第四話 歪な明るい夜
その夜。
村は静かだった。
ウルトは自分の部屋で眠っていた。
メルクルも、すでに眠っている。
虫の鳴き声。
風が木々を揺らす音。
いつもと変わらない夜だった。
――その静寂を、轟音が切り裂いた。
ドォンッ!!
「……!」
ウルトが飛び起きる。
「何だ!?」
外から悲鳴が聞こえた。
「火事だ!」
「逃げろ!」
ウルトは慌てて窓を開けた。
村の入口。
門の方角が、妙に明るい。
そこから黒い煙が立ち上っていた。
「何が起きてるんだ……?」
そのとき、部屋の扉が勢いよく開いた。
「ウルト!」
「メルクル?」
メルクルの手には、普段は警備のときにしか持ち歩かない斧が握られていた。
「私は村長のところへ行く! お前は絶対に外へ出るな!」
「でも!」
「いいから!」
メルクルはそれだけ言うと、家を飛び出していった。
一人、家に残されたウルト。
外からは、遠くで人々の叫ぶ声が聞こえている。
何かが起きている。
それだけは分かった。
「……」
ウルトは拳を握りしめた。
親の言いつけを守る。
それが正しい。
分かっている。
それでも――。
「何か……できないのか?」
手を伸ばし、立てかけられた木剣を握る。
いつもなら心強く感じるその重さが、今は妙に頼りなく感じた。
村で何かが起きている。
なのに、自分だけがここで待っている。
そのことが、どうしても嫌だった。
ウルトは扉を見る。
しばらく黙ったあと――。
「……ごめん」
家を飛び出した。
夜の村を走る。
普段なら聞こえるはずのない、たくさんの声。
逃げ惑う人々。
何かが倒れる音。
木材が壊れる音。
そして――。
「……!」
村の門が、破られていた。
「何が……起きてるんだ……」
そのときだった。
「――やめろ!」
聞き覚えのある声が響いた。
ウルトは振り向く。
「!」
路地の先。
そこには、シナーズが倒れていた。
そして、その目の前には一人の男が立っている。
手には――剣。
ウルトは息を呑んだ。
「やめろ!!」
男がこちらを見る。
「……おまえは」
「シナーズから離れろ!」
ウルトは木剣を構えた。
――怖い。
足が震える。
目の前にあるのは、今まで何度も振った木剣とは違う。
本物の剣だ。
(これが……本物の剣に対峙する恐怖?)
握った木剣が、やけに軽く感じる。
それでも――。
「……シナーズを離せ!」
考えている時間はなかった。
男が剣を振り上げる。
「……!」
ウルトは駆け出していた。
「やめろおおおおっ!!」
だが――。
間に合わない。
男の剣が、振り下ろされた。




