12話 タッグバトル
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試験に合格した俺たちは、鬼舎に住み、鬼舎で学び、鬼舎で強くなる。
今日が初日だ。前世の記憶がある俺からすると、鬼舎はかなりボロい。だが、木製の床や机、教室の造りにはどこか懐かしさを感じた。
「では、早速授業を始める。」
「せんせぇー、自己紹介はないんですかー?」
間延びした声を上げたのは、綺麗なベージュ色のボブヘアーの少女だった。額には小さな角が生えているが、それ以外はほとんど人間と変わらない。
「俺たちは鬼人族だ。言葉ではなく拳で語り合う。戦えば相手のことなどすぐにわかる。自己紹介なんてものは不要だ。」
そう言ったのは、中央前列から二番目に座る阿弥陀丸だった。腕を組み、目を閉じたまま微動だにしない。
「相変わらず、阿弥陀丸様はお堅いですね。そんなんじゃ友達できませんよ?ぷふっ。」
「こら、ウズラ!申し訳ございません、阿弥陀丸様!」
阿弥陀丸の後ろでは、白髪のお団子頭の小柄な少女と、赤髪短髪の少年が騒いでいた。
「だってだってぇ、昨日阿弥陀丸様言ってたじゃないですかぁ。“鬼舎では俺とお前らは、主人と付き人ではない。対等の関係だ”って。ちょっとカッコつけちゃってぇ」
「た、たしかにそんなことも言ってたけど、、そんなこと言ったら阿弥陀丸様のメンツが丸潰れじゃないか。」
阿弥陀丸は罰が悪そうに微動だにせず、目を瞑っている。
おそらくここにいる全員が思っているであろうことを俺が代表して言わせていただく。
阿弥陀丸のメンツを一番潰しているのはお前だろ!
てか、ここまで付き人にいじられるって、案外いいやつなのかもしれない。
「静かにしろ。何も自己紹介をするなと言ったわけではない。時間がある時にでもすればいいだろう。」
今度は次郎丸が口を開いた。
「では、始めるぞ。」
和熊は何事もなかったかのように授業を進め始めた。
午前中の授業では、七大部族について学んだ。だが、その前に説明しなければならない存在がいる。
――鬼頭。
鬼頭とは、この鬼の里《日の出》を統べる長の称号だ。鬼頭は九十九家が代々継承しており、次代は実子、あるいは養子から選ばれるのが通例らしい。
そして――七代部族
“ 鎧 ”の東海林家 現当主・東海林酢那
“ 血 ”の頬白家 現当主・頬白凛月
”激突”の幅野小路家 現当主・幅野小路礼明
“豪拳”の天天丸家 現当主・天天丸櫛丸《てんてんまるくしまる》
“鬼火”の鬼灯家 現当主・鬼灯三叉
“零下”の八朔日家 現当主・八朔日黒雪
“鬼面”の勘解由家 現当主・勘解由風水
以上、七家が七大部族と呼ばれている。
そして、これらの七大部族を取りまとめるのが
鬼頭 九十九家 現当主、九十九叢雲
次郎坊は豚鬼の東海林家、先日カデルと言い合いをしていたちびっ子が、豪鬼の天天丸家の阿弥陀丸というらしい。
俺はそんな七大部族が一角、東海林家の次代当主・次郎坊を倒してしまったのである。てか、なんで長男なのに次郎なんだよ。勘違いしちまったじゃないか。
妙なことに巻き込まれそうで言い訳してしまった。それにカデルも変なのに絡まれてしまった。七大部族とは、言ってしまえば巨大な派閥だ。権力争いとか興味ないのでそういうのに巻き込まないでほしい。
…何事もなければいいが。
昼からは実戦形式のタッグ訓練らしい。なんでも、これからのレベル上げのための修練では、即席のパーティーで狩りを行うらしい。戦場でもそのような機会が多いからと、今のうちに慣れておけ、だそうだ。今回はレベル上げのための魔物狩りではなく、和熊とタッグで手合わせするらしい。
そして、今そのタッグのペアが発表される。
「阿弥陀丸&カデル」
……終わったな。
あの二人、絶対ぶつかるだろ。
「トゥーラ&ヒルガオ」
「メイズイ&アンドレ」
淡々と名前が呼ばれていく。
