閑話 メルクル対謎の男②
男が飛んで行った先は、門の外側だった。
メルクルが門をくぐり抜けると、そこには男が立っている。
「驚いた。身体強化か?」
「それがどうした」
「いやなに……光属性の使い手がこんなところにいるとは思わなくてね。それに、かなりの使い手と見える」
光属性の魔法は、主に身体強化に使われる。
また人類共生時代より前までは、傷を回復することもできたと言われている。
魔法の属性には、火と水、土と風、そして光がある。
基本的に、すべての人間がすべての属性を有しているが、それぞれ得意とする魔法は異なる。
中には、属性を有しているにもかかわらず、使えないものもある。
メルクル自身、光属性では高い力を発揮できるが、他の属性は日常生活で使う程度だ。
「そうかい。あんたはそう言ってる割に、余裕そうだね」
「……」
男は黙っている。
しかしその顔には、喜びと、何か別の感情が混ざったような笑みが浮かんでいた。
「……目的は、果たしたか。……なら、ここからは私自身のために動いてもいいよな」
「?」
呟いた男の声は、メルクルには届いていなかった。
「いざ、お相手願おうか!」
「嬉しくないお誘いだね」
二人の間に静寂が流れる。
強者同士の戦いにまとわりつく、張り詰めた空気。
次の瞬間、二人の距離が一瞬で縮まった。
「「身体強化」」
「な!?」
メルクルは手こそ緩めなかったが、その顔には驚きが浮かんでいた。
自分と同等とは言えないまでも、男もかなりの光属性の使い手だったからだ。
二人の斬撃がぶつかり合い、辺りには風圧が飛び交う。
「ふはは! やはり強いな! まるでヒューマンだ!」
「ヒューマン? 私はそんなに老けて見えるかい?」
「いや、すまん! きっと人類共生時代が始まったころは、皆これほどの強さだったのだろうと、感傷に浸ってしまった!」
二人の剣技の応酬は凄まじかった。
しかし、徐々にメルクルが押し始める。
「まさか、本当にこれほどとはな!」
そう言うと、男は後ろに飛び退いた。
「では、こんなのはどうかな?」
男の手から風が吹き出す。
その手を振り抜くと、風の刃がメルクルへ向かって飛んでいく。
「魔法!?」
メルクルもその場から飛び退き、風の魔法を避ける。
しかし、着地点に向けて水の弾丸が三発飛んできていた。
「っく!」
メルクルは着地と同時に一発。
そして、続けざまに飛んできた二発の弾丸を、斧でかき消した。
「まさか、魔法もこんなに使えるなんてね」
「むしろ、こっちが本業さ」
そう言うと、男は頭までかぶっていた黒い服を脱ぎ捨てた。
「そういうことかい」
男はルフだったのだ。
今までの斬撃の応酬のほうが、男にとっては苦手分野だった。
その事実に、メルクルは冷や汗をかく。
「でも、そうと分かれば戦い方を変えるだけさ」
「なに?」
メルクルは大きく振りかぶる。
「ぜええええい!!!」
振り下ろされた斧の斬撃から、衝撃波が飛ぶ。
「っな!?」
男は慌てて地面から壁を作り出し、やり過ごす。
しかし、砂埃が舞い上がり、メルクルを見失ってしまった。
「そんなのありかよ――、っ!」
舞い上がった砂埃の中から、メルクルが飛び出してくる。
メルクルは男に向けて斧を振り下ろす。
だが、男も負けてはいなかった。
またも地面から壁がせり上がり、メルクルの腹部に激突する。
「がはっ!」
「っぐ!」
男にもメルクルの刃が届いていた。
左腕から血が流れている。
それからは、お互いに一進一退の攻防が続いた。
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メルクルの近接攻撃と衝撃波。
男の魔法による連続攻撃。
二人は息も絶え絶えになり、ボロボロになっていた。
「あんたとの戦い、楽しかったよ」
「負けでも認めるのかい?」
メルクルは男の言葉に、次の技で決まることを察した。
男は呼吸を整え、剣を構える。
「いつか、この技を思い出してくれたら嬉しいかな」
「?」
男のその言葉に、メルクルは本当に負けを認めたように感じた。
その時、男の剣が透明な光に包まれる。
魔法を剣に纏わせる技術は知っている。
だが、透明な光など見たことがない。
(なにをしてくる?)
「警戒しなくていい。あくまでやるのは、剣の打ち合いさ」
戦う者としての勘か。
メルクルは、その言葉に嘘を感じなかった。
「いいだろう。受けて立とうではないか」
「……ふ」
「「身体強化!」」
二人は最初と同じように構える。
そして、お互いに足を踏みしめた。
「「はあああああ!!!」」
斧と剣がぶつかる。
しかし、明らかに男の力が弱い。
(誘われた!?)
男が手首を緩める。
メルクルの斧が振り抜かれた。
そしてそのまま、男の剣がメルクルの右腕を切り裂く。
「!」
驚いたことに、男の剣は紙でも切ったかのようにメルクルの腕を切り落とした。
身体強化を無視されたような感覚。
しかし、メルクルは思考を止めなかった。
腕と一緒に落ちていく斧を掴む。
そして、下から上へと振り上げた。
「……」
その斬撃は、男の右脇腹から左肩までを一直線に切り裂いていた。
そのまま、男は地面に倒れた。
「……本当に……凄い……な」
メルクルも膝から崩れ落ちる。
切り落とされた右腕から、血が流れ落ちている。
「感謝……する……女兵士さん、最後に……名前を聞……いても……いい……かな」
「……メルクルだ」
しかし、その言葉が届いていたのか、メルクルには分からなかった。
すでに男の目から光は消えていた。
「……あんたが何者なのかも教えなさいよ」
メルクルは呼吸を整え、落とされた腕から服を取り上げる。
そして、口と左手を使い、右腕の止血をした。
そうしていると、村から警備兵の仲間が駆け寄ってきた。
この男が何者であったのか、メルクルには分からない。
しかし、やり遂げた達成感。
ウルトや村を守れたことに、メルクルは安堵していた。
やっぱり、難しいですね。
男が黒い服を着ていたのは最初から決まってましたが、急に頭まで被っていたことにしてしまいました。笑




