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第二十六話 竜王

明日も20:00までに次話更新します。


「嘘……でしょ?」


 アナスタシア姫が王剣に手をかけ、城壁から身を乗り出す。


「そんな、どうしてッッ……!!」


 信じられなかった。自分はフェリクの圧勝だと思っていたからだ。間違えるはずがない。反するはずがない。今までそうだったように。一回たりとも予想を外したことがなかったように。未来はすべて、私の手中にあったはずなのに。それなのに、それなのに……


「水帝流、三の型──」

「ッッ……!!黒帝流、一の型──」


「──三山水!!」

「──黒覇一閃ッッ!!」


『『キィン!!』』


 剣同士が歯ぎしりし、火花が舞い上がる。そこには華があったが、あるのは水色の華のみだ。黒色の華は──どこにも無かった。


「……クッ……!!」


 フェリクの姿は一瞬にして吹き飛び、城壁に叩きつけられる。軽い音が続くと、壁の欠片が三度地面に舞い落ちた。頭を強く打ったフェリクの意識は朦朧としており、両手は投げ出されていた。


「なんで……なんでッッ──」

「──黒帝流が使えてないのよッッ!!」


 アナスタシア姫は再び、目を疑う。しかし何度見返しても同じで、黒竜『ドメラ・ゲイル』の姿はどこにも無かった。ただあるのは、今まで通りの落ちこぼれ……剣聖家フェリクだったのだ。



「水帝流、一の型──」


「……」


 動かないフェリク。彼はただ前を見据え、ゆっくりと剣を縦に構えた。


「──天帝≪一水≫」


「……」


「「ガキィンッッ!!」」


 遅れて鳴る剣戟。されど今までの重く、神をも殺してしまいそうな天撃ではなかった。それは例えるなら、一方的な剣圧。元から水竜しかいなかったのではと錯覚するほど圧倒的な青閃である。


『ドンッッ!!』


 フェリクの体は横に飛ばされ、今度は巨木にぶつかる。彼の剣には獲物を狩る余裕などなかった。目の前にいる化け物から、主の首を守るのに精いっぱいだったからだ。


『スッ』


 ソリュースが首筋に剣を向ける。


「なぜ型を使わない?」


「……」


 答えないフェリク。その眼は虚ろで、どこか遠くを見ていた。


「答えろ」


「……なりました」


「……?」


──型が使えなくなりました。


 一つ、風が吹く。二人の熱気を冷ますように強く吹く。


「なんだよそれ……」


 噴火の予兆が見られた。ソリュースの顔が歪み、その眼には怒りの感情が露わになっていたのだ。


「いい加減にしろよ……」


 剣を震わせ、鬼の形相でフェリクを睨みつける。


「「馬鹿にするのも、いい加減にしろよッッ!!」」


 決闘──それは正々堂々と勝負することを天に誓い、戦うことである。ゆえに、手を抜くことなど絶対に許されない。相手を侮辱する行為だからだ。


「嘘をつくなッッ!!」


「本当です! 型が使えなくなったんです!!」


「まだ、しらばっくれるつもりか!!」


「でもッッ!!」


『キィィン!!』


 フェリクの剣が飛ぶ。ソリュースの一太刀で、いとも簡単に吹き飛ばされる。


「どこまで馬鹿にすれば気が済むんだッッ!!」


 林の中に消えていった剣を横目に、フェリクはさらに訴えかける。


「本当のことなんです!! 信じてk……!!」


『ブンッッ!!』


 刹那、ソリュースの剣が首元にあてがられ、遅れて轟風が吹き荒れる。剣先にあった木々が悲鳴を上げながら倒れ、鳥たちが逃げ惑う。


「そんなこと、あるわけないだろ!!」


 ソリュースは怒りのまま続ける。


「竜との契約が終わるのは、首が刎ねられた時のみ! そこに例外などない!!」


「でも、でもッッ!!」


「俺が剣聖家じゃないからって騙せるとでも思っているのか!? 無礼だぞ!! 決闘という真剣勝負の場でなぜ、かように人を騙す!! 騎士らしく、正々堂々と勝負しろ!! それともまさか──」


「──俺を殺すのが嫌だから、わざと手を抜いているのか?」


「……」


 静寂が流れる。意表を突かれたフェリクが戸惑う。


「邪推です!! 本当に使えなくなったんです!!」


「まだ馬鹿にする気か!!」


「そのような意は決しt……!!」


「「もういい!!」」


 ソリュースが剣を構える。斜陽を浴び、水光に輝く刀身だ。


「かような屈辱を味わったのは初めてだ」


「違う……違うんです!!」


『スッ』


 剣が斜めに構えられる。太陽を覆い隠す様にフェリクの頭上で嘲笑を浮かべる。剣が一つ、光った。型の動作に入り、手首を捻ったことによる反射光だ。


「水帝流、一の型──」

「──天帝≪一水≫」


 放たれるは、天をも切り裂く一閃。剣がしなるたび空気が悲鳴をあげ、その道を譲る。


「あ、ああ……」


 フェリクの剣は投げ捨てられ、もはや受ける術はない。彼にできることと言えば、天に祈ることだけだった。


『バッ!!』


 城壁の上で変化があった。白いマントを着た謎の男が、城壁から飛び降りたのだ。


「ちょっとあなた!何をするつもり!?」


 たまらずアナスタシア姫が声を掛ける──が、返事はない。彼は姫の静止を無視して落下し続けた。そののち、体を安定させるとすぐさま剣に手をかける。


「聖杖の啓──白竜クロノス・アーク」


 フードが外れ、その姿が現れる。齢六十に到達しそうとは思えないほど、その姿は若々しく。秘めたる力は、すべての竜を凌駕する竜王が如く。三英傑の一角にして、史上最強の騎士──ジオス・ケプト・アーレイン。フェリクと一緒に馬車に乗っていた、謎の人物の正体……その全容が明らかになる。


『ガッ』


 城壁に足を当てる。そののち上体を傾け、足を曲げ、自らの進まんとする道を切り開こうとする。


『ドンッ!!』


 城壁がへこんだ。敵の猛攻を受けても尚へこまなかった、城の最も頑丈な部分が力負けしたのだ。


『ザッ!!』


 残像すら残さないほど圧倒的なスピードで移動し、すぐさまフェリクの横につく。


「白帝流、一の型──」


 白光が煌めく。フェリクの安堵した姿と、ソリュースの驚愕する顔が交錯する。史上最強の一手が、目の前で繰り出されようとしていた。


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