第五話 炎
――間に合わない。
そう思った。
目の前で、剣が振り下ろされていく。
シナーズは動けない。
自分は走っている。
けれど、距離が遠い。
「――っ!」
ウルトは手を伸ばした。
届かない。
もっと速く。
もっと――。
それでも、届かない。
届かない手の先へ、意識だけが集中していく。
同時に、胸の奥で何かが押さえつけられているような感覚があった。
「シナーズーー!!」
助けたい。
死なせたくない。
小さい頃から当たり前のように隣にいた友人が、いなくなる。
そんなことは、絶対に嫌だった。
ウルトの中に、激しい怒りが湧き上がる。
その瞬間。
胸の奥にあった何かが――
弾けた。
「……え?」
手のひらが熱い。
熱い。
焼けるように熱い。
次の瞬間。
――ゴォンッ!!
ウルトの手から、巨大な炎が吹き出した。
「な――」
炎は一直線に男へと突き進み、振り下ろされていた剣を弾き飛ばす。
「ぐっ……!」
男の身体がよろめく。
男は目を見開き、ウルトを見つめていた。
「……」
ウルト自身も、何が起きたのか分からなかった。
ただ――
手のひらから、炎が出ている。
それだけだった。
「……俺が?」
炎が消える。
同時に、全身から力が抜けた。
「なん……で……」
視界が霞む。
身体が重い。
立っていられない。
「――ウルト!」
誰かが叫んだ。
メルクルと村長が、こちらへ駆け寄ってくる。
その姿を見て、ウルトは少しだけ安心した。
けれど――
胸の奥には、言いようのない不安が残っていた。
自分は今、何をしたのか。
その答えを知ることなく、ウルトの意識は暗闇へと落ちていった。




