第二十四話 序列
本日は二話分更新します。
「本当に行かせて大丈夫だったのでしょうか?」
アナスタシア姫の顔を覗き見るように尋ねる兵士。
「私が間違ったことを言っていると、そうおっしゃりたいのですか?」
「いえ、そのようなことは決して! ただ……」
すぐさま否定をし、視線を下に向ける。そこには、城壁の上で皆に見守られながら、静かに剣を抜いた二人の騎士がいた。今まさに、水帝流と黒帝流の決闘が始まろうとしていたのだ。
「言いたいことは分かります。ですが、心配ご無用です」
皆が固唾を飲んで見守る中、アナスタシア姫ははっきりと言い放つ。
「確かに水帝流のソリュースは強敵です。私たちほどではないにしろ、彼もまた戦場の場数を踏み、水帝流を完璧に使いこなしている猛者中の猛者ですからね。ですが今回の戦い、私の予想通りであればフェリクの勝利です。負けることはまずありません」
「どうしてそのようなことがお分かりに?」
「型には序列があるのです。封印された竜の序列に従ってね」
「序列……?」
兵士が不思議そうに首を傾げる。それを見たアナスタシア姫は、強風に髪を揺らしながら静かに問いかける。
「あら、ご存じないの?」
「はい。そのようなお話は聞いたことがありません」
アナスタシア姫は「ふーん」と言い、しばらく前を見据えてが、やがて
「ではお教えしましょう」
と言い、兵士に一から教育するかのような口調で話し始める。
「その昔、七つの竜には序列がありました。一位から七位までの、自らの強さを示す指標です。竜にとって序列というのはとても大切なものだったらしく、その序列を奪うため、竜同士で争いあったこともあったそうですよ」
アナスタシア姫は続ける。
「七位が六位に上がったり、はたまた四位が五位に転落したり。そのようないざこざを彼らは繰り返したそうですが、一度たりとも動かなかった席が二つありました。それが一位と二位の席です。それだけ一位と二位、そして二位と三位の間には絶対的な差があったのです」
アナスタシア姫は前を見据え、続きを口にする。
「七つの竜、序列第一位は白竜クロノス・アーク。宿している者は史上最強の騎士と名高い、あのジオスです」
「三英傑のジオス様ですか……納得です」
すかさず返事が返ってくる。それも当然の話だ。ジオスが負け知らずなのは、この大陸にいる誰もが知っていたからだ。史上最強の騎士、ジオス・・その強さの一片を見た気がした。
「反対に……」
アナスタシア姫が口を開く。
「ソリュースが宿す水竜トラルースは、序列第六位です。序列六位であれば、三位までの竜なら勝てる可能性があります。先ほど申し上げた通り、一位と二位以外の序列は変動しますからね。──では本題です。なぜ私がこうも余裕でいられるのか。お分かりですか?」
アナスタシア姫が振り返り、余裕の笑みで問いかける。彼女の自信ありげな表情を見ながら、兵士は考えた。なぜ今序列の話を持ってきたのか。なぜ初陣のフェリクを猛者のソリュースと対峙させたのか。そしてなぜ……このような状況下でもアナスタシア姫は余裕そうにしているのか。そこに絶対的な差があるからか?そこに変え難い自然の摂理があるからか?考えて、考えて、考えて。そしてついに──結論に行きつく。
「もしかして、フェリク様の宿した黒竜ドメラ・ゲイルって……」
「そう」と言い、アナスタシア姫が笑みを浮かべた。そして、
「──序列第二位。ジオスと戦わない限り、一対一で負けることはまずありません」
と言い放ったのだ。
「……」
兵士は呆気に取られていた。アナスタシア姫がそこまで計算していたとは、思ってもいなかったからだ。
しかし、まだ疑問が残る。自らの人生観に基づけば……
「しかし、経験の差があるのでは?」
と、思っていたことを口にする。それを聞いたアナスタシア姫はすかさず答えた。
「言ったはずでしょう、一位と二位は別格だと。だからこそ行かせたのです。黒帝流は──」
戦場で水帝流と対峙するフェリクを見る。それはまるで期待の星を眺めるかのような目で見つめ……そして。
「──水帝流に力負けするほど、弱い型ではありません」
と、きっぱりと言い切ったのだ。




