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第101話:雷撃の雨と、試される絆

 石造りの観覧席に囲まれた、広大な模擬演習場。

 風が吹き抜ける荒野に、静かな緊張が走る。


「今度も奇襲攻撃で仕掛ける!

 まさか相手も、同じ手で来るとは思わないはずだ!」


 ソトの激が飛ぶ。


 ドラの合図とともに、

魔導士たちが猛烈なスピードで詠唱を始めた。


 まぐれであっても、あの最強・第48軍に勝利したのだ。

 その事実は、兵士たちに大きな自信と勇気を与えていた。


「今度はもっとうまく立ち回ってやる!」


「私だって、今度はあいつらをボコボコにしてやるわ!」


 士気は最高潮だ。

 荒野の空気に魔力が満ちる。


 炎と氷の精霊が、鮮やかに顕現しかけた――その時。


 スッ……。


 構築されかけた魔法のフォルムが、一瞬にして霧のように消え去った。


「なっ……!? 詠唱を止めるな!」

「止めていません! 魔法が、消え……っ!?」


「何が起こっている!?」


 慌てて周囲を見渡す。

 だが、地上には何の変哲もない。


 ……異変は、上空で起きていた。


 演習場を包む青空が、見る見るうちに薄暗い鉛色へと染まっていく。


 刺すような冷気。重苦しい圧迫感。

 巨大な暗雲が、渦を巻いて立ち込め始めていた。


「まさか、これは……!?」


 気がついた時には、もう遅かった。



<< ガラガラガラガラ――ズババババァンッ!!!! >>



 眩い紫電が走る。


 天を割る咆哮とともに、無数の雷撃が第89軍の陣営へ降り注いだ!


「うわぁぁぁぁっ!?」

「ライトニングだ! 被雷防御を展開しろ!」


 激しい閃光と轟音が荒野を焼き払う。


 落雷の嵐が去り、もうもうと煙が立ち込めた。


 観覧席の副官が顔を蒼白にする。



「お、おいおい……模擬戦で死傷者を出すつもりか!

大丈夫か!? 被害を教えてくれ!」


 煙の向こうから、伝令の兵士が首をひねりながら戻ってきた。


「あ、あの……死傷者は『ゼロ』です」


「な、なに……!?」


「ただ……『ビリビリしびれて気持ちよかった』とのことです……」


「死傷者がいない!? ライトニングが気持ちいいだぁ!?」


 副官は思わず叫んだ。


「お前、寝言を言っているのか! ライトニングはA級魔法だ!

一撃で10人は殺傷できる大技なんだぞ!?」


 

 現場でも副官と同じような反応だった。


 ソトたち槍隊と、重騎士たちが待機している所にも

ライトニングの被害状況が伝えられた。


「うそだろ、ライトニングで死傷者ゼロなんてありえん」


 ソトと一緒に報告を聞いた重騎士のリーダーが叫んだ。

 

 最初、ソトも同じ反応を示した。

 しかし、あることを思いだし、煙を払いながら呟いた。

 

「……あり得るな」


「ソト、何を言っているんだ! 気でも狂ったのか?」


「この装備のおかげだと思う」


 ソトは自分の胸当てをポンポンと叩いた。


「この薄くて軽い装備が……A級魔法を防いだというのか?」


「お前もさっき、オトハちゃんのパンを食べただろ。

 何か感じなかったか?」


「あぁ。味は……まあ普通だったが、不思議と活力が湧いた。

 魔力も増えたような気がしたが……」


「気がしたんじゃない。本当に増えているんだよ。

 あのパンには、ハイポーション並みの回復力と強化効果がある」


「まさか、あのパンが……!?」


「あぁ。昨晩、

 俺たちは食堂で第48軍の奴らに絡まれて瀕死になった。

 だが、あのパンのおかげでこの通りさ」


「確かに、すごいな……。

 それなら、俺たちもまだ戦えるかもしれない!」



 一縷いちるの望みに瞳を輝かせる兵士。

 だが、ソトの表情は硬いままだった。


「あぁ。……ただし、さっきの『詠唱破壊』を見る限り、

 一筋縄ではいかないぞ」


「ソトもそう思うか。俺、聞いたことがあるんだ。

 S級クラスの魔法士の中には、敵の詠唱そのものを破壊する者がいるらしい」


「……じゃあ、あの雷撃を撃ち込んできた奴は、

 S級クラスの魔法士ってことか」



 荒野の向こう。

 

 立ち込める煙の先で、一人の女性

――ビアンカが冷たい瞳でこちらを見下ろしていた。


「そんな化け物を相手にするのか……。

 だが、逃げるわけにはいかない」


「あぁ。キルア様を辞めさせないためにも、絶対に勝つぞ!」


 ソトはポケットの中にある『謎の装置』にそっと手を伸ばした。


( ……いよいよ、このボタンを押すときが近いかもしれないな )

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