第二十七話 いつだって今が全盛期
明日も20:00までに次話更新します。
「派生、九の型──ッッ!!」
異常事態に気付いたソリュースは、すぐさま両手で剣を握り直す。
「──九天冥水ッッ!!」
「──白銀一閃」
『『ガキィン!!』』
時空が歪んだ。そう言われても納得するほどの衝撃波が世界を襲った。
『バッ!!』
剣撃を受け流し、すぐさま距離を取るソリュース。遠くから見ても分かるくらい、彼の表情はひどく曇っていた。
「よく頑張った。あとはわしに任せろ」
ジオスが語り掛ける。万物をほっとさせる、安定感のある声だ。
「ジオスさん!!」
フェリクが叫ぶ。喜びを隠し切れないほど感情を露わにするフェリクだったが、すぐさまソリュースが割って入る。
「ジオスがなんでここにいるんだ? 兵糧庫で五万の軍勢に囲まれているはずだろ……」
「あぁ、それか。それはのぉ……」
──
「ローズメイデン様、起きて下さい!」
「なによもぉ……まだ朝の四時でしょ?」
「ジオス様から伝言を預かっています。早朝、西の方角を見るように……と」
「……ジオス様が仰るなら、仕方ないわね♪」
「よいしょ」っといい、重たい腰を上げるようにテントから身を乗り出す。
『スタスタスタ……』
早朝で頭の回転が鈍いのか、やけにふらふらしながら歩みを進める。
「ふあっ……」
一つ、大きなあくびをする。寝不足からではない。アナスタシア姫の命令に従い、一歩たりとも兵糧庫から動いていないため、とても退屈な日々を送っていたからだ。
「こんな朝に何の用でって……」
『……ピタッ』
ローズメイデンの歩みが止まる。西の方角を見たからだ。
「嘘……でしょ?」
驚愕する。昨日まで、西の方向。太陽が沈む場所に敵兵は陣を構えていた。その数、五万。けっして多いわけではないが、少なくとも自分一人で突破するのは困難を極める。何を隠そう、私程度の実力なら、二万ほどの軍勢を斬れば竜化してしまうからだ。
「ジオス様からの伝言です──」
「──あとはよろしく」
眼下に広がるは無数の屍。昨日まで綺麗な隊列を組んでいた軍隊は、いまやただの残骸と化していたのだ。
──
「「一人で片づけてきた」」
ジオスが自信満々に語るは、驚愕の事実。五万の軍勢、その包囲網をたった一人で掻い潜ってきた真実である。
「あり得ん。お前の全盛期はとっくに過ぎているはずッッ!!」
「わしはいつだって今が全盛期じゃ。見くびるでない」
「この、化け物がッッ!!」
ソリュースは悔しそうに唇を噛みしめる。ジオスがその昔、十万の軍勢をたった一人で蹴散らした話は聞いたことがある。だがそれも、十年以上前の話。まさかいまだにその実力を保持しているとは、露にも思わなかった。
(こうなったら……!)
ソリュースは策を巡らせ、ジオスに檄を飛ばす。
「決闘中に割り込んでくるとは卑怯者め!! それでもお前は騎士か!!」
ジオスは騎士の中の騎士。当然、決闘が一対一であるルールを知っているはずだ。そこに付け込んで、どうにかこの窮地を脱出しt……
「──卑怯なのはそなたじゃろ。決闘中、ひそかにパメラから援助を受けていたくせに」
ジオスが呆れた顔をして言い放った。その手にはひそかに剣が握られている。
「はぁ!? いいがかりだ、誰がそんなこと!!」
「──じゃあ、そなたが腕に巻いているその紙はなんじゃ?」
ジオスが指さす方向、その先には幾何学模様が描かれた紙があった。
「これはッッ……そのッッ!!」
明らかに狼狽するソリュース。長袖で隠していた彼の腕からは、一枚の紙が『ぺろん』とはじき出されていたのだ。
「む、バレた。ソリュース、あとでおしおき」
遠く離れた陣営でパメラが頬を膨らませ、不満をあらわにする。
「チッ!!」
ソリュースが紙を破こうとするが、「そのままでよいぞ」と、ジオスが静止する。
「?」
どういうことか分からないソリュースに対し、ジオスが挑発的になる。
「安心せい。好きなだけパメラの援助を受けてよいぞ。じゃなきゃ──」
「──面白くないからの」
「クソッ……! 舐めやがって!!」
決闘、その第二ラウンドが幕を開けた。
**
「水帝流、六の型──」
「白帝流、一の型──」
「──水常破≪六計≫!!」
「──白銀一閃」
<<ガキィン!!>>
世界が揺れた。フェリクと対峙していた時とは比べ物にならないほど、大きな音が鳴り響いた。
「水帝流、七の型──ッッ!?」
ソリュースがジオスの剣戟を受け流し、次の型に移行しようとした時だった。
(竜化!?)
