第二話 メインパーズ家
放課後。
校門を出たウルトの隣には、シナーズがいた。
「今日、剣の稽古する?」
「する!」
「即答かよ」
「昨日負けたからな」
「まだ気にしてたのか」
「当たり前だろ」
ウルトは腰に下げた木剣を軽く叩いた。
「今日は勝つ」
「俺は土いじりしたいんだけどなあ」
二人は村の外れにある広場へ向かった。
村は決して大きくない。
家々が並び、小さな店があり、中央には広場がある。
村の外には畑が広がり、そのさらに向こうには森がある。
平凡な村。
平凡な暮らし。
それがウルトにとっては当たり前だった。
広場に着くと、二人は木剣を構えた。
「いくぞ!」
「来い」
木剣がぶつかる。
カンッ!
「くっ……!」
ウルトが押し込む。
だが、シナーズは足を引かない。
「相変わらず力あるな!」
「毎日畑で鍛えてるからな!」
「俺だって……鍛えてる!」
ウルトが踏み込む。
シナーズは剣を受け流し、素早く横へ回り込んだ。
……だが、それこそがウルトの狙いだった。
シナーズは気づかないまま、横へ回り込む。
「そこ!」
木剣がシナーズの肩に当たる。
「痛っ!」
「勝った!」
「なんだよ今の」
「母さんから教わった剣術だよ」
その後も、シナーズは小言を言いながら稽古を続けた。
なんだかんだ言いつつ、シナーズも負けず嫌いなのだ。
二人は笑いながら稽古を続けている。
その様子を少し離れた場所から見ている者がいた。
メルクルだった。
「……元気ですな」
「校長」
村の学校の校長が隣に立った。
「今日もですか」
「今日もですね」
「ウルト君は本当に剣が好きですね」
「私が教えていますから」
「それだけですか?」
「ふふ、どうなんでしょうね」
メルクルは広場を見つめた。
ウルトが笑っている。
その姿を見るメルクルの目には、教師としての優しさとは少し違うものがあった。
「十五歳、ですか」
校長が呟く。
「あなたが引き取ってから、早いものですね」
「ええ」
「それにメルクルさんがこの村に来て、もう二十年以上ですか」
「そんなになりますか」
「ウルト君も立派になりました」
メルクルは黙っていた。
やがて小さく笑う。
「……あいつは、まだ子供ですよ」
「そう思っているのは、メルクルさんだけかもしれませんよ」
校長はそう言って学校へ戻っていった。
メルクルはしばらくウルトを眺めていた。
そして、笑みをこぼしながら呟いていた。
「……そうですね」
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夕方。
「ただいま」
「おかえり」
家に入ると、メルクルが台所に立っていた。
「今日は何?」
「シチューだ」
「やった!」
「まずは手を洗え」
「はーい」
ウルトは洗面所へ向かう。
戻ってくると、テーブルの上には二人分の料理が並んでいた。
「いただきます!」
「いただきます」
しばらく二人とも黙って食べた。
「ん~……うまい!」
「ふ、そうか」
「今日、学校で歴史の授業があったんだけどさ……」
「私が教えてるんだけどな」
「そうでした」
ウルトは笑った。
「ハーフエルフの話」
メルクルの手が一瞬だけ止まった。
だが、すぐに食事を続ける。
「メルクルはどう思う?」
「どの話だ?」
「ハーフエルフの強さというか、特別さというか」
「……さあな」
「なにそれ?」
「歴史なんて、知らないことのほうが多いんだ」
「でも実際、ヒューマの俺たちやビートのシナーズより凄いんだろ?」
この世界には現在、五つの種族が存在する。
ヒューマンの特徴を持つ『ヒューマ』。
エルフの特徴を持つ『ルフ』。
ドワーフの特徴を持つ『ワーフ』。
ビーストの特徴を持つ『ビート』。
デーモンの特徴を持つ『ディーマ』。
しかし、現在では種族による違いは見た目や多少の得意分野に限られている。
長い年月の中で種族間の血が混ざり合い、現代の人々は皆、異なる種族の血を受け継いでいる。
人類共生時代が始まってしばらくすると、各種族の呼び名も変わったらしい。
「どうしてそう思う?」
「さすがに魔物の大群や天変地異を一人でどうにかできるとは思えなくて」
「教科書を信用しすぎるな」
「授業では歴史の面白さを語ってたくせに?」
「『自分の目で見たものを大切にしろ』……というのも親の教えだ」
「難しいこと言うなぁ」
「十五歳なら、そのくらい考えろ」
「十五歳だからまだ分からないんだよ」
「じゃあ十六歳になったら分かるのか?」
「たぶん」
「十七歳になったら?」
「もっと分かる」
「……二十歳は?」
「全部分かる」
メルクルが吹き出した。
「お前、二十歳を何だと思ってる」
ウルトも笑った。
その夜も、何気ない食事が続いた。
二人にとって、それはいつもの日常だった。
ウルトはメルクルと二人きりの時、なぜか呼び捨てになります。
見た目についてですが、ウルトとメルクルは私たちの知る人の姿そのままですが、シナーズは耳と両手両足が狼になっています。(定番ですね)




