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第六話 失ったものと、失うもの

夜が明けた。

村には、昨夜までとは違う静けさが漂っていた。

村人たちは門の外に集まり、そこに倒れている男の遺体を確認していた。


「死んでるんだよな……」

「ああ」

「誰なんだ、こいつ」

「分からん」


誰も、その男が何者なのかを知る者はいなかった。

やがて男の遺体は運ばれていった。

そして――。


---


目を覚ますと、見慣れた天井があった。


「……ここは」

「起きた?」


声のした方を見る。


「……メルクル?」

「大丈夫かい?」

「……うん」


ウルトはゆっくりと身体を起こした。

頭が重い。

身体もまだ思うように動かない。


「まったく、家からは出るなって言っただろ?」

「……ごめんなさい」

「……起きたばかりで、いつもの調子が出ないようだね」


メルクルは苦笑した。

そして――。


「でも……」


彼女はウルトを抱きしめた。


「あんたが無事で本当に良かったよ」

「……」


ウルトの頬が赤く染まる。

いつからだろう。

育ての親であるメルクルのことを、こんなにも好きになったのは。

抱きしめられると、安心する。

そばにいるだけで、胸が温かくなる。

この時間が、ずっと続けばいいと思ってしまう。

今はただ、メルクルが無事だったことを、ウルト自身も噛みしめていた。

ウルトもメルクルに抱きしめ返そうと、腕を上げる。

けれど――。


「……え?」


違和感があった。


「……右腕」


ウルトの顔から血の気が引いていく。

さっきまでの火照りが、まるで嘘だったかのように消えた。

メルクルの右肩。

その少し先から――右腕がなかった。


「どう……したの?」

「……ああ」


メルクルは少しだけ視線を落とした。

そして、あの後に何が起こったのかを話してくれた。

ウルトを村長に任せ、自身は謎の男と対峙したこと。

これ以上、村に危害が及ばないよう、男を村の外へ吹き飛ばしたこと。

そして、その場所で戦ったこと。

男は倒した。

しかし――その戦いで、メルクルは右腕を失った。


「……」


ウルトは言葉を失った。

上げかけた腕が、ゆっくりと下がる。

自分が家を飛び出したせいだ。

自分が何かしようとしたせいだ。

もし、自分が言いつけを守っていたら。

もし、自分がもっと強かったら。


「ごめん……」

「何で謝るの?」

「俺が……」

「違う」


メルクルは左手を伸ばし、ウルトの頭に触れた。


「あんたが悪いんじゃない」

「でも……」

「村も、シナーズも無事だった」


メルクルは静かに言った。

村の門は壊れた。

建物もいくつか壊れた。

けれど――死者は出なかった。


「それだけで十分よ」


その言葉を聞いても、ウルトの胸は軽くならなかった。

自分のせいで、メルクルは右腕を失った。

その事実だけが、頭から離れなかった。


---


そして翌日。

ウルトとメルクルは、村長の家へ呼ばれた。


「君達には……伝えておかなければならないことがある」


村長は慎重に言葉を選んでいた。

普段とは違う、重い表情だった。


「昨夜、君が使った炎の魔法についてだ」

「……魔法」


ウルトは小さく呟いた。

あの時、自分の中から溢れ出した炎。

あれが何だったのか。

ウルト自身にも分かっていなかった。


「ヒューマには、魔法を使うことはできない」


村長は一度言葉を止めた。


「ああいや、正確には使えたとしても、普通ならあれほどの威力は出んのだ」


ウルトとメルクルは黙って聞いていた。

すると、村長はウルトをじっと見つめた。


「……私はルフだ」

「え?」

「長く魔力を扱ってきた。だからこそ、分かることがある」


村長は目を細めた。


「君から感じる魔力の性質が、ヒューマのものとは違う」


ウルトは息を呑んだ。


「むしろ……」


村長は少し考えるように言葉を選ぶ。


「私たちルフに近い」


「……俺が?」

「ああ」


村長は頷いた。


「いや――近い、というだけではない」


その言葉に、ウルトは黙り込む。


「君の魔力は……私よりも、エルフに近い」

「……え?」

「昨夜の炎もそうだ。君が放った魔法は、ただの魔法ではない」


村長は静かに続けた。


「君の中にある魔力そのものが、エルフのものに近いんだ」

「じゃあ……俺はヒューマじゃない?」

「そうであるが、そうではない」


村長は首を横に振った。


「君の身体は、どう見てもヒューマだ」

「……」

「だが、魔力だけは違う」


村長は一度目を伏せ、そして意を決するように言った。


「だからこそ、私は一つの可能性を考えた」


沈黙。


「君は、おそらく――」


村長はウルトを見つめた。


「ハーフエルフだ」

「……ハーフエルフ?」


聞いたことのない言葉ではなかった。

教科書にも書かれている。

遠い昔。

ヒューマとエルフ、その両方の血を引く者たち。

けれど、それは遥か昔の話だ。

現代で、そんな存在が生まれることなど――。


「え、いや……ありえない……」

「そうだ」


村長は答えた。


「だからこそ、問題なのだ」


ウルトは何も言えなかった。


「君がハーフエルフである可能性。そして、そんな存在が今もいることを研究機関に知られれば――」


村長は一度、言葉を止めた。


「村に何が起こるか分からない」


沈黙が部屋を包んだ。

メルクルも何も言わない。

ウルトは俯いたまま、自分の手を見つめていた。

昨日まで、自分はただのヒューマだと思っていた。

学校へ行って。

シナーズと剣を振って。

メルクルと家で過ごして。

そんな日々が、ずっと続いていくと思っていた。

けれど――。

村長は、静かに告げた。


「村を出てほしい」


ウルトは何も言えなかった。

村長はエルフの特徴を持つルフのおじいちゃんです。

会話に出てきた研究機関については、いずれ書きますので、今は「そんな機関があるんだなぁ」くらいで考えておいてください。

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