剣を握りしめる両手に竜結晶が付いていたのだ。
(今の一撃をいなすだけで竜化するのか……)
本来、竜化というのは長時間型を使うことで発生する。それはひとえに、一回で竜の力、その全てを使い切ることなど無いからだ。
しかし、今回ばかりは例外であった。ジオスの一撃と水竜トラルースの全ての力が一緒だったのだ。
「「!?」」
ジオスが急接近する。圧倒的な重さの一撃を上手く受け流し、そのままの勢いで後方に飛んだにも関わらず、ジオスは一秒もかからず追いついてきた。
「クソッ!!」
悔しそうにするソリュース。そして、
「パメラ!頼む!!」
と、パメラに援護を申し出た。
「木帝流、技の型──」
「──靫葛の彩」
ソリュースの両手から竜結晶が消える。跡形も無く消えたそれはジオスを困惑させ、ソリュースに──笑みを与えた。
「白帝流、二の型──」
「派生、九の型──ッッ!!」
「──白夜≪双風来≫」
「──九天冥水ッッ!!」
「「ガキィン!!」」
再び相まみえるは青と白の激突。ソリュースの周りを水竜が。ジオスの周りを白竜が。それぞれの主を守るように、各色のオーラが現世に露呈する。
『ビキッ!!』
「また竜化!?」
ソリュースは驚いた。他でもない、ジオスとの圧倒的な力の差についてだ。
ジオスは史上最強の騎士。ゆえに多少の覚悟はしていた。
しかし、これほど差があるとは思っていなかった。自分だって研鑽を積んできたから。幾多もの戦場を乗り越えてきたから。努力を怠ることなくし続けてきた……そう思っていたから。
「白帝流、一の型──」
「──白銀一閃」
剣戟をいなされた直後、ジオスはコンマ0.001秒にも満たない速さで次の型に派生した。
(速ッ!?)
こんな速さで型を振るった騎士など、今まで見たことがない。思考を許さないほど素早く放たれた一太刀が、ソリュースを困惑させていた。
(もはやここまでか……)
目にも止まらぬ速さで放たれた、神をも殺す一撃。その圧倒的な力に水竜がひれ伏し、竜王の強さを痛感する。
全てを無に帰す力。最上位に鎮座する絶対的存在。全ての竜の頂点に立ち、その圧倒的な才華で常に他者を見下し続けていた史上最強の騎士──ジオス・ケプト・アーレイン。やはり自分如きが……勝てるわけなかったんだな。
そう諦めようとした矢先、妖精の調べが聞こえてきた。
「木帝流、技の型──」
「──靫葛の彩」
ソリュースの手から竜結晶が消える。と同時に、『ピキッ』という音を立て、パメラの足から竜化が始まった。
「「ソリュース、諦めちゃダメ!!」」
パメラが叫ぶ。と同時に、またしても『ピキッ』と竜化する音が戦場に鳴り響く。
(ん?)
ソリュースは自身の手を見る。が、自分にそれらしきものは付いていない。てことは──まさか。
「むっ!?」
なんと、ジオスの手から竜結晶が出ていた。史上最強の騎士が困惑した──初めての瞬間である。
「派生、九の型ッッ──!!」
「──九天冥水ッッ!!」
ジオスが焦る。狼狽する。
この機を逃すまいと、ソリュースは剣を握った。絶対的な壁を乗り越えるために。史上最強の騎士を討ち取り、伝説の騎士になるために。
「そうだよなぁッッ!!諦めたらぁぁ──!!」
「──おしおきだよなぁッッ!!」
『ジオスに勝てる』
頭の中には、それしか残されていなかった。




