02 核融合炉
クラウス中佐とエヴァルト大尉は突き当たりの階段を登って、艦橋まで上がってきた。
艦長が入室してきたことに気づいた何人かが、作業の手を止めて敬礼する。クラウス中佐はそのまま作業を続けるように伝える仕草を取ると、彼らは再び作業に戻っていった。クラウス中佐は艦橋の一番上に立って指揮をとっている当直航海士に歩み寄った。
「スール少尉。順調かね?」
スール少尉も今年、士官学校を卒業して着任した新任の少尉である。最初は戸惑っていた彼も今では航海を任せられる3等航海士であった。少尉はクラウス中佐に気づくと少し驚き緊張しながらも、応えた。
「はい。現在、第3ワープホールに向けて航行中です。周囲に本艦の航行に支障をきたすような他船は存在しません。また、ワープホール付近において航行に支障をきたすような現象は発生しておりません。」
「次の管理局との報告は後何分後が理想かね?また、ワープホールに進入するためには、針路を変えなければならないが、それはいつ頃になりそうかね?」
「次の報告は10分後です。変針は20分後頃になると思います。」
スール少尉の素早い報告にはまだ未熟さもあったが、すでに慣れたような感じが伝わってくる。スール少尉は慣れるまでは少し時間がかかったが、慣れてしまえば彼自身の頭の良さを存分に活かしてくれていた。
「分かった。変針までの指揮は任せる。管理局には私が連絡しよう。変針後はすぐに航海長に代わってくれ。」
「承知いたしました。」
そう言って、スール少尉は指揮に戻っていった。クラウス中佐は艦橋に設置されているテーブルモニターを見る。
それは電子宇宙航路図、通称ECDISである。あらゆる航行に関する情報が一眼見てわかるようになっているその機器には、スール少尉に伝えられた時間が表示されていた。
(スール少尉はもう一人前だな。次の報告まで10分…、この間に機関部に連絡を取ろう。)
ECDISを眺めながら、クラウス中佐は機関部の番号を押して呼び出した。機関部は少し忙しいのであろうか、少し間が空いてから画面越しに機関長であるマクス大尉が出てきた。少し前まで作業をしていたのだろうか、少し顔と服が汚れているように見えた。
「艦長でしたか。おはようございます。機関部に何か御用で?」
そう言ってクラウス中佐に尋ねてきたマクス大尉は一兵卒から機関部で叩き上げられた軍人であり、クラウス中佐よりも軍歴は長い。すでに50歳のマクス大尉には昇進の話もきているのは知っていたが、ことごとくそれを断っているとのことであった。彼に言わせれば、佐官になったら、自分のやりたいことがやれなくなってしまうらしい。
「汚れているのは、やはり核融合炉を修理していたからか?」
「お察しが良いですな。そうです。核融合炉を先ほどまで修理していました。話については核融合炉についてですかな?」
「まあ、そうだな。私の方でも一応確認を取っておこうと思ってな。」
「艦長も大変ですな。」
「それはお互い様でしょう。」
両者共にエヴァルト大尉のことを頭に浮かべながら苦笑する。
「まあ、そうですな。核融合炉はまだまだ不安定ですね。高出力下では出力が安定しない。だから、先ほど通りメインエンジンのみで航行するようにしてくれ。」
「了解した。いつ頃直りそうかね?地球まで直らなさそうであれば、修理を手配することもできるが。」
「そうだね。この不具合はおそらく耐熱隔壁の弁に問題が生じているから、地球で交換してもらった方が良いかもしれん。」
「予備は無いのか?」
「残念ながら、ここには無いな。地球までは持つと保証するけど、それ以上は知らんな。」
「了解した。地球で交換部品を注文しておこう。」
「艦長、助かるよ。来たら1日あれば交換できると思っているから、よろしく。」
そう言うと、マクス大尉は画面を閉じて作業に戻っていった。
(やはり、マクス大尉は頼りになるな。)
彼の持つ豊富な経験は、新人の機関員を育成するという点においても非常に助かっていた。
地上勤務にして学校で教鞭を取らせた方が、軍としてもよっぽど嬉しいはずだが、大尉が断固として首を縦に振らないので、仕方なく巡洋艦の機関長を務めさせて、細々と新人を送り込んできているという状況であった。
軍の注文画面を開くとクラウス中佐は忘れないうちに、手早く頼まれた部品を注文した。




