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第十八話 空を支配するもの

 メルクルたちは、空を飛んでいくグラウクロウの群れを追いかけていた。


「まさか、村を直接襲ってくるとはな……」


 ガルドが空を見上げながら呟く。

 それにメルクルが走りながら答えた。


「少し前に、村の外で見つかった遺体を調べたでしょう? おそらく、あれもグラウクロウに襲われたものだと思う」

「そういえば、身体に爪で引っかかれたような傷があったな」

「ええ。おそらく、人間を捕まえて空へ連れ去り、そのまま地面に叩き落としたんだと思う」

「なるほどな……。それで、今回は村まで襲いに来たってわけか」


 レイグも話に加わる。


「しかし、どうして村を襲うんだ?」

「もしかしたら、子育ての一環なのかもね。あの大きな個体が群れを率いているのは間違いなさそうだし」


 メルクルは前方の空を見た。

 そこには、他の個体よりもひと回り大きなグラウクロウが飛んでいる。


「普通の魔物なら、ここまで組織的な行動はしない。あいつが群れに指示を出しているんだと思う」

「カラスの魔物って、そこまで頭が回るの……?」


 ミレナが驚いたように言った。


「ええ。だからこそ厄介なのよ」


 そう答えた直後、前方から何かが壊れる大きな音が響いた。


「急ぎましょう!」


 メルクルたちは、さらに速度を上げた。


 ---


 追いついた先では、グラウクロウの群れが村の民家を襲っていた。

 何羽ものグラウクロウが家々の屋根に取り付き、鋭い爪やくちばしで屋根を破壊している。

 中には、屋根の一部がすでに崩れ落ちている家もあった。


「おいおい……! 何をしてやがるんだ、あいつら!」


 ガルドが声を上げる。


「家の中には戦えない人たちがいるはずよ!」


 ミレナの言葉には焦りがこもっていた。

 グラウクロウたちは、ただ無差別に家を壊しているわけではない。

 戦える者たちが集まっている場所ではなく、民家を狙っている。

 つまり、家の中にいる人々を狙っているのだ。


「まさか、人が隠れている場所を理解しているのか……?」


 レイグが驚いたように呟いた。


「そうみたいね。厄介なことに、かなり知能が高い」


 メルクルは斧を握り直した。


「とにかく、これ以上好き勝手にはさせない! 弓と魔法を使える人は攻撃を! 他の人は周囲の警戒をお願い!」

「分かった!」


 メルクルの指示を受け、レイグたちが動き出す。

 レイグが弓を構え、他の者たちもそれぞれ魔法を放つ準備を整えた。


「撃て!」


 合図とともに、無数の矢と魔法が空へと放たれる。

 何羽かのグラウクロウが攻撃を受け、地面へと落ちていった。

 しかし、群れの数は多い。

 倒しても倒しても、次々と別の個体が屋根へと降り立とうとする。

 そのときだった。


「カァァァッ!」


 ひときわ大きな鳴き声が響いた。

 群れの上空を飛んでいた、大型のグラウクロウだ。

 その鳴き声を聞いた途端、群れの動きが変わった。

 屋根に取り付いていた個体も、攻撃を仕掛けていた個体も、一斉に翼を広げて上空へと舞い上がる。


「なっ……!?」


 レイグが驚きの声を漏らす。

 グラウクロウたちは、村の戦闘員たちから距離を取るように、次々と高度を上げていった。


「逃げた……?」

「いえ、違うわ」


 メルクルは空を見上げたまま答えた。


「射程の外に離れたのよ」

「射程の外だと?」

「私たちの攻撃が届きにくい距離まで離れたってこと」


 そう言っている間にも、グラウクロウたちは上空を旋回している。


「でも、攻撃をやめるわけにはいかない! 撃ち続けて!」


 メルクルの指示に、弓や魔法による攻撃が再開される。

 しかし、先ほどまでとは違い、なかなか命中しない。

 矢はグラウクロウたちの下を通り過ぎ、魔法も届く頃には簡単に避けられてしまう。

 たまに命中することもあるが、その数は明らかに減っていた。


「くそっ! これじゃ当たらねえ!」


 ガルドが悔しそうに声を上げる。

 そのときだった。


「後ろだ!」


 誰かの叫び声が響いた。

 振り返ると、上空にいた群れの一部が大きく旋回し、戦闘員たちの背後から急降下してきていた。


「くっ!」


 一人の戦闘員が、間一髪で盾を構える。

 グラウクロウの鋭い爪が盾にぶつかり、大きな音を立てた。

 続けて別の個体も飛び込んでくる。


「全員、背中を取られないように! 弓と魔法を使う人は、盾を持った人と組んで!」


 メルクルはすぐに指示を飛ばした。


「攻撃役を守りながら、互いの死角を補うの! 決して一人で離れないで!」

「分かった!」


 戦闘員たちは互いの背中を守るように陣形を整えた。

 盾を持った者が前に出て、飛び込んでくるグラウクロウの攻撃を防ぐ。

 その後ろから、弓や魔法による反撃を行う。

 これなら、上空からの攻撃にも対応できる。

 しかし、全員がその陣形に入れるわけではなかった。


「メルクル! そっちにも来るぞ!」


 ガルドの声が聞こえた。


「分かってる!」


 メルクルのもとにも、一羽のグラウクロウが急降下してくる。

 その鋭い爪が迫る。

 メルクルは一歩だけ横にずれ、攻撃をかわした。

 そして、すれ違いざまに斧を振るう。


「はあっ!」


 刃がグラウクロウの胴体を捉え、そのまま地面へと叩き落とした。

 間髪入れず、別の個体が背後から迫る。

 メルクルは振り返ることなく、迫ってくる気配を察知して身体をひねった。

 翼をかすめるように斧を振り抜く。

 羽根が舞い、グラウクロウの身体が大きく傾いた。

 そのまま地面へと落ちていく。


「すげえな……」


 少し離れた場所で戦っていたレイグが、思わず呟いた。

 片腕を失っているにもかかわらず、メルクルの動きには一切の迷いがない。

 斧を振るう速さも、敵の動きを見極める判断力も、他の戦闘員とは明らかに違っていた。

 次々と飛び込んでくるグラウクロウを、ほとんど一人で退けている。

 しかし、それでも状況が好転するわけではなかった。

 敵の数は多く、上空からの攻撃は止まらない。

 こちらも反撃を続けているが、倒せる数よりも、押し寄せてくる数の方が多い。

 何より、屋根を狙う個体への対処が追いついていなかった。


「このままじゃ、きりがないわね……」


 メルクルは斧を構えたまま、空を見上げた。

 群れの上空では、ひときわ大きなグラウクロウが悠々と旋回している。

 他の個体が攻撃を仕掛けるときも、距離を取るときも、必ずあの個体が鳴き声を上げていた。

 そして、その指示に群れは迷うことなく従っている。


「やっぱり、あいつが……」


 メルクルは目を細めた。

 群れを率いるボス

 あれさえ倒せば、少なくとも今のような統率された攻撃はできなくなるはずだ。

 だが、問題はどうやって倒すかだった。

 上空を飛び回る敵に、こちらから近づく手段はない。

 弓や魔法も、距離を取られてしまえば命中させるのは難しい。

 それに、ボスを狙うために戦力を割けば、残された者たちが群れの攻撃を受けることになる。


「どうにかして、あいつを地上に引きずり下ろせれば……」


 メルクルは再び斧を握り直した。

 目の前では、また一羽のグラウクロウが翼を広げ、こちらに向かって急降下してくる。

 メルクルはそれを迎え撃ちながら、群れのボスを倒す方法を考え続けていた。

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