第七話 残るもの、残ったもの
襲撃から数週間。
村には、少しずつ日常が戻っていた。
壊された門の修理も始まっている。
けれど、ウルトだけは以前と同じではなかった。
「……魔法」
誰もいない場所で、ウルトは自分の手を見つめていた。
「もう一回……」
目を閉じ、集中する。
何も起きない。
「くそ……なんなんだ」
何度試しても、あのときのような炎は出なかった。
「ウルト!」
背後から声がした。
振り返ると、シナーズが立っていた。
「またやってたのか」
「見てたのか?」
「最初から」
「……」
「悪い悪い」
シナーズは笑いながら、ウルトの隣に座った。
「それで? いつ旅立つんだ?」
「母さんの怪我が落ち着いてからになるから、もう少し先になるかな」
二人が旅立つことについて、村長は条件を出していた。
メルクルの怪我が落ち着くまで待つこと。
そして、村に一台しかない魔石式二輪車を使って旅立つこと。
今回の件でウルトたちが村を出ることについては、他の村人たちには「ウルトが修行に行くため」と説明することになっていた。
「そっか……」
けれど、シナーズはそれだけではないことを知っていた。
あの夜、ウルトが魔法を使ったところを見ていたシナーズは、村長から事情を聞かされていた。
「……怖くないのか?」
「何が?」
「俺のこと……。俺がヒューマなのか、ルフなのかも、よく分かんないのに」
シナーズは少し考えた。
「怖かった」
ウルトの顔が曇る。
だが、シナーズは続けた。
「でも、あのとき俺を助けてくれたのも、ウルトだろ?」
「……」
「だったら、それでいい」
「それでいいのか?」
「俺、頭いいからな」
「……自分で言うな」
二人は顔を見合わせて笑った。
――良い友達を持った。
ウルトは改めて、そう思った。
「どうするかなー、これから」
「旅のこと?」
「そっ」
ウルトには、夢があった。
「メルクルみたいに村の子供たちに勉強を教えて、警備兵にもなって……」
シナーズは黙って聞いている。
「……そうやって、何気ない日常をこの村で過ごしていくんだと思ってた」
その言葉が、静かに空気へ溶けていく。
けれど、もうその日常は戻ってこない。
ウルトは、その現実に胸を締め付けられるような思いがした。
「……」
「……」
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
「……よし! やめた!」
「え、なにが?」
「本当は、ウルトたちについていきたいって伝えに来たんだけど……やめだ!」
「……どういうこと?」
シナーズは立ち上がる。
そして、ウルトのほうを向いた。
「俺が守ってやる!」
「……」
「この村を。お前が帰ってくる場所を、俺が残って守ってやるよ」
「……シナーズ」
「……だから、いつか戻ってこい」
そう言って、シナーズは笑いながら拳を突き出した。
ウルトの心のもやが、完全に晴れたわけではない。
それでも――
シナーズの気持ちに応えたい。
応えなければ。
そう思った。
「ああ」
ウルトも拳を突き出し、シナーズの拳に軽くぶつける。
そして、二人は笑い合った。
その笑い声を、少し離れた木の影からメルクルが聞いていた。
その顔には、安心したような微笑みが浮かんでいた。
今回「魔石式二輪車」が出ましたが、こちらも前回の研究機関同様、のちのち説明する予定です。




