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第三十話 水攻め

本日は二話分投稿します。

「なぜジオスを取り逃した! 知らせでは瀕死にまで追い詰めたと聞くぞ! そこまで弱った相手をなぜ取り逃した!」


 レビィール城から幾ばくか離れた野営地、その中心を発信源として、怒号が飛びかう。


「……」


 ソリュースは怒鳴られていた。それは、アナスタシア姫の水攻めにあったのち、生き残った兵を連れ駐屯地に戻った矢先のこと。すぐさまゴーラス王に呼び出され、問い詰められ、王の前で跪いては自らの失態を恥じることを強いられていた。だがソリュースは思っていた。自分の失態を誰が責められようかと。あの史上最強の騎士ジオスをあと一歩の所まで追い詰め、我が軍少しばかりの犠牲と引き換えに、レビィール城を水浸しにし、孤立無援の状態にしたのだ。十分健闘したといっても過言ではないだろう。


「それにだ! お前が突撃させた兵、その多くが水攻めにあって戦死したと聞いたぞ! 立て続けに二度も失態を犯すとは、竜の託宣者として恥ずかしくないのか!!」


「まさか、自分の城を自分で攻めるとは思いもしませんでしたので……」


 ゴーラス王の眉がぴくりと動いた。いけない兆候だ、逆鱗に触れてしまったようだ。


「もう我慢ならん! シャドウといい、ソリュースといい、竜の託宣者とあろうものがなぜかように無力なのだ! 相手は女一匹だぞ! しかも十八の若造だ! 妾に負ける男が、この世界のどこにいるというのだ!」


 椅子を蹴飛ばし、声を荒げる。周りの取り巻きは皆肩をびくつかせ、辺りは一切の物言いができない状況となった。しかし、それでもソリュースはめげない。アナスタシア姫に勝つために、どうしてもお諫めしなければならないからだ。


「ゴーラス王、落ち着いてください。アナスタシア姫は当代きっての名軍師です。今まで幾度となく豪傑が挑めては破れ、また挑めては滅んでいきました。あなた様も他の王家と同じ末路を辿りたくなければ、アナスタシア姫を侮らないことです。ましてや妾など、かようなことをおっしゃってはなりません。慢心は百害あって一利なしです」


 周りの兵士が目くばせし、それ以上諫めないようソリュースに訴えかける。一方のソリュースは堂々と、されど謙虚な姿勢は崩さずに、ゴーラス王を見つめていた。

 再び椅子が宙を舞う。ゴーラスの怒る声とともに、その椅子は鋭い音をたて、ソリュースの額に激突した。彼の額から鮮血が流れ出るのに、そう時間はかからなかった。


「無礼者! 俺のどこが他の王家と同じなのだ、あぁ!? あんな自らの歴史が長いことに誇りを持っている、過去の栄光にすがった老害どもと一緒にするんじゃねぇ!! それにアナスタシア姫は妾だ! なぜなら、俺が勝ったらあいつを妾にするからだ! その才知に皆感服して忘れているが、アナスタシア姫はアドラー大陸七大美女の一人だぞ! 今まで散々男をコケにしたその美貌を、俺が踏みにじり、その尊厳を完膚なきまで叩きのめしてやるわ!」


「油断してはなりません! 私が思うに此度の敗戦、いえ、これまでのアナスタシア姫に対する負け戦そのすべては、慢心が原因です。女如きに負けるはずがないという邪念の心が、人を誤らせ、士気を乱し、最悪の結果を招いたのです。ゴーラス王! 私の忠言をどうかお聞きください! このままだとゴーラス王もダグラス将軍の二の舞にッ……!!」


「もうよい! 見損なったぞ、ソリュース! お前までアナスタシア姫を過剰評価するのか! 何度でもいうが、あいつは女だ! 主の元に仕え、男の言そのすべてを成す、ただの妾だ! 戦は負け知らず? 数多の王国を滅ぼした? 抜かせ!! アナスタシア姫が勝てたのは奴が優秀だったからではない、敵である没落王家が弱かったのだ! 弱すぎたのだ!! 俺は違う! 俺をあんな没落王家と一緒にするな! 俺は王になった! 自ら、この手でだ!! 力をつけ、伝統やしきたりを一掃し、その果て、クーデターによって弱きをくじいた! もう一度言うぞ! 俺は他の王家とは違う! 血統だの礼節だの禅譲だの、そんな古臭いもので王になどなっていないのだ! 俺はやるぞ! アナスタシア姫を倒し、この広大なアドラー大陸を支配する皇帝になる!!」


「しかし、ゴーラス王!」


「「もういい!」」


 大地が振動し、緊迫した空気が流れる。兵士の鎧が共鳴し、音と呼ぶには少し野蛮な不協和音が奏でられた。ゴーラス王がソリュースを睨みつけ、近くまで歩み寄る。額から出た血をソリュースはふき取るわけでもなく、ただ地面に染みこませ、無残に跪いていた。


「……」


 この無言の緊迫感を噛みしめるかのようにゴーラス王は少し間をとった。のち、皆が自分に注目しているのを確認し、静かに口を開いた。


「ソリュース。お前の今までの功績を鑑みて罪には問わない。だが、お前を先鋒から外す。今後は俺が直接、最前線に行き、指揮を執る」


「……」


「何をしておる、早く出ていけ」


「……はい」


 ソリュースは一礼し、陣営をあとにする矢先、ぽつりと呟いた。


「──忠言は耳に逆らう……か」


 前方に見える、水攻めにあい絶海の孤島と化したレビィール城の方が、いささかましに思えた。


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