貝
きゅう
双子は。
眠そうな、鶏たちの、紐をひいて、
泣きべそをかきながら、走ってきた。
正時は、鐘撞堂から、海を眺め、
つき棒の綱を、握りしめている。
双子は。
正時の、右のふくらはぎに、揃って、
噛みついた。
鶏たちは、右足の甲を、くちばしで、
容赦なく、突いた。
みんな、いない!
突き抜けるような声で、叫ぶと、
大声をあげて、泣いた。
美波が、慌てて、走ってくる。
正時は、よろめき、後ろに、倒れかけた。
歯を、くいしばり。
綱のおかげで、持ち直したが、
勢いあまって、全体重をかけたまま、
前に向かって、滑った。
つき棒が、鐘を、強く、ついた。
和尚も、うっかり、つられて、ついた。
2つの鐘が、響き合う。
音は、広がりながら、四方に、
響きわたっていく。
海の底で。
巨大なあぶくが、ぼこっと、出た。
急激に。
上昇し。
ぶふぉと、鳴りながら、海面を、
破裂させた。
飛沫が高くあがり、岩のような貝が、
飛び出した。
海水を、撒き散らしながら、舟を、
飛び越え。
砂浜に、向かって、飛んでいく。
ひとびとが、慌てて、逃げる。
あああ!
ご老体!
無茶なさるな!
お頼みいたします!
叫びながら、いくつもの、丸く白い光が、
風を切って、追いかけて行った。
地響きがして。
浜の砂が、ふきあがった。
貝って。
飛ぶんだな。
一体は、つぶやいた。
言っておく。
普通は。
ああいうふうには、
飛ばねえぞ。
やっぱりな。
神さまだ。
すげえなあ。
くじらかっての。
大きく揺れる舟から、ぼんやりと、
眺めた。
日が、ゆっくりと、あらわれる。
海は、向こう側から、明るくなっていく。
正時と美波は、双子をひとりずつ、
抱えて、走った。
光が、海原をすべり、やってきた。
貝は、ゆっくりと、開いた。
白い湯気が、あふれ出して、
貝の前にひろがり、立ちのぼる。
丸い光は、次々に、武者になり、
貝に、寄り添い、見つめた。
湯気は、人の形に、なっていく。
おお。
姫様。
武者たちは、言った。
姫は、ふたりの御子を、
抱きかかえている。
ふたりに、顔を、寄せたあと。
貝の方に、身をかがめた。
貝に、ふたりの顔を、見せるように、した。
白い衣と。
黒く、長い髪が、ゆれている。
正時、美波、左位一門が、ひざまずく。
双子は、抱えられたまま、じっと、
見ている。
姫は、ひとり、ひとりを、見つめた。
本当に。
ながいときを。
忘れずに、いてくれた。
なんと、ありがたいことか。
これからは。
我らのことは。
こころの片隅に、置いて、おくれ。
それで、じゅうぶん。
そなたたち。
それぞれが。
根付いた土地で。
たとえ。
いまはまだ、定まらずとも。
どこであっても。
安らかに、暮らして、ほしい。
姫は、穏やかな顔で、頷いた。
日が、真正面に、のぼる。
金色にゆらめく、その、丸い、海は。
輪郭の、ぜんぶを、惜しげもなく、
飛ばして、よこす。
姫は、波に向かって、砂を踏む。
守るように。
武者たちも、こちらに、背を向けた。
一体は、鐘を、ついた。
潮風に、衣が、はためく。
三咲の目は。
光を映して、水をたたえ、なお、輝く。
音は。
波に、足をひたした、姫たちを、
突き抜けた。
その、背の。
うっすらとした、
灰色の雲は、散り。
ほんのわずかな、灰色の煙が、
姫たちを追い越して、すべり行く。
白いすじは。
日の光に運ばれて、高いところに、
のぼって行った。
鐘が、続けて、鳴る。
姫たちの姿は、消えていった。
つづく




