



 演習場の中央。


 ビアンカは薄笑いを浮かべ、第89軍の陣営を見下ろしていた。


「さぁて。相手のSクラス治癒士がどう動くか見ものね。

……ま、動いたところで魔力が枯渇すれば、何もできないでしょうけれど。うふふ」



 一方、ソトたち第3小隊は、強い違和感を覚えていた。


 第48軍の魔法士たちに包囲されているのに、

一向に魔法攻撃が飛んでこないのだ。


 何度も確認に向かわせた斥候からも

「相手は詠唱を続けている」との報告しか戻らない。


「ソト、あいつらの動き……なんか変じゃないか?」


「そうだな。……だが、俺たちにはこのオトハちゃんの装備がある!

どんな極大魔法が来ようと全然大丈夫だ!」


「そりゃそうだ! 本当に頼れる鍛冶屋だぜ!」


 ソトはポンと胸を叩いて笑った。


 初戦にあったような極度の緊張感は、すでに陣地から消え去っている。


 オトハの装備への絶対的な信頼が、彼らに確固たる自信を与えていたのだ。


「よし! 今度は俺も前線に立って、あいつらに一泡吹かせてやる!」

「私も、自分の魔法がどこまで通じるか試してみるわ!」


「やってやるぜ! あはは!」


 勝ち気に士気を高め合う兵士たち。



 ――だが。


 活気あふれる陣地の中でただ一人、シバだけが笑っていない。

 高く聳える城壁の塔から戦場を見下ろし、細い目をさらに細める。


( ……何かがおかしいで。空間の『魔素』の量が、極端に減ってきとる。

 ……人間どもは、誰ひとり気がついてへんのか? )


 目に見えぬ「静かな檻」が、着々と第89軍を呑み込もうとしていた。

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