第二十二話 二人の王
明日も20:00までに次話投稿します。
レビィール城と対峙するよう、山のふもとに陣を構えるは二つの勢力。コーネリア連合国軍の左将軍ゴーラス・ル・バルメド王と、右将軍サルード・クズハ・クロリオス王の陣営である。
──風が吹く。
二つの王旗が風に屈せず、堂々と揺らぐ。
彼らの軍勢は木製の柵で周りを囲い、簡素な白色のテントで寝泊まりしていた。アドラー大陸では、標準的な遠征形態である。
「もうじき、レビィール城は落ちるかと」
ひと際大きい王専用のテントで、はっきりとそう告げた者がいた。コーネリア連合国軍、総軍師長ロメニウスである。彼の瞳には隠そうとしても隠しきれない喜びの色と、早く褒美を貰いたいという焦燥の色……その二つが複雑に交じり合っていた。
「ガハハッッ!」
ゴーラス王は大笑いをした。そしてワインを片手にしながら、続けて優雅に語る。
「やっぱり俺の言う通りじゃねぇか!! たがが女一人ごときにみんなビビりすぎなんだよ! うちの家訓である『気を高め、計を制す』とはまさにこのことだな! やはりバルメド王家の教えは間違っていなかったというわけだ!!」
それを聞いたサルード王はしかめっ面をした。そして、
「なにを言ってるのさ。僕の家訓である『動は百里を駆け、静は千里を駆け、念は万里を駆ける』が正しかったからだよ。僕の勘が当たり、君はたまたま同じ行動を取っただけじゃないか。あまり偉そうにしないでもらえるかな」
といい、ゴーラス王を咎めたのだ。
『──パリンッ!』
ワイングラスの破片が床に散らばり、中身がこぼれる。落としたのはもちろん──ゴーラス王である。
「てめぇ、何様のつもりだゴラァッ!! 歴史が最も浅い『へっぽこ王家』のくせによォ!! 生意気な口きいてんじゃねぇぞ!!」
サルード王は反発する。
「そっちこそ、僕の次に歴史の浅い王家じゃないか! 第一、クーデターなんていう野蛮な方法で王になった君に、尊敬の念を憶えたつもりはないね!!」
ゴーラス王は思いっきり立ち上がり、サルード王を睨みつける。
「てめぇこそ国民を騙し、王座を奪ったただのペテン師じゃねぇか!? 『聡明教』とかいう変な宗教作って、謀反を起こしたくせにッ!俺とやったこと一緒じゃねぇか!!」
サルード王も負けじと机を『バン!』と叩き、立ち上がる。
「心外だね! 僕がやったのは、君みたいな「軍事クーデター」じゃなくて、救いを求める信徒を暴虐無知な王から救うための、正義心溢れる「革命」だ!! 武力で制圧し、国民に従うよう無理強いする「脳筋野郎」には分からないだろうけどね!!」
「もういっぺん言ってみろ「お祈り野郎」!! 何が正義心溢れる革命だ!! 信徒はただてめぇに洗脳されてるだけじゃねぇか!! どこをどう見たら、信じてついてきてくれてるように見えんだよ! あぁ!?」
ヒートアップしていく議論。それはもはや誰にも止められないほど過熱し、白いテント内を悶々とさせていた。
「まぁまぁ、落ち着いてください」
二人の間にロメニウスが割って入る。一触即発の状態を防ごうとすべく、ついに行動を起こしたのだ。
二人と目が合う。王族という最高権力者、その二人分の怒りの矛先が自分へと向く。
しかし、ロメニウスは決して引かなかった。彼にはアナスタシア姫に勝つという、最大の試練を突破しなければならないからだ。
「ゴーラス王、サルード王。いがみ合うより、まずは手と手を取り合い、アナスタシア姫を倒すことを優先する……そう誓い合ったではありませんか?」
諭すようにロメニウスがそう言うと、ゴーラス王がそれに反発してきた。
「だからって、こいつの暴言見逃せって言ってんのか!?」
サルード王も、ゴーラス王のとげのある言葉に反論する。
「暴言ではなく、事実だ! 事実を言って何がいけないんだ!!」
サルード王が睨みをきかせる。と同時にゴーラス王も距離を詰め、拳を握り……今にも手が出そうになったその時──
「──他の王家を見返すチャンスを、みすみす見逃すおつもりですか?」
「……」
