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10話 決戦③

 絶え間ない闘争の中、シルバーは笑っていた。


 八神圭だった頃の彼は、日常に満足できなかった。日常のどこかに非日常を探していた。

 どうにもならないことだった。友達と遊んでいる時、夜道を散歩している時、鏡に映る自分を見ている時、ふとした瞬間に自分の居場所はここではない。何かしたい、説明できない欲があった。それが何かはわからなかった。


 何事にも熱中できない。やりたいことができてもすぐに冷めてしまう。どんなことでも違うんだ。日常に満足できなかった。日々の生活が充実していなかったわけではない。

 

 だが、どうしてか、ずっと育ってきた地球より、血の匂いが漂うこの世界の方が落ち着く。


 ――そりゃ、そうだ。俺が求めていたものはあの世界にはなかったんだから。鬼の血がそう思わせているのかもしれない。だが、俺を満足させてくれるのは、血が滾るほどの戦いだけだ。それだけはわかる。


 ――バリィィィィン!!


 スカーフェイスの大斧が、手から弾き飛ばされた。


 「こんなもんかよ、スカーフェイス。」


 「今まで何体ものホブゴブリンを屠ってきたが

 …これほど強いホブゴブリンは、貴殿が初めてだ。」


 『地魔法・地累鎧装ちるいがいそう


 スカーフェイスの足元から砂煙が巻き上がる。

 幾重にも重なる土の鎧が、その巨体を覆い尽くしていく。


「貴殿を認めよう。ゆえに――本気で参る。」


「土くれの鎧か。まとめて砕け散りやがれ。」


 再び接近戦が始まる。

 だが、土の鎧によって重量を増したスカーフェイスの一撃は、先ほどまでとは比較にならないほど重かった。


 その代償として動きは鈍っている。

 しかし、シルバーの攻撃はスカーフェイス本体まで届かない。


 『無属性魔法・インパクト』


 スカーフェイスの動きは鈍くなり、魔法を撃つ余裕も生まれていた。

 だが、それすら土の鎧に阻まれる。内部へ多少のダメージは通っているのだろうが、致命打には程遠い。


 鎧を破壊し、生身へ直接叩き込まなければ勝機はない。しかし、それでは魔力を浪費するだけだろう。土の層は破壊されても、スカーフェイスの魔力が続く限り再生される。


 もはや戦いの行方は、シルバーの体力切れを待つのみであった。


『火魔法・ファイヤーボール』


 シルバーが体勢を立て直そうと距離を取った瞬間、横合いから放たれた火球がスカーフェイスへ直撃する。しかし、ダメージになるはずもない。スカーフェイスは魔法を放った方向へ一瞥を向けると、すぐさまシルバーを捉え直した。


「ハーミット、下がれ。」


「しかし、シルバー様――」


「黙れ。邪魔だ。」


 戦いに無用な手出しをされたことに、シルバーは苛立ちを覚える。だが次の瞬間には冷静さを取り戻し、戦いを終えたカデルの無事を確認した。


 「全員でかかってきてもいいんだぞ。」


 「阿呆。お前は楽しくないのか。」


 スカーフェイスはニヤリと醜悪な笑みを浮かべるだけで、返事はしなかった。


 「そうであろう。これが楽しいと思えない者は、鬼人族ではない。

 だが…そろそろ終いだ。お前の技、パクらせてもらうぞ。」


『【アカウント顕現】――魔装アマルガム』


 体の内側から、黒い流動体が溢れ出す。

 それは皮膚を覆うように広がり、瞬く間に鎧へと変貌していった。


 ――それは、黒銀球体生物ノーブル・スライムを“顕現”させた姿だった。

 種族スキル【硬化流動体】により、しなやかさと硬さを併せ持つ鎧。


 緑色の巨体に、分厚い土の鎧を纏うスカーフェイスとは対極的だった。灰色の肉体。その上を流れるように覆う黒。無骨な甲冑ではない。むしろそれは、地球の戦闘服を思わせる洗練された装いだった。


 余計な装飾は、一切ない。

 ただ機能のみを突き詰めたような、静かな威圧感。黒い流動体は呼吸するように脈動し、腕や脚の動きに合わせて滑らかに形を変えていく。


「局所的に顕現させる必要はなかったんだ。」


 拳を握る。

 黒い装甲が、それに連動するように収縮した。


 「常時、身に纏えばいい。

 ……使いどころがいまいち理解できていなかったが、お前のおかげで完成した。感謝する。」


「礼には及ばない。これでまた、貴殿と楽しめるのだからな。」


「そういえば、名前を聞いていなかったな。」


「ああ。東海林しょうじ家嫡男、

 東海林しょうじ次郎坊じろうぼうだ。貴殿の名前は。」


「シルバー。」


「――さあ、最終ラウンドだ。シルバー。」


 「ああ、次郎坊。」

 『無属性魔法・ブースト』

 