「次郎坊&ミユナ」
次郎坊が露骨に舌打ちした。
「ハーミット&ウズラ」
「うわー、よろしくお願いしまーす!」
「嫌な予感しかしねぇ……」
……すでに騒がしい。
「カルナ&キリエ」
そして最後に――
「シルバー&ユキミヤ」
「上から順番に、俺と戦ってもらう。」
…ほら。
嫌な予感が的中した。バチバチの阿弥陀丸とカデルが、まさかのタッグである。
「貴方様、安心してください。カデルはバカですが実力は本物です。あの阿弥陀丸というものも一緒に戦えば納得するでしょう。」
「そうだな。鬼人族を束ねる"七大部族"が強さ以外を気にするとも思えない。強ければ納得するだろう。」
「そうですね。カデルくんはあまり心配ないと思います。でも、私のペアのヒルガオさんという方は大丈夫でしょうか。」
「大丈夫だーーー
「あんたがシルバーか?」
心配性のトゥーラを俺とハーミットでなぐさめていたところに俺のタッグだと思われる女性の鬼が来た。
「ああ、そうだ。君がユキミヤか?」
「そういうこと。よろしくな。」
見た目はほとんど人間に近く、姉御って感じだ。一体どんな種族なのだろうか。
「失礼だが、種族を聞いてもいいか。」
種族を聞くのが失礼なのかは知らないが、聞いてみる。
ユキミヤは少し目を丸くした後、苦笑した。
「人間っぽいから不思議に思ったんだろ?でも、あんたたち四人組と豚鬼の二鬼以外、ほとんど人間みたいな見た目じゃなかったか?」
言われてみれば、その通りだ。教官の話では、まだ全員一度しか進化していないらしい。
「ああ、確かに。……どうしてなんだ? 進化はまだ一回だけなんだろ?」
気づけば周囲でも、それぞれがタッグ同士で話し始めていた。
「簡単な話さ。私たちは、七大部族の傘下の血統だからだよ。私たちは、ゴブリンとして生まれてこないのさ」
「なるほど、そういうことか」
普通の個体から因子を採取するより、進化個体の血統からサンプリングした方が効率が良いというわけか。
なるほど、理にかなっている。ただ、その分ビルドは偏りやすくなるだろう。進化先の自由度も狭まるはずだ。
……一長一短だな。
「そう。だから、あなたたちは特別なのよ」
ユキミヤは俺たち四人を見回した。
「ゴブリンの状態から、私たちみたいな上位種族がいる試練を勝ち抜いたんだからね」
そして少しだけ目を細める。
「まあ、あんたも相当変わった種族みたいだけど」
「……そうらしいな」
そんなことを話しながら、互いにできることを確認していると、いつの間にかカデルたちの戦いが始まる時間になっていた。
「試合は10分間だ。俺はお前たち程度の攻撃では死なないから遠慮せず、本気でかかってこい。」
「足を引っ張るんじゃねぇぞ、赤いの。」
「俺が足を引っ張ることはない。そっちこそ遅れを取らないように頑張れ。」
カデルはいいやつだけど抜けているところがあるからな、多分本当に頑張れって思っているんだろうな。
カデルは進化によって、明らかに戦士としての完成度を増していた。
細かった四肢にはしなやかな筋肉が宿り、無駄のない肉体へと変化している。特に肩から腕にかけての筋肉は、剣を振るうために最適化されたように発達していた。
背丈も少し伸びている。以前のような勢い任せではなく、“斬る”ための身体になっていた。
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ステータス
名前 :カデル
年齢 :0
種族 :中鬼・緋茜種
レベル:20
HP :98/98
MP :50/50
筋力 :120
耐久 :100
俊敏 :110
知力 :50
装備 :なし
ユニークスキル:ーーー
スキル:剣術(B)
風魔法(D)
経験値取得率アップ(D)
