第十七話 魔工師の秘密兵器
森から押し寄せてくる魔物たち。
村の戦える者たちは、それぞれ武器を構え、迫り来る群れを迎え撃っていた。
ウルトもその中に混じり、剣を握りしめている。
「はあっ!」
目の前に飛び込んできた魔物へ、ウルトは剣を振るった。
刃が魔物の体を捉え、そのまま地面へと倒れ込む。
「……やった!」
思わず声が漏れた。
今まで何度も剣の稽古をしてきた。
木剣を振り、何度も打ち込み、メルクルに叩きのめされる日々。
それが今、初めて本物の魔物を相手に役立っている。
もちろん、相手は生き物だ。
木剣での稽古とは違い、斬ったときの感触も、倒れたときの様子も違う。
決して気持ちのいいものではない。
それでも、自分の剣が通用したという事実に、胸の奥が熱くなった。
「おい! ぼーっとするな!」
近くにいた戦闘員の声に、ウルトは慌てて顔を上げる。
「す、すみません!」
再び迫ってきた魔物に向き直り、剣を構えた。
そのときだった。
「おーい! みんな! 待たせたな!」
聞き覚えのある声が響いた。
振り返ると、そこにはカイヴァンがいた。
その手には見慣れない筒状の道具。
さらに背中にも、同じような道具を背負っている。
「カイヴァン!」
「よし、間に合った! さあ、こいつの出番だ!」
カイヴァンは手に持った道具を構えた。
筒の先端には大きな穴が開いており、その下には魔石が取り付けられている。
「いくぞ! あみあみ君!」
カイヴァンが叫ぶと同時に、筒の先端から何かが勢いよく飛び出した。
次の瞬間、それは空中で大きく広がる。
「ギャッ!?」
魔物の体に網が絡みつき、そのまま地面へと押さえつけた。
「おおっ!?」
ウルトが驚いていると、カイヴァンは得意げに胸を張った。
「どうだ! 魔力網発射装置、その名も【あみあみ君】だ!」
「……そのままだな」
「分かりやすいだろ?」
カイヴァンはそう言って笑った。
「仕組みは簡単だ。魔石に蓄えられた魔力を使って、網の形にして発射するんだ」
「魔力を網に……?」
「そう! ただし、あくまで魔力でできた網だからな。時間が経てば消えてしまう。だから、捕まえたらすぐに仕留めてくれ!」
その言葉を聞いた村の戦闘員たちは、特に驚く様子もなく動き出した。
「こっちは任せろ!」
網に絡まった魔物へ、それぞれが武器を振り下ろしていく。
どうやら、この道具の使い方は村の戦闘員たちにも知られているらしい。
「カイヴァン、これも自分で作ったのか?」
「もちろん! 色々試行錯誤したぜ。それに、今回は魔石の心配もいらないからな!」
「魔石?」
「さっきウルトと一緒に実験しただろ? あのとき、魔力を込めてくれたおかげで、使えなくなっていた魔石がたくさん復活したんだ。おかげで、今は魔石に余裕がある!」
カイヴァンは背中の道具を軽く叩いた。
「だから、こいつらを持ってきたってわけだ!」
そのとき、少し離れた場所から低い唸り声が聞こえた。
「グルルル……」
ウルトがそちらを見ると、大きな狼の姿をした魔物が立っていた。
以前、メルクルが戦っていたワーウルフだ。
「ワーウルフ……!」
その鋭い目が、こちらを捉えている。
ウルトは剣を握り直した。
一人で戦えるかどうかは、まだ分からない。
だが、今はカイヴァンもいる。
近くには手の空いた戦闘員たちもいた。
「カイヴァン、あいつを倒そう!」
「おう! ただし、無理はするなよ!」
「分かってる!」
ウルトたちが構えると、ワーウルフは地面を蹴った。
「来るぞ!」
その巨体が、一気に距離を詰めてくる。
「いっくぞー! あみあみ君!」
カイヴァンが武器を構え、引き金を引いた。
魔力の網がワーウルフに向かって飛んでいく。
しかし、
「ガアッ!」
ワーウルフは素早く横へ跳び、網をかわした。
「ちっ! 外したか!」
だが、その動きによってワーウルフの進路が変わる。
ウルトはその一瞬を見逃さなかった。
「そこだ!」
剣を握り、踏み込む。
ワーウルフの体が目の前を通り過ぎようとした瞬間、ウルトの剣がその脇腹を捉えた。
「グルッ!」
確かな手応え。
しかし、ワーウルフは止まらない。
体をひねり、鋭い爪をウルトへと振り下ろしてきた。
「危ない!」
ガキンッ!
間に割って入った村の戦闘員が、盾でその一撃を受け止めた。
「攻撃は俺が受ける! 今のうちに離れろ!」
「ありがとうございます!」
ウルトが距離を取った、その直後。
「これでもくらいやがれ!」
声のした方を見ると、サイヴァンが槍を構えていた。
次の瞬間、サイヴァンの手から槍が放たれる。
一直線に飛んだ槍は、ワーウルフの脚へと突き刺さった。
「ガアアッ!」
ワーウルフの動きが鈍る。
「よし! 今度はこっちだ!」
カイヴァンが背中に背負っていた、もう一つの筒状の武器を構えた。
先ほどのものよりも太く、先端には大きな発射口が付いている。
「くらえ! どっかーん君!」
「名前が適当すぎるし、言いにくいな!」
誰かが叫んだが、カイヴァンは気にせず引き金を引いた。
発射口から飛び出したのは、網ではなかった。
魔力を帯びた小さな球体だ。
それがワーウルフの体に命中した瞬間、激しい風が巻き起こった。
「グルアアアッ!?」
風はワーウルフの体を包み込むように渦巻き、その中からいくつもの刃が生まれる。
鋭い風の刃がワーウルフの体を切り刻み、周囲の地面にも傷を刻んでいった。
やがて風が収まると、ワーウルフは血を流しながら地面に倒れ込んだ。
「す、すごい……!」
ウルトは思わず目を見開いた。
「どうだ! こっちは魔力玉発射装置【どっかーん君】だ!」
カイヴァンは得意げに武器を掲げる。
「セットする魔石によって、発射される魔力玉の性質が変わるんだ。今回はウルトの魔力を込めた魔石を使ってみたんだけどな!」
「俺の魔力を?」
「ああ。どんな技になるかは撃ってみるまで分からなかったんだが……まさか風の刃が出るとはな!」
カイヴァンは倒れたワーウルフを見ながら、興奮した様子で続けた。
「いやあ、面白い結果になった! 魔力によって、こんな違いが出るとは!」
「カイヴァン、そんなことより!」
ウルトは剣を握り直した。
ワーウルフは倒れた。
だが、まだ周囲には魔物がいる。
さらに、奥には別のワーウルフの姿も見えた。
しかし、今の戦いで分かったことがある。
自分の剣は、ちゃんと魔物に通用する。
仲間と協力すれば、強い魔物にも立ち向かえる。
「これなら……俺にも倒せる!」
ウルトは前を向いた。
まだ戦いは終わっていない。
剣を構え直し、次の魔物へと走り出した。