 甲の傷を隠すように、“顕現”で作り出した黒い手袋がその手を覆う。

 そうして最後の言葉を交わした後――二体の鎧を纏った鬼が、激突した。


 堅牢な拳は、幾重にも重なる土の層を容赦なく打ち砕いていく。シルバーは『無属性魔法・ブースト』によって身体能力を向上。拳の速度、蹴りの威力をさらに加速させる。無属性魔法は、属性を持たないが故に、“自身を純粋に強化する魔法”を得意としていた。風魔法なら俊敏、土魔法なら筋力というように属性魔法では、それぞれ特化した強化しか行えない。だが、筋力と俊敏、その両方を同時に高められるのは、属性を持たない【無属性魔法】のみだった。


 徒手空拳で戦うと決めた時から、シルバーは【無属性魔法】を使うつもりでいた。

【スキル図鑑ライブラリー】で数多のスキルを見てきたシルバーですら、迷わず取得を決めたほどの強力なスキルだった。


 ――そして、このスキルにはまだ先がある。

 属性を持たないが故に、あらゆる可能性を内包している。



 シルバーは『魔装アマルガム』の使い心地に高揚していた。堅牢な鎧でありながら、シルバーと『魔装アマルガム』はそれぞれ独立しているため、“身に纏っている”という感覚がほど軽い。慣れれば慣れるほど、戦闘能力が向上していく。軽快な動きで次郎坊を翻弄し、土の鎧を砕いていく。


 『無属性魔法・魔力玉』


 まるで螺旋⚪︎のように掌に圧縮した魔力の球体をスカーフェイスの胸に押し込む。魔力の螺旋が土の鎧を削る。次郎坊は削られた部位を修復するが、だが、シルバーの魔法が終わる頃には、すでに鎧を再生するだけの魔力は残っていなかった。土の鎧には、深々と大穴が穿たれていた。


「終わりだ――『無属性魔法・インパクト』」


 魔法名を言い終えると同時に、スカーフェイスの巨体が吹き飛ぶ。


 ――バァァン!!


 赤い閃光弾が夕暮れの空に打ち上がり、爽快な炸裂音と共に試験の終わりを告げた。

 

  シルバーはこの戦闘で完全に理解した。俺の居場所はこの世界であると。自らより強い者と戦う時、その本性は姿を現す。


 ”誰よりも強く在れる世界で強者たれ”


 転生の際、攻撃用途のユニークスキルは選ばなかった。一瞬で終わる戦闘に興味などないから。無双なんてものは求めていない。

 自分の手で相手を殺し、その肉を食らい強くなる。それを繰り返して自らの実力で最強へ至る。単純明快なシルバーの覇道。


 ハーミットは歓喜した。――これこそが、王であると。

 自分が感じたものは紛れもなく本物で、出会った時に感じた、シルバーから溢れる得体の知れない威圧感。あれですら、シルバーという存在のほんの一端に過ぎなかったのだ。そして、最強になるためのスキルを持っている。どこまでも強くなっていくシルバーを、もはや止められる者はいない。ハーミットは、そう確信していた。

 絶え間ない抗争の中、シルバーは笑っていた。


 彼が八神圭だった時、日常に満足できなかった。日常のどこかに非日常を探していた。


 どうにもならないことだった。友達と遊んでいる時、夜道を散歩している時、鏡に映る自分を見ている時、ふとした瞬間に自分の居場所はここでない。何かしたい、説明できない欲があった。それが何かはわからなかった。


 何事にも熱中できない。やりたいことができてもすぐに冷めてしまう。どんなことでも違うんだ。

 

 日常に満足できなかった。日々の生活が充実していなかったわけではない。だが、どうしてか、ずっと育ってきた地球より、血の匂いが漂うこの世界の方が落ち着く。


 ーーそりゃ、そうだ。俺が求めていたものはあの世界にはなかったんだから。鬼の血がそう思わせているのかはわからない。だが、俺を満足させてくれるのは、血が滾るほどの戦いだけだ。



ーーーバリィィィィン


 スカーフェイスの大斧が手から離れた。


 「こんなもんかよ、スカーフェイス。」


 「今まで何体もホブゴブリンを殺してきたが、これほど強いホブゴブリンはお前が初めてだ。本気で行かせてもらうぞ。」


 「地属性魔法・地累鎧装(ちるいがいそう)


 スカーフェイスの立っている地面から砂煙が立ち上り、幾重にも重なる土の鎧がスカーフェイスの体を覆い尽くす。


 「疲れるからあまり使いたくなかったんだがな。お前は特別だ。俺の獲物と認めてやる。」


 「土くれの鎧か、砕け散りやがれ。」


 再び接近戦が始まるが、土の鎧により体重が増したスカーフェイスの一撃は先ほどよりはるかに強く重い。動作はそれに応じて遅くなってはいるが、シルバーの攻撃はスカーフェイスに届かない。


 「無属性魔法・インパクト」


 スカーフェイスの動作が遅くなり、魔法を撃つ余裕が生まれたが、それも土の鎧に阻まれ内部へのダメージは多少あれど致命打とはならない。鎧を壊し生身の体に直接撃ち込まなければ勝機は見えず、魔力を浪費するだけだろう。


