閑話 メルクル対謎の男①
メルクルも眠っていた。
しかし、その眠りは戦う者の眠りだった。
何かが起きれば、すぐに反応できる。
それが、いつものメルクルの夜だった。
――ドォンッ!!
いつもの静寂を、轟音が破った。
「……!」
メルクルは飛び起きると、そばに置いてあった装備をすぐに身につけた。
そして、自身の武器である片手斧を握りしめ、部屋を飛び出す。
「ウルト!」
「メルクル?」
そこには、動揺した様子のウルトが立っていた。
「私は村長の所へ行く! 絶対に外には出るな!」
「でも!」
「いいから!」
そう言うと、メルクルはウルトを家に残し、外へ飛び出していった。
村長の家へ向かう道中、門の方角から逃げてくる村人たちと何度もすれ違った。
「村長!」
「おお、メルクルか」
村長の家に着くと、村長と数人の警備兵が集まっていた。
「何があったんです?」
「分からん。すでにここに来た他の警備兵には、村人たちの救助と、何が起こったのかの調査に向かってもらった」
「分かりました。では、私もすぐに向かいます!」
「待ってくれ。私も行く」
「いや、しかし……」
「頼む。何か胸騒ぎがするのだ」
この村では、村長が警備兵の指揮もになっている。
そのため、基本的に村長自身が前線へ向かうことはない。
しかし今回は、何か気になることがあるらしい。
自ら前線へ向かおうとしていた。
その様子に、メルクルも違和感を覚えていた。
だが、今は時間が惜しい。
「分かりました。しかし、私のそばから離れないでください!」
「恩に着る」
そう言うと村長は、その場にいる警備兵たちへ指示を出した。
そして、そのうちの一人にこの場での指揮を任せる。
「では、行きましょう」
「ああ」
メルクルと村長は、嫌に明るい門の方角へ走り出した。
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途中、メルクルは再び違和感を覚えた。
門に近づくにつれて建物の被害は大きくなっていく。
それなのに、負傷していると思われる村人が一人もいない。
「メルクルさん!」
門に着くと、先に到着していた警備兵の一人が声をかけてきた。
「状況は?」
「はい。見ての通り門は破壊され、周りの家屋にも被害が出ております。しかし幸い、壊れた建物には誰も住んでいなかったため、皆、逃げ出せたものかと」
(これだけの被害で、誰も怪我をしていないというのか?)
「……分かった。それで、こんなことになった原因は?」
「目撃者によると、黒い服を着た人物がやったとのことです」
昼間、村長と話していた人物のことだろう。
メルクルはそう考えた。
「それで、その男というのはどこに行ったんだ?」
「申し訳ありません。私たちがここに来た時には、すでに姿はなく――」
「やめろおおおおっ!!」
近くの路地から、聞き馴染んだ声の叫びが響いた。
「お前たちは引き続き、ここの消火を!」
「はっ!」
本来であれば、付いてきた村長もこの場に残すべきだった。
だが、そんなことを考える余裕はなかった。
メルクルは焦っていた。
自分の命よりも大切な存在が、危険な目に遭っているかもしれない。
その思いが、メルクルの心を占めていた。
「ウルト――!」
路地裏に入った瞬間。
メルクルは、目の前で何が起こっているのか理解できなかった。
自分の息子。
ウルトの手から、凄まじい炎が謎の男へ向かって伸びていた。
今まで、一度も魔法を使ったことのなかったウルトが。
いや。
色々な種族の血が混ざった現代において、基本的に魔法は誰でも使える技術だ。
しかし、ウルトは今まで魔法を使ったことがない。
むしろメルクルからすれば、魔法を使えないようにも見えていた。
「これは……ありえん!」
そんな声に振り返る。
そこには、何かに驚愕したような目でウルトを見つめる村長がいた。
いったい、何が起きているのか。
メルクルは張本人であるウルトへ再び視線を戻す。
すると――
ウルトは、力が抜けたようにその場へ倒れた。
「!」
しかし、次の瞬間。
メルクルの思考は、戦闘へと切り替わっていた。
先ほどの炎によって弾き飛ばされた剣を、謎の男がすでに拾っていたからだ。
「村長! ウルトとシナーズをお願いします!」
「メルクル!」
そう叫ぶ村長の声を背に、メルクルは勢いよく謎の男へ向かって走り出した。
(身体強化)
「……なっ!?」
メルクルの斧と、男の刃が激突する。
――ドゴォンッ!!
メルクルの一撃は、男ごとその背後の建物を吹き飛ばした。
そのまま村の外へ飛んでいく男。
メルクルは一瞬たりとも迷わなかった。
男を追って、村の外へ走り出す。
こうして――
メルクルと謎の男の戦いが始まった。




