いちまい
じゅう
正時は、貝に、近づいた。
後ろから、人々が、のぞきこむ。
貝の身は、無く。
金糸や銀糸、さまざまな、
美しい色の糸で、織り上げられた帯が、
うずを、巻いている。
その、まんなかに。
七色の膜にくるまれ、しっかりと、
かためられた、小さな、ふたつの、
頭蓋骨が、並んでいる。
正時は、膝をついた。
両手で、すくうようにして、持ち上げた。
強く。
潮風が、吹いた。
帯が。
端から、ふわりと、舞い上がり、
うずを、解きながら、長く、長く、
のぼっていく。
端から端まで、宙に、飛び立つと。
とても、数えきれないほどの。
たくさんの、四角い、布に、変わった。
人々の、手元へ、おりてくる。
いちまい、いちまいが、
ひとり、ひとりに、
おりてくる。
それでも。
布の群れは、少しも、小さくならず、
次々に、吹く風にのって、すすみ出す。
鐘撞堂のうえを行き、緑の山に、
向かっていく。
山のうえまで行くと、それは。
きらめく。
いちまいの、大きな布のように、
見えた。
山を越えて、それぞれの、行き先を、
目指す。
貝は、そのとき。
それは細かな、白い砂に、なった。
たっぷりとした波に、つつまれて、
ゆっくりと、海に、帰って行った。
一体は、三咲を背負って、山道を、
歩く。
ほら。
あったぞ。
届くか。
一体は、木に、背を向けた。
三咲は、手を、伸ばした。
赤い、小さな、実のなる蔓を、
切らないように。
静かに、引き寄せながら、
ひとつ、つまんで、取る。
もうひとつ、取る。
体をひねり、手を伸ばした。
三咲が、つまんでいる実を、
一体は、横を向いて、食べた。
三咲も、食べた。
実は、懐かしく。
甘い。
おしまい




