第100話:消えた重傷者たち
第89軍で、臨時のオトハ食堂が大盛況を極めている頃、
もうひとつの陣営には、凛とした号令がこだましていた。
「「 傾聴! これよりシリア様からの伝言を言い渡す! 」」
塵一つない第48軍の陣営。
そこには次鋒となる小隊50名が、寸分の乱れもなく整列していた。
先ほどの部隊とは雰囲気がまるで違う。
体格は小柄ぞろい。
しかし、1人1人の身体には絶大な魔力が流れている。
攻撃・防御・バフ・身体強化・治癒。
それぞれ特化した魔法別に10名でグループが編成され
戦術的な戦いを繰り広げる、いわばエリート中のエリート集団だ。
副官ヒスが全員の前に立ち、シリアの訓示を言い渡す。
「諸君、シリア様の言葉を伝える。
……私が何も言わずとも己の職責は分かっていると思う。
ただ一言だけ伝える。……楽しみたまえ」
「ははっ!」
「ヒス様!」
一糸乱れぬ敬礼がささげられた。
直後。
澄み切った、それでいて芯のある力強い声が響いた。
隊の先頭に立つ美しい女性――ビアンカだ。
「おぉ、ビアンカか。どうした?」
「シリア様にお伝えください。
ふがいない妹の屈辱、姉である私が拭ってみせます」
「うむ、お前なら間違いないだろう」
ヒスが満足そうに頷いた。
「相手はすでに初戦でボロボロだ。
お前の気の済むように戦うがいい」
「ははっ!」
◆◇ ◆◇ ◆◇
ヒスが観覧席に戻ると、上司シリアの姿がなかった。
どうやら控室に籠り、通信用魔道具の前から動けないようだ。
というのも、、、
先ほどの敗北が、生中継で本国へバッチリ流れてしまった。
最強の第48軍が、最弱と噂される89軍に完敗した。
これは本国でもショッキングな出来事だったのだ。
第48軍の前任司令官、軍のOB、支援政治家たちから、
怒号の魔導通信が山のように押し寄せていた。
シリアは今頃、小さくなって謝罪させられているはずだった。
「ふふ、いい気味です。あれだけ威張り散らしていたのが嘘のようですね」
キルアの横で、副官が愉快そうに囁いた。
「うむ。……それよりも小隊の様子はどうだ?」
「はい。それが不思議なことに怪我人もなく、
全員の魔力も充実しております」
「おかしいな。確か20名は戦闘中に重傷を負ったように見えたが……」
「いえ、私が確認した限りでは全員が絶好調でした」
「誰か優秀な治癒魔法士が、我が軍に入隊したのか?」
「そのような話は聞いておりません」
( ……まさかな )
キルアの脳裏に、あのおっとりとした少女の顔が浮かんだ。
「キルア様、何か思い当たりましたか?」
「いいや。……ふふ、いいんだ」
キルアはふっと口元を緩めると、力強く手を挙げた。
「それでは、合図を鳴らしたまえ!」