ロメニウスがはっきりとそう告げると、ゴーラス王とルークイド王は黙った。それを見て安心した様子のロメニウスは、再度二人に話しかける。
「あなたたち二人は歴史の浅い王族です。ゆえに、今まで幾度となく他の王族から馬鹿にされ続けてきました。ヴァニラ王国、レメナント王国、ライン王国、ノーランド王国、ソメリア王国、ワラント王国……あなたたちを馬鹿にしてきた王国は全員、アナスタシア姫に滅ぼされました。そのアナスタシア姫に勝てるかもしれないというときに、なぜ仲間割れなどするのですか!?」
ロメニウスはまくしたてるように話を続ける。
「アナスタシア姫に勝って見返してやりましょうよ! 今まで散々馬鹿にしてきた奴らに見せつけてやりましょうよ!! 自分たちは強いんだって! 歴史が浅くても、伝統が新しくても、それでも自分は王様なんだって!! 自分が王様でいてもいいって思えるように!自国民が自分の臣下であることを誇りに思えるようにッ! 多少無茶をしてでもアナスタシア姫に勝ちたいと思ったッ!! 違いますかッッ!?」
「……」
何も言い返せなかった。ロメニウスの言っていることは的を得ていたからだ。
降伏することもできた・・むしろ、そちらの方が正しい判断だった。だけど、自分たちはそれを選ばなかった。それは「みんなに認めてもらいたいから」に他ならなかった。
王族は自分の王家が一番だと言い張る。そしてまぎれもない事実だとばかりに、自身の歴史を見せつける。自分の王家は歴史が長いから、お前たちよりも上だ。私たちの王家は古き良き伝統があるから、お前らより上だ。確定した事実の上に立ち、新参者を見下してきた。
──それを払拭したかった。
プロメシア王国、五代目国王ゴーラス・ル・バルメド王。
ネザー王国、二代目国王サルード・クズハ・クロリオス王。
彼らの先祖は散々馬鹿にされ続け、屈辱を味わい続けてきた。その恨みを晴らすために。そいつらを見返すために。自分たちは今──戦っているんだ。
「サルード、すまなかった」
ゴーラス王がそう言い、頭を下げる。と同時に、サルード王が、
「こちらこそ、申し訳なかったです」
といい、ゴーラス王よりも一段と深く頭を下げた。彼らは頭を上げ、互いの瞳を見入る。情熱の籠った、同じ志を滾らせている目だ。
「……」
同じ境遇になった者同士にしか分からない言葉。それは無言の間を挟んで尚、テレパシーのような不思議な力で彼らの結束を強く固めた。
「サルード、レビィール城を落とすためにはもう一押し必要だ。お前の意見が欲しい」
「いいですよ」
二人は語り合った。手と手を取り合い、共通の夢である「打倒アナスタシア姫」を達成するために。皆に認められる「王」となるまで、語り合うことを選んだのだ。
(敵だった者同士が手と手を取り合い、国を作る。これが、ダグラス将軍の目指した世界か)
ロメニウスは目に涙を浮かべ、心に思う。亡きダグラス将軍の夢が未来につながった気がしたからだ。
束の間の休息──それは永遠のものと思われ、これからもずっと続いていく。そう──思われていた。
「──大変です! 敵の援軍がきました!!」
大慌てで入ってきた兵士に対し、ロメニウスが「数は?」と冷静に問う。兵士が生唾を飲み「三千です」と答えると、テント内を安堵の空気が包んだ。
「なんだ、たったの三千か。大した事ねぇな!!」
ゴーラス王がそう言い張ると、伝令兵が
「もう一つ、お伝えしたいことがあります!!」
と言い、手を震わせ、顔をこわばらせた。
彼のただならぬ様相に皆一様に首を傾げていたが、サルード王が
「どうしたの?」
と問いただす。
そうすると彼は一つ、大きく生唾を飲み込むと、はっきりとこう伝達した。
「「──シャドウ様が殺されました!!」」
「……」
無言で流れる絶望の間。それは広々としたテント内を窮屈にし、生きづらい空間へと変貌させていた。
「……シャドウが殺された?」
真っ先に口を開いたのはサルード王だった。そして、
『──ガシャン!!』
と大きな音を立て、持っていたワイングラスを投げつける。
「絶対許さないッッ! あの、蛮族どもッッ!!」
戦いはまだ──終わっていなかった。




