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けむりちる  作者: 川進
6/10

ろく



嫁いできた、三咲が、目の前の、

布団に、すっかり、潜り込んでいる。


一体は、どきどきしながら、考えている。


さて。

うえか。

したか。


自分の鼓動で、まわりの音は、ほとんど、

聞こえない。



さて。

(布団の。)

うえ(の方から、潜り込む)か。

した(の方から、潜り込む)か。


と、考えている。



正時は、ふすまに、はりついている。

音がしないように、膝をたたいたり、

舌打ちしたり、している。


がんばれよ。


こころの底から、祈って、つぶやく。



ちちさま!


耳もとで、双子が、声を合わせて、

叫んだ。

集中していた正時は、ひどく驚いて、

体勢を崩した。


ふすまが、倒れた。


一体は、飛び上がったあと、転がった。

三咲は、赤い顔を、のぞかせた。


あねさま!


双子は、容赦なく、ふすまを踏み抜き、

行こうとする。

平らな枕を、小脇に抱えている。 


いつ来た。

こら、待て。


正時は、双子を、抱え込んだ。



急に。

おもてが、騒がしくなった。

間も無く。

大きな音を立てながら、雨戸が、

次々に、倒れこんできた。

障子戸まで、巻き込まれて、倒れる。


一体は、布団ごと、三咲を抱き上げて、

壁ぎわに、走り寄った。


どかどかと、足音が続き。

部屋が。

落武者のような、姿のものたちで、

いっぱいに、なった。

それぞれの背中に、うすい灰色の雲が、

くっついている。


一体どの!

こちらに、

おいでかー!


彼らは、腹の底から、声をあげて、叫ぶ。


廊下で。

眠たそうに、たたずんでいた、鶏たちが。

あまりの、やかましさに、目を、かっと、

見開いた。

負けじと、声高く、鳴きまくる。


もう、夜明けか。

あとひとつか。

急がねば。


武者たちは、うろたえた。



旗が、正時の方に、傾いて、ぱさりと、

ひろがった。



正時は、息を、のんだ。

素早く、座り直した。



わたくしは。


よく、通る声で、言った。


左位さい 正時。 


武者たちは、正時を、見た。


正時は、懐から、刀を取り出し、

顔の前に、腕を、突き出した。

刀には、旗と、同じ紋が、入っている。


それは。

姫様の、御紋。

左位、なのか。

なぜ。

ここに、いる。

ふるさとは、ずっと。

西では、ないか。



幼き、ふたりの、御子様や、

姫様のもとに。


間に合わず。


生きながらえた、左位一門。

御子様方を、お探し申し上げて、

おります。



何を、言っている。

どれほどの。

時が、過ぎたと、思っている。


時は、700年余り。

それは。

我らには、無いに、等しいもの。

我らは、ただ。

一本の、紐でございます。

世に、長く続きながら、御子様方の、

ご消息を、


消息。

入水されたこと、知らぬのか。


生き延びられたという、

話しもございます。


正時は、まっすぐに、

武者たちを、見た。


しかし。

それは。


武者たちは、黙り込んだ。



忘れたとて。

何も。

不思議でない、

時の、長さぞ。


変わらず。

愚直よの。

左位の、血は。


啜り泣く、声が、する。


正時の目の端が、濡れる。

双子は、じっと、見上げた。


正時は、うつむいた。

美波は、後ろに座って、正時の背中に。

静かに、額を、つけた。


武者たちの、背負う雲が。

よりうすい、灰色に、変わっていく。


つづく

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