第三十二話 水攻めの本意
復活しました。
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「……」
ネザー王国、二代目国王サルード・クズハ・クロリオス王。水帝流ソリュース・ル・ソワーズ、他三千の精鋭と共に、軍神が住まう城へと船で向かった。皆の顔は強張っていた。正確に言うなら、期待と不安が入り混じった、まるで喜怒哀楽を表現し損ねる顔が行き場を失う、うろついた眼差しを顔に呈していた。
「門に到着しました、これより攻略を開始します」
サルードが一つ頷くと、ソリュースは手を上げ、一斉に号令をかける。千の軍勢がまばらであるもの、一つの連携した一個小隊のようにまとまり、連携し、小さな一が大きな千となって戦場をうねり歩く。
城壁を甲高い音が包みこみ、梯子を上る。手には突起物、それも城壁攻略に使われる鋭く、食らいついた獲物を離さないほど鋭利な牙で、ありとあらゆる隙間にひっかかる「ぶつ」を、天高く、そして幾度もなく皆一心不乱に投げつけていた。
「城壁、異常なし! 目視での確認、異常なし!」
一番乗りで食らいついた屈強な兵士が、図太い声で伝令を伝える。彼が立ち上がった姿は朝日を覆い隠し、次々に上がっていく兵士の手助けをするその様はまさに、不落の城壁レビィール城の命運が今日尽きたことを知らせていた。
「合流した兵士はただちに三人一組! レビィール城のありとあらゆる場所を確認しろ! 水没した場所も例外ではない! アナスタシア姫はまだこの中にいるのだからな! 最後まで気を抜くな!」
「「はっ!」」
サルードの一喝に身が引き締まった兵は、そそくさとそれぞれ別の場所に散る。城壁の上で反ラスト王国連合国軍の旗がたなびくのは、なんとも爽快だった。
「城壁はすべてクリアです。サルード王もどうぞ、護衛はこの私が」
「助かるよ、あのアナスタシア姫のことだ。どっかに隠れて、僕たちを待ち伏せにしているにきまっている。それに白帝流……ジオスはこの程度で倒れる奴じゃないから、もし鉢合わせしたその時は……」
「もちろんです、私がすぐさま首を取り、サルード王に捧げます」
「頼もしいよ……それじゃ、いこうか」
上へ向かい、安心が約束された梯子を一つ、また一つ登っていく。城内に潜入した兵士たちはすでに残党狩りを開始し、数少ないアナスタシア姫の私兵もすぐに根絶やしにされることだろう。ゆえに厄介なのはジオス。あいつだけは常人の域をはるかに超えた戦闘スタイルで幾多もの戦場を乗り越えてきた豪傑の中の豪傑だ。食料も、武器も枯渇したこの状況下でまともに動けるのは奴ただ一人だろう。だがそれも……もうじき終わる。
「仇はとったぞ……ダグラス将軍」
この状況で何ができる、アナスタシア姫。援軍も、食料も、武器も、その一切が何もないこの陸の孤島で一か月、どうして乗り越えられようか。乗り越えられるはずがない。仮にいたとしてもみすぼらしい姿のアナスタシア姫と、いまにも倒れそうなジオスが一人いるだけだ。それ以外は白骨、血、水死体……地獄絵図に決まっている。
「終わりだ、アナスタシア姫」
サルード王、ソリュース、両者が城壁の上にたどり着いた頃には太陽は真上に昇っていた。
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「城内、くまなく探しましたがどこにも人一人いません」
「嘘をつけ、そんなことあるわけないだろう! もっと探せ!」
「はっ!」
早足で駆け去る兵、これで三人目だ。北、南、東、いずれの部隊も何一つ成果を残さず戻ってきた、となれば残るは西だが……
「報告! 何もありません、食料はおろか、兵士の甲冑さえもございません!」
西の兵が戻ってきた、虚ろな表情で王を見つめる兵は、ただ茫然とするだけだった。
「なん……だとっ!」
サルード王の堪忍袋の緒がついに切れる。
「お前らの目は節穴か! 誰もここから出ていないのは衛兵からも確認している! いないわけがないだろう! とっとと、アナスタシア姫の首をもってこい!!」
「ですから、本当にいないのです、サルード王! 皆、同じような意見でございます!」
「もう、いい! 自分で確かめる、僕を案内しろ!!」
サルードは走った、東西南北、レビィール城の要塞そのすべてをくまなく、アリ一匹逃さぬほど鋭い目つきで、獲物を刈り取る容赦のない目つきで睨みつけるように探した。
二度も三度も探した、しらみつぶしに探した。そんなはずはない、そんなはずはない、そんなはずはない!アナスタシア姫は必ずこの城の中にいるはず、それなのになぜこんなことになっている!
城攻めを事前に察知され、逃げられた?いや、そんなはずはない、ここは陸の孤島。アナスタシア姫は窮地を脱するため、自らの首を絞めてでもこのレビィール城を守るため、切り札である水攻めを自らの城に対して行った。本来、我々に対して行うはずの技、そのベクトルを捻じ曲げてでも、決行したまさに諸刃の剣。されど、その効果は絶大……それも自らを瀕死に追い込むまでに絶大だった。ゆえに、あり得ない。断じて認めてなるものか。一晩中、見張りをこらし、城壁を取り囲むようつねに警備の目を光らせ、あげくには昼夜問わず連絡がいくよう念密にたいまつの点灯パターンを幾多にも用意しておいたのに、なんだこの有様は!
奴だって、人間だ、断じて神などではない。消えることも、我々の監視から逃れることも、この水攻めされたレビィール城からも逃れることはできないのに、なぜ、なぜ!奴はいないのだ!
「私はここよ」
サルード王が自問自答を繰り返し、頭がショートしかけたその時、前方やや右、レビィール城を取り囲む三つの山、そのうちの一つ最も険しい山の頂に、彼女はいた。
「なぜだ……なぜお前はそこにいる!?」
水、天然の要塞を軽々とすり抜け、敵を欺き、あたかも窮地に追い込まれたかに思われたアナスタシア姫。彼女は敵に囲まれ、見下ろされる立場だったはずが、いつの間にか敵とその立ち位置をいれかえ、戦況は……一気にひっくり返った。