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カデルは進化しても知力とMPが少なく、その他が高い大分偏ったステータスになった。和熊が言っていたのだが、1度目の進化では肉体と能力値が、2度目の進化ではスキルが大きく変化するらしい。俺の進化も体が大きくなってステータスが大幅に上昇した。
おそらく本格的に戦闘スタイルが洗練されるのは、次の進化からなのだろう。
ゴブリンの時から赤髪、赤眼で進化しても変化してはいないが、その眼光はより鋭くなり、体躯も大幅に成長した。
そして何より、カデルは俺と同じ特殊個体になった。種族は中鬼・緋茜種である。俗に“変異種”と呼ばれる存在らしい。
七大部族も、始まりは変異種だったという。初代当主の突然変異から始まり、その血を代々受け継ぎながら、今の地位を築き上げたらしい。
そのため、種として七大部族は変異種を求める。
実際のところ、変異種にどれほどの価値があるのか、俺にはまだ分からない。だが、普通の進化個体とは違い、成長の過程で特殊な変化を起こすらしい。特に、特別なスキルが発現することもあるのだとか。
カデルのペアである阿弥陀丸も”豪拳”の天天丸家と言われるだけあって、徒手空拳の物理攻撃を主な攻撃手段とする。
「それでは1組目開始」
「お前から行け、お前の実力が分からないうちは合わせることなどできない。」
「わかった。一太刀目は俺がもらう。」
次の瞬間、赤い鬼が地を蹴った。一直線に。
だが和熊は動かない。その場から一歩も動くことなく、カデルの斬撃を両腕だけで捌いていく。
やはり、カデルの剣才は破格であった。斬撃によどみがない。だが、教官はそれをゆうに凌ぐ。先ほどから一歩も動いていない。カデルの剣術を両腕のみで対応している。
教官の戦闘スタイルも阿弥陀丸同様、徒手空拳。
「あの方は、賢鬼・和熊。
この里一番の回復魔法の使い手であり、体術のスペシャリストだ。ホブゴブリンが勝てる相手ではない。あのカデルというホブゴブリンも見事な剣術だ。あの年齢であれほどの剣術は見たことがない。それほど研ぎ澄まされた剣だ。」
ユキミヤが隣でカデルを褒め称えている。
「やはり、ゴブリンであの試練を勝ち抜く者は並大抵の実力ではないということか。すごいな、シルバー。それを統率するシルバーはもっと強いのだろう?」
期待に目を輝かせながら、ユキミヤがこちらを見上げてくる。
「すぐ分かるさ。今は教官の対策を考えよう」
そう返した直後だった。
「引けぇぇぇ!!」
阿弥陀丸が、突然大声を張り上げた。直後、カデルが大きく後方へ飛び退く。
「お前の剣術は素晴らしかった。先ほどの非礼、詫びよう」
阿弥陀丸が真っ直ぐカデルを見据える。……まあ、当然だ。カデルの剣は本物だ。
「今度は俺の番だ。そこで見ていろ」
次の瞬間、阿弥陀丸が和熊へ向かって全速で駆け出した。
速い。大柄な体格に反して、その踏み込みは獣のように鋭かった。和熊の間合いへ踏み込むと同時に、阿弥陀丸の拳が唸る。
空気を裂くような正拳。
カデルの剣が“斬る”ための技術なら、阿弥陀丸の拳は純粋な“破壊”だった。
和熊が片腕で受け流そうとした瞬間、衝撃が地面を揺らす。
――重拳。
拳圧だけで砂埃が舞い上がった。
「ほう」
初めて、教官が感心したように声を漏らす。だが、それでも崩れない。
教官は阿弥陀丸の連撃を最小限の動きで受け流し、逸らし、捌いていく。拳と拳がぶつかるたび、鈍い衝撃音が訓練場に響き渡った。阿弥陀丸も止まらない。
拳。
蹴り。
肘打ち。
全身を武器に変えた怒涛の攻撃。
それでも――届かない。
十分後。
教官の前には、肩で息をする二人の鬼が転がっていた。
「カデル、お前とは仲良くやっていけそうだ。昨日は悪かった。よろしく頼む」
「ああ。俺も阿弥陀丸の拳はすごいと思う。今度、戦おう!」
「……ああ、望むところだ」
互いに拳を軽くぶつけ合う。
午後の蒸し暑い空気の中。二人の間には、確かな信頼が生まれていた。