 土の層は壊れてもスカーフェイスの魔力が続く限り再生される。もはや、戦いの行方はシルバーの体力切れを待つのみであった。


 「ファイヤーボール」


 シルバーが態勢を立て直そうと距離を取った瞬間、横からの火の球がスカーフェイスに直撃する。しかし、ダメージになるはずもなく魔法を放った方に一瞥をし、すぐさまシルバーを捉え直す。


 「ハーミット下がれ。」


 「しかし、貴方様ー「黙れ、邪魔だ。」

 

 戦いに無用な手出しをされたことに苛立ちを覚えるが、すぐに冷静さを取り戻し戦いを終えたカデルの無事を確認する。


 「全員でかかってきてもいいんだぞ。」


 「阿呆。お前は楽しくないのか。」


 スカーフェイスはニヤリと醜悪な笑みを浮かべるだけで、返事はしなかった。


 「そうであろう。これが楽しいと思えない者は、鬼人族ではない。だが、そろそろ潮時だ。お前の技パクらせてもらうぞ。」


  ”顕現”【魔装アマルガム】


 体の内側から黒い流動体が溢れて鎧となった。緑色の体に分厚い土の鎧を纏うスカーフェイスとは対極的な灰色の肉体に涼しげな黒い鎧は、洗練された地球の服によく似ていた。


 「局所局所で使うのではなく、身に纏っていればいいんだ。使いどころがいまいち理解できていなかったが、お前のおかげで完成した。感謝する。」


 「礼には及ばない、これでまたお前と楽しめるのだから。」


 「そういえば名前を聞いていなかったな。」


 「ああ、東海林(しょうじ)家嫡男、東海林次郎坊(しょうじじろうぼう)。お前は。」


 「シルバーだ。」


 「さあ最終ラウンドだ、シルバー。」


 「ああ、次郎坊。無属性魔法・ブースト」

 

 甲の傷を隠すように”顕現”で作った黒い手袋で手を覆いながら最後の会話を交わした。


 そして、二つの鎧を纏った鬼たちはぶつかり合った。

 堅牢な拳は容赦なく幾重にわたる土の層を易々と破壊していく。シルバーは【無属性魔法・ブースト】により身体能力を向上させ拳の速度、蹴りの威力を増していく。


 無属性魔法は、属性を持たないが故に、自身を純粋に強化する魔法を得意とする。属性を持つ魔法は風魔法であれば俊敏を、土魔法であれば筋力を強化するが、両方を同時に強化する魔法を使えるのは属性を持たない無属性魔法のみであった。徒手空拳で戦うことを決めたときからシルバーは、無属性魔法を使うことを決めていた。”スキル図鑑”で多くのスキルを見てきたシルバーですらも即決するような強力なスキルであった。


 シルバーは【魔装アマルガム】の使い心地に高揚していた。堅牢な鎧にも拘らず、シルバーと【魔装アマルガム】はそれぞれ独立しているため、体に纏っているという感覚はあまりないほどに軽い鎧。慣れれば慣れるほど、戦闘能力が向上していく。唯一の弱点がMPの消費が激しいということであったが、ホブゴブリンに進化したことでMPには余裕ができていた。圧倒的燃費の良さ、多種多様な戦闘方法を可能にする利便性があった。


 軽快な動きで次郎坊を翻弄し、土の鎧を砕いていく。鎧を砕かれれば修復するのだが、ナーガとの戦いの消耗もありMPが底を尽きそうであった


 「無属性魔法・魔力玉」


 まるで螺旋⚪︎のように掌に集めた魔力の球体をスカーフェイスの胸に押し込み、魔力の螺旋で土の鎧を削る。次郎坊は削られた部位を修復するが、シルバーの魔法が終わる頃には、すでに鎧を再生する魔力は残っておらず、土の鎧には深い大穴が開いた。


 「終わりだな。無属性魔法・インパクト」


 魔法名を言い終わると同時に、スカーフェイスは吹き飛ばされた。


ーーバァーン


 赤い閃光弾が夕方の空に爽快な音と共に光り、試験の終わりを告げた。


 

  シルバーはこの戦闘で完全に理解した。俺の居場所はこの世界、戦場であると。自らより強い者と戦う時、その本性が現れた。


 誰よりも強く在れる世界で強者たれ。


 転生する時、攻撃用途のユニークスキルは選ばなかった。一瞬で終わる戦闘に興味はないから。無双なんてものに興味はない。自分の手で相手を殺し、その肉を食らい強くなる。それを繰り返して自らの実力で最強になる。


ーーー血に飢えた獣はただ闘争を求めているーーー


 ハーミットは歓喜した。これが王であると、自分が感じたものは紛れもなく本物で、出会った時に感じたシルバーから溢れる得体の知れないオーラは、シルバーに内包された一端でしかなかった。そして、最強になるためのスキルを持っている。どんどん強くなっていくシルバーを止められるものはいないと確信していた。

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