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第二十一話 レビィール城攻防戦

明日も20:00までに次話更新します。

 小高い山に囲まれた、小さな堅牢がある。


 ──レビィール城


 ラスト王国最南端、ウルスラ地方に建設された城塞の名だ。

 南側地域は緑が多く、それらを象徴するかのようにいくつもの山が連なっているが、ここレビィール城も、大小合わせて三つの山が周りを囲っている。これらを自然の城壁とし、唯一の弱点である山々の狭い通り道を門で塞ぐことによって、その強固性を盤石なものにしてきた。

 建設の発端となったのは、「エルドラ&リグルド商会」という南側の貿易を牛耳っている商会が、盗賊の被害に苦しんでいるという旨の上奏文を王都に宛てたことがきっかけだ。最初こそ「ただの盗賊ごときに城を構える必要はない」と文官達は一蹴していたが、不審に思ったアナスタシア姫が調べていった結果、なんとその盗賊が、敵国コーネリア商国から公認のお墨付きを貰い活動していたことが発覚した。

 そこでアナスタシア姫が敵対勢力の国家侵略だと銘打ち、城を構えた。それがここ、レビィール城である。

 当然だが、対処するのはあくまで「盗賊」であり「軍隊」ではない。したがって、他の城に比べて防御力は低く、設備も比較的古いものばかりだ。


<<ウォォォォォォォォォ!!>>


 そんなレビィール城は今現在、この世の地獄と化していた。理由は他でもない──「軍隊」という想定外の敵の侵略にあっているからだ。


「「アナスタシアの首を取れッ!!」」


 城壁の上にいるアナスタシア姫に向けて、敵将が啖呵を切る。その言葉を皮切りに、賊軍が一歩、また一歩とはしごを登るスピードを速めた。


「くそッ、キリがないッッ……!!」


 険しい表情でアナスタシア姫は愚痴をこぼす。そして剣を素早く抜き、はしごを登ってきた敵兵を一刀両断した。


「グアッッッ!!」


 はしごの頂上まで登りつめ、城壁に手をかけた敵兵が無残にも切り捨てられる。その断末魔は落下のスピードと共に小さくなっていき、やがて『ドサッ』という音によって終焉へといざなわれていった。


「なんで私まで戦わないといけないのよッ!!」


 アナスタシア姫は焦っていた。それもそのはず、通常、軍師が前線に出ることはまずありえないからだ。軍師の役目は軍の指揮を取ることであり、前線で戦うことではない。

 彼女は城壁の上にいた。敵兵がはしごで登ってくるのを阻止する、最前線の場所である。当然、こんなところに軍師がいるのは異常事態だ。そしてそれは──ラスト王国軍が追い込まれていることを、同時に示唆していた。


「立ちなさい! それでもあなたは、ラスト王国軍の一員なの!?」


 城壁の上でぐったりとする兵士にアナスタシア姫が憤慨する。ぴくりとも動かない兵士はすべてを投げ出すように手足を放り出しており、剣は……投げ捨てられていた。


「姫、その方は……もう……」


 横にいた兵士がアナスタシア姫を諫める。それを聞いたアナスタシア姫は少し驚いた表情をしたあと、兵士の顔を覗き見た。


「……」


 ──死んでいた。

 生気のない瞳で、アナスタシア姫を見つめていたのだ。


「クッ……!!」


 兵士から目をそらし、悔しそうに唇を噛みしめる。そののち、兵士の顔に手をあて、ゆっくりと彼の瞼を閉じた。


「いつになったら援軍がやってくるのよ」


 彼をゆっくりと置いた後、彼女は城下を見る。敵兵が一心不乱に迫ってくるのを、絶望色の強い瞳で見入る。


「……ウー」


 声にならない声とともに、はしごを登る足音が聞こえてくる。その足音は『カン、カカン……カン』と少しぎこちない様子で近づいていた。


「ウー、ウー、ウー」


 声が聞こえる。先ほど比べて、とてもはっきりとした声だ。

 しかし、どういうわけか言っている意味がまるで分からない。その声はまるで「人間に似た何か」の声だったのだ。


「しつこい男は嫌いなのだけど」


 アナスタシア姫は冷酷にそう言い放つが、男は構わずはしごを登り続ける。


「いい加減諦めなさい」


 男は返事をしない。その代わりにとばかりに城壁のふちに手をかけ、上に登ってこようとしたのだ。

 幾度もなく感じた違和感。それはまるで、死んだ人間と戦っているような、骸と対峙しているような。そんな違和感をかき消さんと欲するように、アナスタシア姫は剣を抜いた。そして、


「あなた。これで死ぬの──」

「──二回目でしょ」


 と言い、答え合わせをするように「先ほど切り伏せた腹の剣跡」と交差するよう、二回目の斬撃を浴びせる。


「グ、アア、ア……ア」


 二重に与えられた死に対し屍兵はしばらく耐えたが、やがて重心を崩し、地面に落下した。


「「ドサッ」」


 高さ十五メートル以上から落下したその男は二度目の敗北を味わった。手は擦り傷だらけで、足はあらぬ方向へと曲がり、腹は切り裂かれている。彼の生気のない瞳は、文字通り「二回目」の死を告げていたのだ。


「「──ポウッ」」


 彼の真下の地面に、魔法陣が浮かび上がった。四角と星の混合体が中心部を構成し、それを二重の丸が包み込む魔法陣だ。


「木帝流、体の型──」

「──凌霄花の舞い」


 二重の円と円の間から古代文字が浮かび上がり、それらが急速に回転し始める。と同時に、四肢を投げ出した彼の指が──ぴくりと動いた。


「バキバキ……バキッ」


 落下の衝撃で折れていた足が、聞くに堪えない音を鳴らしながら死兵を立たせる。

 登ってくる──ジグザグに曲がった指で獲物を握りしめ、再びはしごに手をかける。


「ウ、ウウ、ウー」


 生命の鼓動を感じさせないほど、ひどく単調で、不快な声が聞こえてくる。『カン、カカン……』と折れた足を引きずりながら、はしごに登ってくる音が聞こえる。


「アナスタシア姫。あれはやはり……『アドラー大陸の妖精』では?」


 ゾンビ兵の恐怖を払拭したく、兵士がアナスタシア姫に問いかける。それに対しアナスタシア姫は


「そうよ。まぁ、『妖精』とは程遠い能力ですけど」


 と、短く返事をした。


 ──城壁にはおびただしい数のゾンビ兵が張り付いていた。声にならない声をあげながら、ふらふらと近づいていたのだ。


「ウ、ガガ……ガ!!」


 一人、また一人と倒されていく。が、そのたびに操り糸に動かされるように立ち上がり、またはしごを登り始める。


「クソッ!よりにもよって、一番厄介な奴がくるなんて……!!」


 アナスタシア姫が悔しそうに唇を噛みしめる。そして、水平線のはるか先・・敵の本陣に目を向けた。


「──頑張って、私のお人形さんたちっ!!」


 杖を両手で握りしめ、小さな体で応援する女性がいた。

 緑色のミディアムヘアーをたなびかせ、百五十センチにも満たない華奢な体で屍兵を自由自在に操る彼女の名は、パメラ・ベル・フレイヤ。木帝流の使い手で、敵国コーネリア商国側の竜の託宣者である。

 そして彼女は、アドラー大陸七大美女の一人でもあった。冠する名は──『アドラー大陸の妖精』。


「頑張らなかったら──」


 妖精は言う。

 優しい瞳を徐々に曇らせ、険しい表情をし……そして──


「──お仕置き……ですからね」


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