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第九話 出ない炎

 村を出てから、次の日。

 ウルトとメルクルは、街道を走っていた。

 村を出る前に用意した荷物は、それほど多くない。

 必要最低限の食料と水。

 それから、野宿に使う道具。

 そして、腰に下げた木剣。

 メルクルの斧は、二輪車の横に取り付けられる部分に固定されていた。

 こうして見ると、本当に元はメルクルの二輪車だったんだな、とウルトは思った。

 二人の旅は、今のところ順調だった。


「……メルクル!」

「なに?」

「ちょっと休憩しよう!」

「まだ昼前よ! 走り始めてから、そんなに経ってないでしょう!」

「いや……俺の尻が……もう限界!」

「あー、まあ、そのうち慣れるさね!」

「その慣れるまでが大変なんだけどお!」

「まったく。でも、もう少しだけ走るよ! 日が高いうちに、次の休めそうな場所まで行きたいから!」

「えー!」


 ウルトは大きくため息をついた。

 しかし、休んでばかりもいられないことは理解していた。

 しばらくして、街道の脇に開けた場所が見えてきた。


「メルクル、ここは?」

「そうね。広さもちょうどいい」


 メルクルが魔石式二輪車を止め、二人は荷物を下ろした。

 ウルトはその場に座り込む。


「いったぁ……」

「じゃあ、休憩が終わったら修行ね」

「……え?」

「いくら旅をしているとはいえ、日課を忘れてはダメよ」

「ですよね……」


 普段なら積極的に修行をするウルトが、嫌そうな顔をした。

 よほど二輪車の揺れにやられているようだ。

 旅の途中でも、時間を見つけて修行をする。

 今はまだ目的のない旅だが、いつか新しい夢を見つけるかもしれない。

 そのためにも、安全に旅をするには強さが必要だ。

 そんなことをメルクルが考えていると、ウルトが自分の手を見ていた。


「今日も魔法の練習するのか?」

「……うん。一回も成功してないけど」

「……」

「やっぱり、才能ないんじゃないかな?」

「でも、あの時、炎は出た」

「……」


 ウルトは黙った。

 あの時。

 シナーズを助けようとした瞬間、自分の手から炎が出た。

 しかし、決して自分の意思で使ったものではない。


「もう一回、やってみましょう」

「分かった」


 ウルトは立ち上がった。

 少し離れた場所に向け、手を前に出す。


「……」


 目を閉じる。

 体の中にある何かを探す。

 炎が出た時の感覚。

 胸の奥にある何かが抑えられ、それが弾けるような感覚。


「……」


 しかし。

 何も起こらない。


「……出ろ」


 もう一度。


「出ろ……!」


 やはり、何も起こらない。

 感覚は覚えていても、それを意図的に起こすのは違うようだ。

 その様子を、メルクルは腕を組みながら見ていた。


「力みすぎじゃない?」

「うーん……」


 ウルトは手を下ろした。


「あの時の感覚は覚えているのに、どうやって出したのかが分かんないんだ」

「それもそうね。今まで魔法を使ったことなかったんだし」

「あー、どうしろっていうんだ」

「だから練習するの」

「……はーい」


 それからしばらく、ウルトは何度も魔法を試した。


 だが――。


 炎は一度も出なかった。

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